プロローグ―円卓―
▽▲▽
聖教会本部聖騎士棟にあるその部屋には、黒い円卓が置かれていた。
十人掛けの円卓に腰かけるのは、七つの影。
その七人の中の一人が、最初に口を開く。
「――へぇ、ゼギュール様がここにいるだなんて何時ぶりかしらね」
そう口にしたのは、レオーネ・ゴドウェン。
短く切りそろえられた栗色の髪と、整った可愛らしい顔立ちの女性だ。
しかし、彼女は町娘のようなその顔に似合わない姿をしていた。
厳めしい黒鎧を身にまとい、自らの得物である手斧を弄びながら、そう問うたのだから。
だが、そこにいる者たちは誰一人として彼女の恰好を咎める様子はない。
何故なら、ここにいる全員が彼女のモノと近しい意匠の黒鎧を身に纏っていたからだ。
――彼らの正体は、粛清騎士。
理の外の力を持つ転生者を始末することを専門とする、聖女直轄の黒い聖騎士たちだ。
「あぁ、執務もひと段落したからね。こっちの仕事に取り掛かろうって思ってね」
にこやかにレオーネの問いに答えた青年は、ベルタ・ディ・ゼギュール。
蒼銀の髪とやわらかな眼差しをした御伽話の白馬の王子様のような、華やかな風貌の青年。
その正体は”最高”の騎士とも呼ばれる粛清騎士序列第二位。
実質的な粛清騎士たちのリーダーである。
普段、表の執務で忙しい彼が他の騎士たちの前に姿を見せるのは、久しぶりのことであった。
「それに、先日聖女ステラと話し合って今後の方針を決めてね。そこで決まったことを周知させようと思って皆を招集した。忙しい中、集まってくれてありがとう」
「おい、その”忙しい中”っていう時に、何故俺の方を向いた? 嫌味、ねぇ嫌味なの?」
ベルタの発言に難癖をつけるかのように突っかかってきたのは、アルフォンソ・グラットストーン。
くすんだ赤毛の髪に鳶色の瞳と、頬のソバカス。
朴訥な田舎の青年とも言うべき印象の薄い彼は、”最強”の騎士と呼ばれる序列第三位。
「いやいや、君は我々の最終兵器みたいな側面があるからね。君が暇してるのは、それはそれでありがたい」
アルフォンソは、その実力と特異性故に滅多なことでは任務に出ない。
万年お留守番騎士とも、聖女ステラは言っていたりもする。
「まぁいい。それじゃ、話を続けてくれ――といいたいところだが、おいライ」
「なんでしょう?」
ここで少し苛立った様子のアルフォンソが話しかけるのは、黒髪と紫水晶の瞳をした少女の如き外見の美少年。
序列第六位”最優”の騎士・ライ・コーンウェルだ。
「隣で居眠りしているバカを起こしてやってくれ」
「――はい」
少しため息を吐いたライは、そういって隣に座る青年の肩を揺らす。
腕組みをして首をカクカクと上下させていた彼は、肩を揺すられることで、びくっと身体を震わせて目を覚ます。
明るく癖のある茶髪と、軽薄そうな顔立ち。
細身で長身な彼の名は、ノア・ロー。
序列第七位、”最適”の騎士の名でも呼ばれる青年だ。
「んぁ、会議終わりました?」
「終わってないですよ、寝ないでください」
「いやぁ、ジブン会議とか興味なくて。 上の命令ならなんでも従うんで、とりま寝かせて」
「良い訳あるか!」
窘めようとしたライに対して気だるげにやる気のない返事をしたノアに対して、突如大声で雷が落ちる。
その声の主は、剃髪と黒い顎鬚が特徴的ながたいの良い中年男性。
「ちょっと、すぐ隣でいきなり大声出さないでよフーカーさん! ただでさえ緊張してたリゼちゃんがかわいそうでしょ!」
「――む、すまん」
突然大声でびっくりしたレオーネは、そう彼――序列第五位”最善”の騎士ハワード・フーカーに抗議する。
それに対して、彼はちょっとばつが悪そうに頭を掻く。
「すまなかった、ゴドウェン、ハウエル」
「い、いえ、気にしてませんので」
そう答えたのは、勝気そうな瞳をした赤毛の少女。
つい先日、正式に粛清騎士に任命されたリゼ・ハウエルだ。
「――さて、雑談はその辺でいいかな?」
仄かにがやがやとしだした彼らを眺めて、ベルタは一言こういって皆を宥める。
「粛清騎士がこうやって集まる機会はそうそうないんだ、有意義に使おう」
そうして、ベルタは立ち上がり皆を見回す。
序列三位、アルフォンソ・グラットストーン。
序列四位、レオーネ・ゴドウェン。
序列五位、ハワード・フーカー。
序列六位、ライ・コーンウェル。
序列七位、ノア・ロー。
序列八位、リゼ・ハウエル。
――そして、序列第二位のベルタ・ディ・ゼギュール。
「それじゃあ、久しぶりの定例会を始めよう」
ここに集まるのは、各自一騎当千の猛者。
聖教会の威光を示す黒鎧を纏うことを許された異端狩りの聖騎士。
聖教会の最大戦力が集結していた。




