ACT.48 蜘蛛の巣(Ⅲ)
大変お待たせしました。
「正義の味方の騎士様なら、無辜の民を見殺しなんてしないわよね」
サンソンという名前らしいその男。
その様子は、先程までとは一変している。
粛清騎士の存在に怯えていた彼は、今はその騎士であるライ達に対して人質を取って強拍紛いの行為に及んでいた。
「お前が、転生者だな」
ライが構えたまま静かに問いかける。
それに対して、彼はニヤリと意味深に笑う。
やはりそれは正解のようだった。
ーーだが、それはサンソン氏が転生者であることとイコールではない。
サンソン氏の右手に握ったガラス片は彼の手も傷を付けている。
先程までの様子の急変ぶり。
そして、その前に襲撃を行った少年とジョンソン氏。
ライが知り得る過去の報告書にも、類似する特徴のある異能があった。
それはーー。
「ーー憑依か」
自身の意識を他者に移して操る異能。
自らの肉体損傷を厭わない行為や、急変する人々。
その特徴は、聖教会が確認済みの異能の中でも上位に入るやっかいな異能と類似点が多い。
「どうだろうね。確認の為に、一回この男を殺してみたらどうかしら?」
女性的なキミの悪い口調でそう転生者は問いかける。
この場合、おそらくサンソン氏の身体を攻撃しても転生者自身には影響がないのだろう。
資料を閲覧したときも感じたが、対処が難しい。
他の転生者と違い目の前の標的を始末すればよい訳ではないし、更に本体の正体は我々にはわからないままコトを起こせる転生者側が有利すぎる。
ようやく尻尾をみせた転生者。
だが、状況は悪い。
故に、ライは苦渋の決断をする。
「転生者、お前はひとつ勘違いをしている」
「ーーなに?」
「無辜の民を傷つけることは、確かに聖騎士にとって禁忌だろう。ーーだが、大義の為なら許される」
ーー瞬間、抜剣。
人質の存在を歯牙にも掛けず、ライは一瞬でその距離を詰め、憑依されたサンソン氏を斬りつける。
あまりの早技に人質へ傷がつくことは無く。
そして彼が地面に崩れ落ちるより早く、ライは空いた左手を手刀の形にして空を走らせる。
そして人質に取られていた方の男の首を強打し、意識を刈り取る。
「びっくりしましたよ。まさか本当に殺すのかと」
どこかほっとしたような表情でノアは弓を下ろす。
「普通に生きる人々は無実だよ。殺す訳ないじゃないか」
少し呆れたようにライは言うが、ノアは知っている。
ーーこの歳下の先輩は、状況が状況ならソレを躊躇わないだろうということを。
「けど、状況は最悪だ。憑依系転生者が相手となると」
「えぇ、この街にいる限り、全員が敵で全員が容疑者で」
ーーそう、ここは既に蜘蛛の巣の中。
安全地帯など、存在しない。




