ACT.59 粛清騎士レオーネ・ゴドウェン(Ⅱ)
転生者は初めて、自身の異能を加味した上で対等以上の敵と出会う。
──だが、ソレが何だ?
彼には異能という絶対の力が、自信があった。
だからこそ努めて冷静に、目の前の粛清騎士に対峙する。
冷静に、冷静に──切り取られた足を再生させた。
「へぇ、そういう異能かぁ」
人間離れした機能有する肉体に、その肉体の欠損を瞬時に補える再生能力。
非常にシンプル故に、最も戦いに向いた異能を見て彼女は感嘆する。
「聖女サマは、知ってて私をここに寄越したのかな」
可愛らしく小首を傾げてそんな事をいうレオーネ。
しかし、怪物の異能を初めて確認した彼女に動揺や焦りは無い。
それは何故か。
「ホントに私向きの転生者だね!!」
引き抜いたばかりの右手の斧を振りかぶって一息に投擲する。
怪物の眉間に目掛けて投げられたその斧を、彼はタイミングを合わせて腕を振るって弾く。
そして手持ち武器を一本失ったレオーネに追撃しようと彼女に再び視線を向ける──が、いない。
レオーネが放った一投の真意は、視線誘導。
人間は自分に向かってくる投擲物をどうやったって無視できない、絶対にみてしまう。
その本能を利用して意図的に死角を作り、その死角を潜り抜けて肉薄したレオーネは横薙ぎに左手の斧を振るい怪物の脇腹を内に納められた臓腑ごと捌く。
「がぁぁぁぁぁあああ!!」
絶叫が響く。
骨肉に由来する痛みと臓腑からくる痛みでは、同じ痛みでも質が違う。
再生能力がある分普段から無茶な戦い方をする怪物は手足の欠損程度の痛みには慣れているが、内臓由来の痛みには慣れていない。
激痛に怯んだ怪物に対して、レオーネは続けざまに斧を縦横無尽に振るう。
多くの傷が生まれては治り、痛みは続く。
──再生能力の限界値まで。
粛清騎士序列四位レオーネ・ゴドウェンの二つ名は"最速"である。
それは、攻撃速度のみを指すのではない。
身体能力に任せた殲滅速度が、粛清騎士たちの中で最も早いことが由来である。
激痛の中で不意に怪物が遮二無二に両腕を振るいレオーネを弾き飛ばそうとするが、彼女はソレをいなしながら更に斬撃を放つ。
そんな中、振り子の様に雑に振るわれた剛腕がレオーネを捉えたのは、まったくの偶然であった。
「っ!」
その攻撃の直撃にレオーネは受け身をとって防御こそ出来たものの木の葉の様に軽く吹き飛ばされ、直近にあったゴミ山にそのまま衝突する。
衝撃に崩れたゴミ山から残骸を掻き分けて彼女は起き上がり、開口一番に叫ぶ
「くっさい!!」
ゴミ山の中に偶発的に生まれた閉鎖空間で、何か生ゴミか何かが腐っていたらしく異様な悪臭が噴出する。
それに思わず顔を顰めた彼女に、怪物は追撃を放つ。
先程の仕返しとばかりに、彼は彼女が投げてきた斧を拾い投擲する。
「舐めるな!」
空を斬るように投げられたそれをレオーネは手斧で弾き軌道を逸らして防ぐ。
金属製の斧と斧がぶつかった瞬間、火花が散る。
── 悪臭が噴出した間近で。
「──あ、やばッ」
レオーネが嫌な予感を察知するとほぼ同時に──。
夜の暗闇を弾け飛ばす火の手が、ゴミ山から上がった。




