ACT.61 聖騎士と憲兵団(Ⅰ)
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狭い部屋でふたつの音が不協和音のように混ざり合わずに同居する。
ひとつは居心地悪そうに机に座り、黙々とレオーネの釈放に必要な書類に筆を走らせるライが発する音。
そしてもうひとつは、ライの対面に座った神経質そうな男のカツカツと指先で机を叩く音だ。
「粛清騎士殿、何ァ故ェ我ら憲兵団と其方がこういう関係なのか知ってますかな」
臙脂色の憲兵団の制服に袖を通した面長で色白、年齢は四十代程。
考えが読めない細い狐目から、ライを値踏みする舐めるような光が漏れる。
「所属が、仕える先が違いますからね」
「えぇ、我らは国に其方は教に。だが、役割は──」
そう言いながら、両手の人差し指を顔の前で交差させる。
酷く耳障りな、粘着質な声で男は囁く。
「──混じっちゃってるよ、ねぇ」
「仕方がないですね、そこは」
男を一瞥もせずに、ライは返答する。
彼ら憲兵団は聖ルバウス王国に所属し、国王を頂点に据えて国内の治安維持に努める組織。
反面、ライたち粛清騎士もとい聖騎士とは、聖教会が自らの敵に対して振るう独自に保有する武力である。
転生者や邪教徒相手にする場合はどんな行為に及んでも基本的に王国の法に接触しないというある種の特例が適応されている。
──だがそれは。
「面白くないよねぇ」
「で、しょうね」
治安維持を預かる憲兵団からしたら、非常に目障りである。
罪を犯した者を捉え、法で裁かせるのが彼らの使命であるがその者が聖教会の敵だった場合は管轄から外れてしまう。
そしてその件で彼らの管轄下でどんなことを聖騎士たちがやっても、彼らに咎めはない。
憲兵団と聖騎士、王国と聖教会。
このふたつの関係性は、対等ではない。
これはひとえに現国王と聖女ステラのパワーバランスが対等でないことが原因なのであるが、これを口にすると不味いということはライ自身も重々承知しているので、不用意な事を言わないように気をつけている。
一部例外的に手を取り合う場面はあるが、基本的には仲が悪くなっても仕方がない組織関係であった。
「早めに来てくれて助かりましたよ、我々もあの汚物を牢屋にいれたままにしとくのは嫌でしてね?」
これ見よがしに鼻を摘んで顔の前で手のひらを振るジェスチャーをする男。
その姿に流石のライも少し違和感を感じた。
ここまであからさまな挑発は今時珍しい。
何か別の意図があるのではないのか、という思考がライの脳裏を掠める。
「確かに彼女は酷いですが、あまり強い言葉を使うのはよろしくないですよベイリー団長?」
ライはそう言って、初めて眼前の男──プロキシマ憲兵団の団長であるジャクソン・ベイリーに顔を向けた。




