ACT.51 答え合わせ(Ⅱ)
振り上げた黒刃が翻り、背後に迫った影を切り払う。
牽制として放ったその斬撃は空を斬り、影は後方へ跳ぶ。
「また会えたな、転生者」
「ほざけ」
ライの言葉に醜い悪態を吐くのは──先程階段でへたり込んでいたメイドの少女。
しかし、その様子は尋常では無い。
醜く歪んだ表情に、殺意を滲ませた瞳。
そしてその手には、この執務室にあったであろう鉛製の鈍器。
彼女の姿はとてもじゃないが先程ライの殺気に失禁していた少女には見えなかった。
「やはり、守りより攻めの姿勢の方が僕の性に合ってる」
「騎士の言うセリフじゃねーな」
「ただの騎士ならな。僕たちは粛清騎士だ。教えを守り、内敵を排するのが使命だ」
ちゃきっ、とライの手元で刃が鳴る。
射抜く様な視線は、転生者が憑依したメイドを見据える。
一挙手一投足を見逃すまいと彼女の挙動に最新の注意を払いながら、ライは口を開く。
「だが、これではっきりした」
──ここから先は、答え合わせだ。
「貴様の異能には厳しい条件がある。そして、僕やエルトール伯には憑依できない」
彼女からの返答は、ない。
厳しく睨め付けながら、ライは言葉を続ける。
「今、エルトール伯を殺そうとした瞬間に何故その少女の身体に憑依したのか。──不自然じゃないか、凶行を止めたいなら僕に直接憑依すればいい、それが出来ないならエルトール伯に憑依して逃せばいい」
他者に憑依し、操ることが出来る。
それは非常に有用な異能に違いはない。
だが、だからこそ理に沿わない使い方をするならそこだけが目立ってしまう。
だから、転生者を誘き寄せて更に詳細な条件を特定する為にこの凶行──否、強行策をノアは提案したのだ。
何故わざわざ少女の身体を、身体的な能力に劣る少女の身体に憑依したのか。
いや、せざるを得なかったのか。
「それなのに貴様はわざわざ少女の身体に憑依して僕を妨害しに来た、つまり今この屋敷にいる人間では彼女にしか憑依できないんじゃないか?」
「──黙れ」
少女は震えるほど強く鈍器を握りしめて答える。
「昨日の襲撃は僕たちを殺す為じゃなく時間稼ぎの為にやったんだろう。わざと異能を見せつけて、より警戒を強くさせて僕たちの動きを鈍らせる。そして、その隙にエルトール伯を逃がそうとした」
そこまで言って、ライは視線を動かさずに剣をさっと振るった。
斬撃は床を抉り、逃げようと這って移動してたエルトール伯を牽制する。
「そしてもう一つわかった、エルトール伯は転生者に脅されて協力したんじゃなく自発的に協力していたんですね」




