ACT.30 街の脅威(Ⅰ)
太陽が高く昇った昼。
昨夜の戦いの後、町を軽く見回ったリゼが仮眠から目覚めたのはそんな時間であった。
「くぅっ、よく寝た」
この街での拠点となる教会の一室で簡素なベットから身を起こした彼女は、立ち上がって近くに置いておいたタライに張った水で軽く顔を濯ぎ、まだ頭にこびりついている眠気を追いやると、ふと水面に映る自分の顔を見て我に返る。
そこに映っていたのは、見慣れた赤毛のごく普通の少女の顔。
数年前に粛清騎士に命を救われ、自身も誰かを救う光になろうと決め、努力してきて、今ここにいる。
この事件をうまく解決できれば、自分もまたあこがれだった粛清騎士の末席に加えていただける――それは、喜ばしいことだ。
だが、リゼはまだ一抹の不安を抱えていた。
「――私は、粛清騎士として相応しいのかな」
リゼは何度か先輩騎士であるライと手合わせをしたことがあったが、未だに一本も取れていない。
それなのに欠員が出た結果、自身の予想よりも早くその機会がやってきた。
例えここを乗り越えたとしても、自分はそれを誇れるのだろうか。
水面に映る自分の顔は、決意したあの日の少女のままで、それが余計リゼの心を波立たたせる。
そうやって憂鬱な気分になりそうになって、リゼは両手でパンと頬を叩く。
「うん、頑張ろう」
そう呟いて、彼女は小さく気合を入れる。
非才な自分ができるのは、頑張ることだけだと知っているから。
そうしているうちに、この部屋のドアが軽くノックされる。
「ハウエル様、お目覚めですか?」
老いた優しい女性の声がかけられる。
「今行きます」
その声に答え、軽く身だしなみを整えてからドアを開けて外に出る。
ドアの外でリゼを待っていたのは、今お世話になっているこの教会を管理している老シスターであった。
「おはようございます、シスター」
「おはようございます、ハウエル様。コーンウェル様はもう食堂でお食事になさってますので、ご案内いたしますね」
そう言って静々と歩く彼女の後を付いていく。
道中の廊下では、若いシスター見習いたちとも数度すれ違い、軽く会釈を交わした。
この教会は勤めるシスターたちの宿舎も兼ねた大きな造りになっていて、少し大きめの食堂が備わっていた。
老シスターに続いて食堂に入ると、そこには彼女の言った通りに先客がいた。
少し長めの黒髪に、少女のような細い線の美少年――ライ・コーンウェルだ。
彼が皿から、スプーンでスープを掬って口に運んでいたところでリゼの存在に気が付く。
「すいません、先輩よりも遅くなってしまって」
「いや、気にしていない。スープとパンがあるから、さっさと食事を済ませてしまおう」
ライの言葉に、静かにリゼはうなずく。
老シスターがライの向かいの席に彼が食べているのと同じスープとパンを置き、そこにリゼが座る。
「いただきます」
そうやって彼女がスープに口をつけたのを見て、ライはこう切り出した。
「リゼ、食べ終えたらすぐに出かけるから、準備をしておいてくれ」
「どちらに向かうんですか?」
「転生者の拠点」
さらりと言ったその一言に、リゼは盛大にむせた。




