ACT.45 謀の影(Ⅳ)
「――これ、毒はいってますね」
ノアのその言葉に、ライは硬直する。
食べようと手に仕掛けていたサンドイッチに視線を向ける。
「ちょっとそっちも貸してみてください」
そういってノアはライの持っているサンドイッチを奪い取り、左手に持って右手を扇の様にして仰いで匂いを調べる。
険しい顔でしばらくそうしていると、やがてその表情を変えないまま顔をあげる。
「こっちにも入ってますね、僅かに異臭がします」
その言葉に、ライは困惑する。
それはひとえにノアの言い分を信じていないからではない。
――むしろ、ノアの言う事ならば信用できる。
粛清騎士、ノア・ロー。
彼は、元々聖教会の聖騎士ではなく、同教会内の別部署に所属していた。
その部署とは、異端審問部。
転生者関連事項を研究解析することを専門にする、粛清騎士を影で支える技術部門である。
ノアはそこで、薬学の研究をしていた――いわばその道のプロであった。
そんな彼が言うのだから、毒物が混入していること疑いはない。
だが、問題は――。
「どこで、誰に?」
そう、そこだ。
混入させる隙なんて、購入後には一切ない。
自分たちが手に持っていたのだから、それは確定事項だ。
なら、混入させた犯人は――。
「あの屋台の店主しかない」
それなら、可能性はそれしかない。
だが、それだと更なる疑問が浮かぶ。
あの店主の正体だ。
意図して混入させたのなら、その正体は転生者か協力者だ。
転生者は、もしかしてあの三人以外にいるのかもしれない。
もしそうなら、容疑者の数は一気に膨れ上がる。
「これは、想像以上に厄介な案件かもしれないっスね」
ノアのその言葉にライが無言で頷こうとしたその時だった。
ガシャン!
大きな音を立てて、部屋の窓が割れてガラス片がライたちに降りかかる。
突然の事態に、ライとノアは椅子から瞬間的に飛びのいてそのガラス片を避ける。
それと同時に、手近に置いておいた得物を各自手に取り、窓の外を注視する。
そこにいたのは、どこにでもいるような少年だった。
どうやら、彼が石か何かを投げ込んだと思われる。
ライたちが自分を見つけた事を視線で察した少年は、不敵な笑みを浮かべて、路地裏へ走り出した。
「――ノア!」
「了解っス」
この機を逃すまいと二人は砕けた窓を破って外に出て少年を追う。
あの笑みからして、二人の粛清騎士をおびき出そうとしての行動に違いない。
だが、それがわかっていても二人はそこに飛び込んだ。
そこに僅かでも状況打破の手がかりがあるのなら、危険な罠にも飛び込む。
そして、その罠を圧倒的な実力を持って、真正面から食い破る。
これが、粛清騎士だけに許されたやり方だ。




