ACT.76 レオーネ/オリジン(Ⅳ)
「大丈夫、お姉ちゃんがアベルを守るからね」
▽▲▽
「──アベル、貴方はアベルよね?」
子供部屋で弟の肩を掴んでそう迫るレオーネ。
心の中に燻る不安を打ち消そうと、らしからぬ強い言葉で迫るレオーネに対しアベルは。
「僕は僕だよ、お姉ちゃん」
ニコりと笑いながらそう返した。
その笑顔に、小さく息を吐いてひとまず安心をするレオーネ。
肩を強く掴んでいた手を外して、弟を抱きしめる。
アベルではなく、自分を安心させる為に。
「大丈夫、きっと誰にもバレたりしないわ。きっと大丈夫よ、全部今まで通りになるわ」
これからもきっと、今まで通りの日々が続くはずだ。
アベルは死ななかったし、私も間違えなかった。
あの日のことなんか、全部なかったことにしよう。
「──だといいね、レオーネ」
──この時、彼女はアベルの真意には気がついていなかった。
彼は、自分の事を"アベル"だとは言っていなかったということに。
▽▲▽
──祝祭の日から、数日が経過した。
ここ数日、街の様子を見に毎日少し長めの散歩に出ることがレオーネ日課になっていた。
街の大通りをキョロキョロと周囲を見渡しながら歩くレオーネ。
「──大丈夫そうね」
彼女とアベルの周りでは、あれから特別おかしなことは起こってない。
だが、いつどんな事が起きるかなんて彼女には全く予想がつかない。
両親曰く、転生者が現れると聖女ステラが信託を受けるらしい。
そして彼らが悪事を働く前にやってくるのが、聖女ステラの黒い聖騎士だと。
「アベルはまだ聖女さまに見つかってないみたいね」
黒い鎧の姿がない事を確認すると、誰にも聞かれないように独りごちる。
時間が経つにつれて、レオーネの不安はどんどん大きくなっていった。
アベルはあれから一人でいなくなる時があるし、この秘密を誰かに話したら大変なことになりそうだというプレッシャーもあった。
「どうか、このまま何もありませんように」
そっと目を閉じて女神に祈る。
遠くで鐘のなる音が響き、はっとした表情で彼女は顔をあげる。
考えごとをしながら街を彷徨っていたら、いつの間にか日が傾き始めていたことに今気がついたのだ。
「早く帰らないと」
あの日を連想させる赤い光を恨めしく思いながら、彼女は駆け出す。
当然、あの近道は使わない。
──そしてこの選択が、のちの彼女の運命を決定づけることとなった。




