ACT.62 聖騎士と憲兵団(Ⅱ)
ジャクソン・ベイリー。
プロキシマ駐屯憲兵団の長を勤める人物であるが、その見た目や纏う雰囲気には厭世家めいた感じがある。
眼光こそ鋭いものの肌は陽にあたってないのか白く、腕も細い。
憲兵たちを束ねる立場でありながら、ライやレオーネといった武官というよりもカーティス特務神父のような文官といった風貌である。
彼を見て組織と比べて不釣り合いな──とは、ライは思わない。
むしろ、こういった人物が上にいる組織の方が優れている筈であると師であるアスラン・アルデバランから学んでいた。
全体を俯瞰して、冷静な血の通わない判断を下せる人物が組織長としては望ましい。
憲兵団という戦闘が必要な職務の長であるなら、非戦闘職の人物が望ましい。
何故なら、なまじ現場の感覚を知っているとソレに引きずられて正しい決断を下せない場合があるからだ。
そういった意味では、目の前の男は百点満点だろう。
ジャクソン・ベイリー団長の簡単な情報は事前に受け取った指示書にて、ライは確認済みであった。
──今回の要注意人物として。
「そもそも、僕たちと貴方たちの力関係については過去に前国王が犯した間違いによる所が大きいはずですが?」
言外に"お前ら側の自業自得"という意味を込めるライ。
ライとしては──否、聖教会側としては、その失敗の尻拭いをしただけでここまで難癖つけないでほしいという認識だ。
感謝こそあれ、恨まれる筋合いはない。
──それにその一件について、ライにはかなり思うところがあった。
前国王が犯した失態とは、10年ほど前に聖女の影響力を危惧し、彼女の訴えを無視したことから始まった悲劇。
信託を無視し、聖教会側に頼らず転生者へ独自の対応をしようとした結果起きた最大級の転生者被害。
即ち、【アルドラの乱】と呼ばれる事件を引き起こした原因の一端である。
「逆恨みも程々に」
少し強い口調でそう言いながら、ライは書類にサインを終えて席を立つ。
ベイリー団長に一瞥もくれず、彼は部屋を出ようとドアに手をかける。
「我々も貴方たちのお世話をちゃんと出来るほど暇じゃないので、手早くお仕事を終えられるように願ってますよ」
ライの後ろ姿にかけられた"お前らには協力しない"という含みのある言葉。
彼のその言葉を敢えて無視して、ライは部屋を後にする。
カツカツと音を立てて屯所の廊下を進みながら、ライはボソリと呟く。
「何かありそうな気がする」
事前に受け取っていた情報以上の何かを感じ取ったライは、今回の一件と並行して彼についても調べようと決めた。
アルドラの乱については、多分そう遠くない時期に特別編で書こうかと思います。




