ACT.47 蜘蛛の巣(Ⅱ)
眠りこける少年を抱きかかえるライ。
この少年は、貴重な転生者の正体を知る手がかりになる。
その為に殺さずに確保したのだ。
「――ん、なんだ?」
ライとノアが路地裏にてそんなことをしていると、角の方から赤ら顔をした三人の男たちが現れる。
その真っ赤になった顔と手にした安酒の瓶からして、真昼間からこの裏路地で飲んだくれていたらしい。
不穏な物音を聞いて様子を見に来たようだ。
見るからに小市民な姿をした三人組は、物々しい甲冑を身に纏ったライたちを見て、ぎょっとした表情を浮かべる。
その様子もさもありなん。
立派な鎧を着た騎士なんて、日常で見る機会はほとんどないだろうし、聖教会をはじめとした体制側の象徴である騎士なんて見た日には、特に身に覚えがなくとも何となく強い苦手意識を抱く人種というのも一定数いるのだ。
「げぇ、騎士!?」
「お、おいゲッとか言うな!」
「し、失礼しまし――」
案の定「関わりたくない」と物語るような表情を浮かべて三人は挙動不審気味にその場を後にしようとしたところで、その内の一人の様子が変わる。
言いかけた言葉を途中で取りやめ、虚ろな瞳でライたちを見つめる。
「――しね!」
そして次の瞬間、突如大きく一歩を踏み出し、手にしていた飲みかけの酒瓶をライの頭に振り下ろした。
突然の行動に驚愕の表情を浮かべる他二人。
男の突然の蛮行に対し、ライは右腕を上にかざして酒瓶を防御する。
思い切り振るわれた酒瓶が、鎧の腕にぶつかり、残っていた中身の酒を周囲にぶちまけながら砕ける。
その時、酒の飛沫が兜の隙間から目に入りそうになり、咄嗟にライは片目をつぶる。
――おそらく、それが男の狙いだったのだろう。
その一瞬のスキをついて、底の割れた酒瓶――割れて鋭利になったその切っ先を兜の隙間、目の部分に突き刺そうとする。
「くっ!」
直感的に迫る危険を感じ取ったライは頭を伏せて、その酒瓶の突きを躱し、そのまま肩で男に向かってタックルをかます。
体格差はあれど、普段から鍛えているライと男ではその力の差は歴然であり、彼はそのまま吹き飛ばされ地面を転がる。
「待て!!」
瞬間、ライは大きな声で静止を叫ぶ。
それを聞いて男に向かって咄嗟に弓を引いていたノアが番えていたその矢を外す。
ノアは、その男を射殺そうとしていた。
「ちょ、ジョンソン!?」
ライのタックルを喰らって地面で伸びているその男――ジョンソンに駆け寄る二人の連れ。
事情がまだ呑み込めていないライは、その場から動かずにその二人に声をかける。
「今、彼は僕を襲ったけれど、どういう事かな?」
ライの問いかけに、残った二人は青い顔をして首をぶんぶんと横に振る。
「お、俺たちだって訳わからねぇよ!」
「こいつだって、あんたらみたいなのに喧嘩売るような奴じゃな――」
そう言いかけたもう一人の男。
突如その言葉を途中で辞めると、地面に落ちていた大きめのガラス片を手に取りもう一人の男の背後に回りこんでその首にその先端を押し付ける。
「ひっ、サンソン!?」
「動かないで」
まるで人質をとったような様子でサンソンと呼ばれた男は、仲間であったであろう男の生殺与奪を握りライたちに体面する。
「正義の味方の騎士様なら、無辜の民を見殺しなんて、しないわよね」
額から汗を滴らせて嗤うサンソン。
そのガラス片を握る右手からは、血が滴り落ちる。
尋常ではないその様子に、ライとノアは身構える。
――正体不明の転生者。
その魔の手が、直接目の前に現れたのだ。




