ACT.26 暗い夜霧は人を喰らう(Ⅲ)
「そういえば、リゼはまだ粛清騎士全員と顔合わせが済んでないのだったか」
カーティス特務からの指示を受け、準備を整えた二人は、早速カペラへ出立した。
その道中、泉のほとりにて馬を休めている時に、ライはそうリゼに聞いた。
「えぇ、私が会ったことある騎士は、ライ先輩とアルフォンソ先輩、そしてレオーネ先輩だけです」
まだ半分も顔合わせが終了していないと、リゼがひとりごちる。
粛清騎士は、その性質上一般に素顔と名前が知られていない。
唯一の例外が序列二位ではあるが、それはさておき。
「ハワード、ノアは偶々都合が合わなかったんだな。序列二位のゼギュール様に限っては、多忙すぎて僕ですら二回しかお目にかかっていないさ」
木陰に腰を下ろして、ライはそんなことを言う。
それに対して、馬の首を撫でていたリゼはふと何かに気がついたような声を上げ、指折り数える。
「あれ、私、ノアさん、ライ先輩、ハワードさん、レオーネさん、アルフォンソ先輩、ゼギュール様で七人ですよね? あと一人は?」
瞬間、ピシリと和やかな空気に亀裂が走る。
途端に剣呑な空気を出したライは、厳しい口調でリゼに向き直る。
「それは禁句だ」
「え?」
「みだりにその話題は口に出すな。最後の一人、序列一位の名は、口にしてはいけない」
いつになく真剣な口調で厳しいく言うライ。
その表情に気圧され、黙ったままコクリとリゼは頷く。
自然とその額には、冷や汗が伝っていた。
「奴は、このまま表に出ない方がいい。僕も金輪際会いたくはないし、リゼも会わないままいられるに越したことはない――あれは、そんなモノだ」
△▼△
そして、その日の夕刻。
二人はようやく件の町カペラへたどり着いた。
北部の町カペラは、小規模ながら発展した印象の町だった。
街道は石畳で舗装され、周囲には露店などが連なり、普段なら活気がある町なのだろう。
――そう、普段なら。
晩飯前の買い物で賑わうはずのソコは、全ての露店が店を閉め、閑散とした様子であった。
「例の夜霧の影響ですかね」
「だろうな」
そう言葉を話しながら、二人はゆっくりと馬を歩かせ、街道を通る。
――何故、二人はゆっくりと歩くのか。
それには、粛清騎士の役目が関係していた。
粛清騎士は、聖教会所属の最高戦力にしてこの国最強の一角。
その為、この様な場合はあえて人々の視界に入る様にする事で、「この件に、粛清騎士が介入する」と言うことを知らしめる。
そうすることで、人々に安心感を与える目的があった。
ゆっくり進んだ先に、ようやく今回の目的地であり、この任務での拠点にもなるこの町の教会が見えてきた。
「時刻も時刻だ、到着したら小休止を挟んで日暮れと同時に町に出て見回る」
「了解です」
ライの指示に、こぎみよくリゼが了承を返す。
ここでふと、リゼが質問をライにする。
「あの、先輩。今回の任務って、どんな感じにやるんですか?」
その問いに、ライは何を当たり前な事を……と言ったニュアンスでこう返した。
「日没から夜明けまで、件の夜霧に出会うまでひたすら町中を巡回。日中は、調査と聞き込みだな」
「……それ、いつ寝るんですか」
改めて粛清騎士の任務のハードさに、リゼは絶句した。




