ACT.70 トラウマ(Ⅰ)
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「屯所に重要な証拠置いたりしてるかな?」
「ベイリー団長は妻子持ちですから、案外自宅に置くより安全ですよ」
ライとレオーネの二人は小声で話しながら、人目を避けて移動し、憲兵団の屯所に到着する。
「それに木を隠すなら森の中、資料を隠すなら──」
「資料の中ね、成る程」
そう言いながら周囲を確認して屯所の裏手、建物の角に移動する。
背中をぴたりと壁に這わせて隠れながら、角から向こう側の様子を探る。
この地点は、ライが事前に調べてきた憲兵団の巡回ルートに当たった。
そして案の定、二人一組で巡回任務にあたる憲兵たちが周囲を見渡しながら角の方へ歩いてくる。
時間が早朝ということもあり、ふたりの内ひとりは気の抜けた顔で欠伸を噛み殺している。
そんな彼らに対して、心の中で申し訳ないと小さく謝罪してからライとレオーネは飛び出した。
「──な、ぁ?」
するりと建物の影から飛び出した彼らは、油断している二人の憲兵の背後を瞬時に取る。
そしてその首に腕を回して、一気に締め上げて意識を刈り取った。
ほんの数秒で憲兵たちを無力化させたライとレオーネは彼らを物陰へ引きずって運び──身包みを剥がした。
「改めて、憲兵団の制服って結構イカしてるね!」
「そうで──」
臙脂色の制服に袖を通して、少し楽しげにレオーネは笑いながらそう言った。
話しかけられてつい其方を見たライは──。
「──すかね!?」
──男女兼用のその制服は、幸運にもライにはぴったりだったがレオーネは胸がキツそうであったのをチラッと見てしまい、ライは思わず目を逸らした。
身包みを剥がし終えた憲兵は両手両足を拘束し、口を塞いで物陰に隠す。
こうして憲兵に変装したライとレオーネは制服の帽子を深く被って顔を隠し、巡回任務にかこつけて屯所の中に侵入を果たした。
「お疲れ様ですー」
怪しまれないようにすれ違う憲兵たちに軽く挨拶をしながら、足早に廊下を進む。
二人が真っ先に向かうのは無論、団長の執務室。
部屋の主が出勤する前に、部屋を暴ききらないといけない。
ともかく時間との勝負であった。
しかし、執務室の鍵を破壊して中に入った二人はここで絶句する。
「レオーネさん、これちょっとマズくないですか?」
ライが思わず顔を引き攣らせて呟く。
対するレオーネも大きなため息を吐きながら、半笑いでこう言った。
「うーん、がんばろ?」
──執務室は、紙の山で埋もれていた。
予想外に、そして絶望的な感じに整理整頓が終わっている部屋を見て、ライは半ばここから証拠を見つけるのを諦めたくなった。




