ACT.73 レオーネ/オリジン(Ⅰ)
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「──異能の副作用で人を喰わなきゃならないなんてな」
──同じだと、レオーネは思った。
否、正しくは思い出した。
まざまざと思い出してしまった。
今の自分を形作る原点となった事件を。
己の犯してしまったぬぐいようのない最悪の罪を。
今なお色褪せる事のない悍ましい悲劇を。
「あ、あ、あぁ、ぅ」
込み上げてくる強烈な吐き気を抑えられない。
脳裏を駆け巡る強烈な感情の奔流は、瞬く間に彼女の意識を奪った。
そして、彼女の意識はあの時に戻る。
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──レオーネ・ゴドウェン。
彼女は裕福な商人の家系に産まれた、少し変わった少女であった。
生まれつきとある特殊な体質を持っており、何もしなくとも筋肉が発達する。
更にその筋肉の維持と成長故に、一日に沢山の食事を必要とした。
それこそ、同年代の少女と変わらない通常の食事量では餓死してしまう程に。
もし時代が違えば、もしかしたら彼女は差別や虐待にあっていたかもしれない。
家族の理解がなければ、すぐに死んでいたかもしれない。
だが、彼女は非常に恵まれていた。
家庭は裕福であった為、彼女を飢えさせることは無く。
そして家族は、変わっていた彼女に対しても惜しみない愛情を持って育ててくれた。
優しい両親と兄に可愛い弟。
そんな家族に囲まれて、当時十歳のレオーネは幸福であった。
──幸福の絶頂、であった。
そして、ある日。
街で小さな祝祭が行われている昼下がりのことだった。
「アベル、いっしょにお祭りに行きましょ!」
父から貰ったお小遣いを握りしめて彼女は弟であるアベルを遊びに誘った。
アベルは、快活で活動的なレオーネとは正反対の大人しい少年だった。
街でせっかくお祭りをやっていて、美味しそうな出店も芸人も来ているというのに部屋の片隅で絵本を巡っているような内気な子であった。
「え、でも僕はご本読んでて」
「天気もすごくいいわよ!」
アベルの言葉を遮り、部屋の木窓をぱっと開け放つ。
雲一つない晴天と、遠くから響く喧騒が締め切った暗い部屋に流れ込んできた。
「ご本はあとでも読めるでしょ? お祭りは今しかないんだから!」
この時のレオーネは、アベルにお祭りの楽しさを教えてあげたくて仕方がなかったのだ。
可愛い弟の喜ぶ顔が見たかった。
「──あ、うん。じゃ、じゃあ、行こうかな?」
絵本を閉じてそう言ったアベル。
そんな彼の手を引いて、レオーネは駆け出した。
──そして、これがこれから起こる悲劇の引き金となることを彼女はまだ知らない。




