ACT.68 不利な敵地で(Ⅳ)
「もしかして、今回の転生者の異能は単純な再生能力じゃないのか?」
「うん、その可能性が高い気がする」
口元に手をあてて小首を傾げるレオーネ。
この場合、単純な再生能力じゃないという情報はかなり有用だ。
転生者を相手にする場合、その異能の分析と攻略は必須事項である。
超常的な力を有する相手の手の内を知らなければ、互角以上に戦えないからだ。
いやむしろ、転生者は異能に特化している為それ以外の戦闘技能に関してはライたち粛清騎士の足元にも及ばない。
だからこそ、異能の正体さえ掴めれば勝機は十二分にある。
──と同時に、異能の誤 誤認は致命的な結果を生む最大の要因でもあった。
「だから少しでも手掛かりが欲しくて、ね?」
レオーネのその言い分にライは黙って首肯する。
この証拠が無ければ、真の能力を誤認したまま戦って万が一があった可能性がある。
だからこそ、彼女は不労者たちにも声をかけて人手を確保してまで証拠探しをしたのだ。
「それと、この人たちの話も聞きたかったし」
「話?」
ライはそう聞き返しながら不労者たちの方に向き直る。
彼らはライに対して改めて姿勢を正す。
赤ら顔で酔いはあるはずだが、その顔は真剣そのものであった。
「最近、どうもスラムの人間が減っていってるみたいでして」
「それは変、ですか?」
スラム街というのは元から居場所のない人たちが住まう場所であり、人の出入りは激しい。
何か事情が変われば誰に言うでもなく出ていくし、新たに入居するにも誰の断りも要らない。
むしろ定住しつづける者の方が少ないであろう。
だからこそライの感想はあながち見当違いではない。
──だが、それはあくまで部外者視点の話だ。
当事者たちの話は当然の如く違う。
「いや変な消え方してる奴多いんですよ、騎士様」
「荷物も何も持たずにとか、寝たきりで動けない筈のジジイババァがいなくなったりとか!」
「挙げ句の果てには、変な化け物を見ただんて噂も」
口々にそう述べる彼らの言葉を聞き、ライは口元に手を当てて考え込む。
「そんな話、街では聞かなかったですね」
日中にレオーネと別行動を取っていたライ。
本来の目的とは別に、その最中にも様々な情報を集めてきたつもりだったがそんな話は耳にしていなかった。
やはり、スラム街とプロキシマ市街には貧富以外にも大きな隔たりがあるのだろうとライは推察する。
「私も最初は街中に転生者が出たのかと思って調べてたんだけど市街には何の異常もなくって。それで試しにスラム街の方に夜行ったら」
「お、襲われてたのを助けてもらいました」
レオーネの言葉を継いだのは、薄汚れて背骨の曲がった小男であった。
「スラム街の人襲ってた理由もイマイチわからないし、なんなんだろうね」
そう言って悩ましげに亜麻色の髪をかきあげる仕草をするレオーネ。
見目麗しい彼女の絵になるその仕草に、その場にいた男性陣は思わず見惚れる。
なんとなく彼らがレオーネに向ける視線が気に入らなくてライは大きく咳払いをする。
咳払いの声で我に返った彼らを眉間に皺を寄せて睨むライ。
それはまるでカエルを睨む蛇──というより、無防備な姉に寄りつく悪い虫を牽制する弟のようであった。
「──ふふっ」
そんなライの姿を見て、思わず彼女は微笑む。
レオーネからは、ライのこういう年相応な反応は非常に好ましく見える。
最年少14歳から粛清騎士として殺伐とした世界に踏み込んだ彼の、微かに残った少年らしさ。
それが彼女には堪らなく愛おしく見えた。
「なんです、その顔?」
むすっとした、不機嫌そうな顔でライはレオーネに尋ねる。
そんなライと正反対のにこやかな笑顔で彼女は答える。
「ライ君は相変わらずかわいいなぁって、ね?」
レオーネのその答えに、ライはとても嫌そうな顔を返した。




