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ACT.54 答え合わせ(Ⅴ)

▽▲▽


「君が転生者のイシガミ・シロウっスね。事後確認で申し訳ねぇけど」


 転生者イシガミ・シロウが目覚めると、自分の胸に深々と短剣が刺さっていた。


「──ッは、ぁあ?」


 エルトール伯の屋敷の裏手の人目につき辛い焼却炉横に隠れていた彼はもう一人の粛清騎士によって意識のない身体を引き摺りだされ、致命傷を受けていた。

 その騎士──ノア・ローは目覚めた彼の瞳を覗き込み、首筋にガントレットを外した素手を当てる。


「あぁ、無理に話さなくていいッスよ。──散瞳と脈拍から正解かどうか判断するんで」


 しばらくそうやって彼の様子を観察し、ノアは首筋に当てていた手を引っ込める。


「はい、やっぱりアンタが転生者ね」


 そう言ってノアは、胸に刺さったままの短剣をぐりっと捻る。


「あ゛、あ゛あ゛あ゛っ!?!?」


 転生者が激痛に呻く。

 わざと広げた傷口から止めどなく赤い色をした命が流出していく。


「うん、先に謝るよ。()()()()()()ダメージが入ると憑依が解除されるっぽいから、なるべく痛くして殺すから」


 更にその短剣を抜き差しして既に致命傷を受けている相手に対し、悪戯に激痛を増やすノア。

 この行為の理由は、別にノアが嗜虐的な趣向を持っているからという訳ではない。

 ノアは()()()()()()のだ。

 万が一、息絶える寸前に自身に憑依されて自死される可能性を。

 死を覚悟した人間は何をするかわからない。

 だからこそ、ノアは周到に殺す。

 やり返される可能性すら、限りなく殺す。


 万が一を、起こさせない。


「先輩にわざと派手に事件を起こさせれば、アンタは出て行かざるを得なくなる。そして、アンタ自身が事態を把握するには絶対に自分自身の目で見るしかない──ってジブンは思ったんスよね」


 ざくざくと、執拗に痛覚を刺激するように短剣で胸を刺し続ける。


「この屋敷に多分アンタは居ないとは踏んでたンで、じゃあコッチで事件が起こったならアンタ自身が見にくるしかないじゃん?」


 ノアは考えた。

 リスクを考慮するなら、転生者本人はなるべく屋敷に居ない方がいい──エルトール伯とは関わりが薄ければ薄い方が身バレの可能性が減る。

 だがそれは逆に、エルトール伯側で事件が起こったなら自身が一番に駆けつけて様子を確認しなければならない。

 屋敷で、誰に何が起こっているのか。

 それを確認せずに誰かに憑依してしまったなら、場合によっては非常に不味いことになるからだ。


「だから一旦自分の目で確認してから誰かに憑依するのが一番良い。その時本当の肉体が無防備になるから、この近辺に隠して、ね?」


 屋敷で事件が発生して、それを実際に確認した後また町や安全圏に戻ってからメイドに憑依するというなら時間がかかりすぎる。

 だから、この場合は屋敷近くに身体を隠すしかないとノアは踏んだのだ。

 ──結果的に、それは大正解であった。


「先輩が派手に立ち回ってくれたお陰で、誰にも邪魔されずに探せて助かっ──あ、死んでる」


 転生者自身に今回の答え合わせを伝えている最中だったが、彼がもうコト切れたことに今更気がつくノア。

 そして淡々とノアは血に濡れた短剣を転生者の衣服で拭いて、鞘に仕舞う。


「さて、じゃあ先輩の元に急ぎますか。下手すると勢い余ってエルトール伯も殺しちゃいそうスからね。それは流石に止めないと」


 ノアは死体をそのままに、何の感慨も無さげに立ち上がってその場を後にする。

 その様子は、人を一人殺した直後にはとても見えない。


「あ、そうだ」


 最後に彼は何かを思い出したように立ち止まって、振り返る。


「この前、お酒奢ってくれてありがとうございました」


 ノアは、もう何も言葉を返せない死体に──最初に二人が来た晩に共に酒を呑んだその男に、今更すぎる礼を言った。

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