ACT.27 暗い夜霧は人を喰らう(Ⅳ)
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――だが、リゼの心配は残念なことに杞憂に終わる。
日暮れから数時間、辺りを宵闇が支配し始めたその時、見回りをしていた二人の周囲に変化が生じた。
「――先輩、これは」
「あぁ、早速登場らしい」
辺りを急に、濃い夜霧が覆い始めた。
この現象を実際に見て、これは転生者の能力であるとライは確信する。
「以前、異端審問部の友人に聞いたことがある。夜霧とは、多量の水を含んだ空気が冷えると現れると」
――聖教会異端審問部。
そこは物々しい名前とは裏腹に異端者――転生者やこの世界に存在する事象を解き明かす為に設立された部門。
そこで研究されている事柄は、俺の元居た世界では科学と称されるモノが大半だ。
異端審問部で検証され判明した新たな事実や技術は、ライたち粛清騎士だけでなく広く一般にも提供されている。
彼らのおかげで、この国の文化・技術的な発展が支えられているといっても過言ではなかった。
そんな異端審問部を、ライおよび亡くなった師であるアスランは懇意にしていた。
何故なら、二人は知識・情報も武器であることを知っていたからだ。
事実、異端審問部の連中からもたらされた知識で窮地を脱したことも何度かあった。
そして、ここでもその知識がライに確信をもたらした。
「日中に日が照り、地面が暖められると、その夜にその熱が一気に奪われて極端に気温が下がる」
「先輩、確かここ数日の天気は」
「雲で覆われ、日は照ってない。空気は水を孕んではいるが、夜霧の条件は満たしていない。――つまりこれは、転生者の能力だ」
ライのその言葉に、リゼの顔に緊張が走る。
だがそれはライも同じ。
二人は、無言で背中を合わせ盾を構える。
「条件は不利、向こうから一方的に不意打ちし放題ですね」
「だからといって、それだけでやられるほどお前は弱いのか?」
「――いえ!」
その瞬間だった。
何かが、ライに向って迫ってくる。
その気配を感じたライは、刹那に盾をその方向へ向け、殴りつけるように突き出した。
――がんっ!
「ぐっ!」
何かが盾と衝突し、思い切り弾き飛ばされる。
その独特の感触から、ライは殴り飛ばしたのが、生き物であると推察する。
だが、この時点でライは少し肝を冷やす。
今の衝突で、ライは僅かに姿勢を崩した。
――並の攻撃では怯みもしないライが、である。
「リゼ、気を付けろ。今回の奴、ちょっとおかしいぞ!」
一見でたらめなように見える転生者の能力だが、近年一部の能力には法則があることが発見された。
自身に能力を付与するのではなく、眷属を作り出すタイプの能力者の場合、眷属の性能は生み出す個体数に反比例することがわかったのだ。
また、その眷属に特殊能力が付いていた場合も、個体性能は劣化するということも。
つまりは、特殊能力を持った個体や群体の眷属を生み出す場合、その驚異は狼などの並の猛獣程度に収まるということだ。
だが、今回のはどうだ。
夜霧で姿を隠蔽するという特殊能力を持っていながら、単純な突進でライの姿勢を崩すほどの力を見せている。
それは、発見されていた法則の逸脱に他ならない。
「リゼ、気張っていけ。一筋縄ではいかなそうだ」




