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ACT.36 そして歯車は軋み廻る(Ⅱ)


▽▲▽


 無数の星々が瞬く、静謐な夜。

 聖教会の総本山、その隠された場所にある温室。

 色とりどりの花々に囲まれたその美しい花園は、複数のランプで幻想的に照らされていた。

 その中央にあるティーテーブルには、ふたりの人物が腰掛けていた。

 一人は、星の光を束ねたようば美しく靡く金色の髪をした、美しい盲目の少女。

 少女の名は、ステラ。

 この聖教会の象徴であり、実質的な最高権力を握る聖女である。

 聖女ステラが、テーブルのカップを手に取り、紅茶を一口口に含み、嚥下する。

 いつものように得体のしれない笑みを浮かべながら、彼女はこう言った。


「先日『私の』ライが任務で重傷を負いました。その件の報告書は御覧になりましたか?」


「えぇ、拝見致しました」


 そう聖女ステラの問いに答えたのは、彼女の目の前に座る青年だ。

 彼女と対極のような蒼銀の髪と紺碧の瞳、堂に入った振る舞いに整った顔立ち。

 まるで御伽話に登場する王子様のような容姿をした彼の名は、ベルタ・ディ・ゼギュール。


「別にコーンウェルは、弱い訳では無い。 むしろ現状でも十分強いし、伸びしろもある。 そんな彼が一方的にあんな重傷をっていうのは、確かに信じられないですがーー論点はそこではないですよね」


 ーーベルタの正体は、粛清騎士序列二位“最高の騎士”とも呼ばれる粛清騎士たちのリーダーである。


「えぇ、確かにそこも問題ではありますが、より重要なのは今回の事件を起こした転生者たちのことです」


「成る程、複数形ですかーーつまり、転生者が徒党を組んでいたと?」


「それも大規模な、ね」


 そう、今回の事件を起こしたのは、最低ふたりの転生者が関与していた。

 ひとりは、竜の群れに指示を出していた、霧を操る異能を持つ転生者。

 もうひとりは、ライが遭遇した虹色の瞳を持つ少年転生者・竜王。


「そして、ライが遭遇したという転生者は“王”を名乗り、計画的に行動を起こし粛清騎士を誘き寄せていましたわ。もし、今回の件にいつも通りライひとりで当たっていたなら、大事な粛清騎士が欠けているところでした」


 そういって嘆くように頬に手を当てため息をつく。

 聖女のその姿は、絵になるような美しさを秘めていたが、ベルタは臆することなく言葉を発する。


「いつもの神託は、どうしたのですか?」


「ーー神託で分かったのは、ひとり分の反応でした。 この事がどういうことか、貴方にはわかりますか?」


「いえいえ、非才なる私めにはサッパリ」


 ベルタは微笑みながらそう口にする。

 その笑みに聖女は少し眉間にシワをよせ、一瞬気に障ったかのような表情を作るが、すぐにいつものような笑みを浮かべた。


「相手には、私の神託を誤魔化せるような、特殊かつ強力な異能持ちがいます。 私たちのアドバンテージがひとつ奪われた形になりますね」


「成る程、ならば今後、我々粛清騎士を狙って罠を張ってくる可能性も多くなりますね」


「ですので、主犯と思われる竜王が討伐できるまで、粛清騎士たちには2人1組での行動を徹底させようとおもいます。 そして、私の神託の信憑性が下がった今、神託に依らない情報が重要になります」


「ーー成る程、だから私に声をかけたんですね。 わかりました、より広く“根”を張りましょう」


「お願いするわ」


 そこで話すことは終わったとばかりに、ベルタは紅茶を一気に飲み干して席を立つ。


「それでは、執務もありますのでこれで失礼します」


 踵を返して去ろうとする彼の背に、最後に聖女がこう話しかける。


「貴方の伯父様にも、よろしく伝えておいてね」


 彼女のその言葉には返事をせずに、彼は暖かな光に包まれた花園を後にした。

 そんな彼の姿が完全に闇に溶けた時、聖女は誰もいない花園でひとり呟く。


「ーー虹の瞳、“到達者”。 ようやく現れたのね」


 その呟きは、誰にも聞かれることなく、甘い香り漂う花園に漂っていた。


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