ACT.29 暗い夜霧は人を喰らう(Ⅵ)
残された血痕を辿って、段々と薄れゆく夜霧の中をかける二人。
そして、その先にある路地裏に回り込んだその時だった。
「――ライ先輩、これは」
「あぁ、やられた」
そういって二人が視線を送った先にあったのは、大量の血痕と食い散らかされた肉片だった。
「奴ら、足を引っ張る同族を食い殺して痕跡を消したってことですか!?」
「あぁ、そしてこの臭い」
「臭い?」
その肉片は人のものでは――ましてや、この世界の生物のものではない。
何故ならその血肉からは、独特の異臭がしたからだ。
おそらくリゼはこの独特の臭いに心当たりはないのだろう。
だが、俺とライにはあった。
これはそう、竜の血の臭いだ。
「今、僕たちを襲ったのはただの転生者の眷属なんかじゃない。――竜の群れだ」
▽▲▽
――竜。
その正体は、人間に転生することができなかった転生者の成れの果てだということは、関係者には広く周知されている。
竜と聞くと巨大で翼をもったトカゲを想像することが多いが、この世界での竜はベースになった生物の形態や性質に生態や姿を大きく左右される。
例えば、魚から竜になった場合は水生爬虫類のような見た目と生態を、昆虫から竜になったものは硬い甲殻と小柄な体躯を。
総じて元生物からある程度巨大化するし、爬虫類的な見た目になるものの最終的なサイズや姿は千差万別だ。
それこそ、今回ライたちが戦ったような猛獣サイズの竜だって珍しくはない。
――だが。
「竜が群れを成すだなんて事例は、聖教会の長い歴史上一度も確認されていない」
あの夜から数時間後。
夜霧が晴れたタイミングで探索を打ち切り、教会への帰路についた二人。
その中でライはそうリゼに話した。
「でも、竜は元になった生物の影響を受けた生態を持つんですよね? じゃあ、何かしら群れる生態の生き物がもとになれば」
リゼの素朴な疑問にライは静かに首を振る。
「そうはならない理由が二つある」
ライはそう言って、まず指を一本立ててこう続ける。
「まず、竜の根本的な性質として奴らはひどく狂暴で理性を持たない。元同族でも見境なく襲い喰らうから群れを統率する能力が皆無だ」
「あぁ、なるほど。そう考えると、逆に能力が高すぎるので、元同族に率いられることもないですね」
「そうだ。そして一番の理由としては――」
二本目の指を立ててライはこう続けた。
「竜は、群れになるほど現れない」
「――あ」
竜とは本来、転生に失敗した転生者である。
その総数は、正規の転生者よりも少し多いぐらいでしかない。
ちなみに年間で出現が確認されている竜の個体数は、平均で六体。
当たり前であるが、すべて別な生き物が元となっている。
「同型の竜が、群れになるほどの数が、一度に同じ場所に出現する。これは、異常だ」
そこでようやくリゼは気が付く。
今回の事件が、自身の想像を超えて非常事態だということに。




