ACT.53 答え合わせ(Ⅳ)
転生者は、奥歯を噛み砕かんばかりに強く噛み締めライを睨む。
その表情は、暗に彼の言葉が否定しようの無い事実であることを告げていた。
「それは誰だ。貴様は、いや貴様らは何をしようとしている。答えろ」
一歩、前へ踏み出す。
絶対的な死が、転生者に迫る。
「い、今俺を殺したって意味はねーからな! この女が死んだって、俺は別に──」
ミスリードする為に保ってきた今までの女性的な口調を忘れ、捲し立てる転生者。
「それが何だ」
「──は?」
だが、その場しのぎで牽制のつもりで言った言葉を、ライは一言で切り捨てる。
意に介さないと、無意味だと。
「今ここでその少女を斬り捨てたなら、貴様は次の身体を用意してこの屋敷に向かわねばならない。──それだけの時間があれば、僕に何が出来ると思う?」
ゆらりと、煉獄の幽鬼を彷彿とさせる動きでライは首を傾ける。
その先にいるのは、エルトール伯。
逃亡の意思を失ってしまった、それでいて重要な証拠を山ほど抱え込んだ一般人。
その意図を汲み取った瞬間、転生者の頭に血が昇る。
怒りが、込み上げる。
「お、お前らは転生者だけじゃなくて一般人まで殺すのか!? 何が聖騎士だ巫山戯るなよ殺人鬼どもが!!」
転生者は叫んだ。
敵対する、聖騎士を名乗る殺戮者を相手に。
怒りを、彼なりの義憤を叫んだが──。
──それは、まごう事なき失言であった。
その発言は、暗にいくつかの事実をライに告げたと同意義であった。
一つは、同じ転生者の仲間がいるということ。
二つに、その仲間の内の誰かが既に粛清騎士に殺されているということ。
三つ目に、一般人に対してのある程度の配慮をしているということ。
こと三つ目に関しては驚くべきことだ。
今までの転生者たちは、一般人を気にかけることなど全く無く、傍若無人な振る舞いや事件を重ねるケースが大多数だったからだ。
異能を有する転生者は、非力で凡庸な一般人を人と認識していないのである。
だからこそ、この発言は失言だった。
発言者の意図しない情報をライに、聖教会側に渡してしまったのだから。
そして、またその理由とは別に──。
──その台詞は、ライにとっての禁句でもあった。
「転生者風情が、人の道理を説くだと」
ライの内に秘めた激情が、噴出する。
臨界を超えた憎悪が、憤怒が、殺意がその場の体感気温を一気に低下させる。
ギョロリと限界まで見開いた瞳が動き、血に伏す転生者を射止める。
「ひっ」
引き攣るように笑ったのは、誰だったか。
ライが問答無用に転生者の首を、憑依された少女諸共断ち斬ろうとした時だった。
がくん。
慄いた表情のまま固まっていた転生者は──いや、少女が気を失い、身体を床に倒した。
瞬間、ライの身体から殺気が抜ける。
抜き身の剣をしまい、そしてひとりでに呟いた。
「意外と早かったな、ノア」
自分で書いておいて何だけど、相変わらず主人公がしていい描写じゃないわ……。




