ACT.25 暗い夜霧は人を喰らう(Ⅱ)
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「――、霧が人を喰らう?」
「あぁ、目撃証言ではそうなっているらしい」
日課の鍛錬、そして模擬試合を終えた二人は、カーティス特務からの呼び出しに従い、執務室を訪れていた。
要件は無論、次なる任務だ。
「北方の町カペラにて、毎夜殺人が起こる。毎夜何故か局所的な濃霧が発生し、ソレが晴れると、遺体が転がっている。それも――」
「――なにか動物に食い散らかされたように、ですか?」
「その通りだ」
リゼの問いに頷くカーティス。
その言葉を聞いたライは、顎に手を当てて考え込む。
ライには、一つ心当たりがあった。
それは、自身が粛清騎士に任命されるきっかけであった、あの任務。
のちに狼怪の転生者と名づけられた、あの転生者だ。
転生者の持つ異能の中には、自身を強化したり能力を付与するのではなく、特殊な化け物――眷属を生み出し、操るモノも存在する。
今回もその類ではなかろうか、とライは勘繰った。
「今回は、状況に不明点が多すぎる。不慮の事態に備えてコーンウェルだけではなくハウエルも同行しなさい。――あと、ハウエルは今回が就任後初任務だ、気張っていけ」
そも、粛清騎士は殉職率が高い。
それは、異能を持ち、純然たる生物として格上の転生者を常に相手取るという職務上必然だった。
最終的な就任試験で、一度は転生者を倒すことが義務つけられているとはいえ、一度できたことが二度三度必ず達成できるという保証はない。
だが、この粛清騎士という役目は、失敗は死へ直結する。
現に、粛清騎士の初任務での殉職率は六割を超える。
――これは、先輩騎士が同行しても、という数字である。
詰まるところ、新人騎士リゼにとって、最初の難関であった。
「カーティス特務、今回の任務が眷属系能力者なら、場合によってはアルフォンソさんが
適任かもしれません」
「ライ先輩、アルフォンソ先輩が適任――なんですか」
「あぁ、此処は是非“最強”の粛清騎士に出てきてもらわないと」
ライは、カーティスに冷静にそう進言した。
それは、アルフォンソ・グラットストーンという非常に限られた運用しかできない騎士の使いどころが今回ではなかろうかという進言だ。
「うむ、確かに彼が適任かも知れないが、現状動かせない理由が二つある」
ライの進言をカーティスは静かに却下し、その理由を告げる。
人差し指を立てて、こう最初の理由を語る。
「一つ、場所が町中であるということ。居住地を戦場にした場合、彼の攻撃に住民が巻き込まれる可能性もあるし、なにより町を大きく壊してしまう」
「――え、アルフォンソ先輩って何者ですか? 優しそうなのに狂戦士なんですか?」
「いや、狂戦士はレオーネ――まぁいいか。そうか、リゼはアルフォンソさんがどういう戦い方をするか知らないのか」
「すいません、新参なもので」
そこでふとライは考え込む。
ここで教えてもいいが、自分自身最初に見た時に酷く動揺した事実があった。
「いや、そこはどこかの機会に実際に見て確かめてくれ」
ライはちょっと意地悪をして、教えないでみた。
リゼもあの初見殺しを見て圧倒されるがいい、と生真面目なライにしては珍しくいたずらごころを発揮してそう思った。
「二つ目が、彼が今留守にしているということだ」
「――アルフォンソさんが留守とは穏やかじゃないですね」
ライは顔をしかめてそう言う。
実際、留守番騎士とも揶揄されるくらい出動率の低い騎士が、アルフォンソだ。
どれくらい低いかというと、様々な問題で容易に動かせない序列第一位・“最悪”の騎士の次に働かせられていない。
「前回捕獲された竜が脱走して、君が処分しただろう。ローとともにその代わりを捕獲しに行ったのだよ」
「――それなら、捕獲をしくじらないですね」
ローとは、序列第七位のノア・ローのことだ。
聖女や一部の者からは、怠け者と揶揄される騎士ではあったものの、ライは彼を深く信頼していた。
「場合によっては、帰ってきたローを応援に寄越すことも考えているから、不味いと思ったら早めに連絡を入れてくれ」
「了解しました、特務。じゃあ、準備して、明日には出るぞ、リゼ」
「り、了解です先輩!」
そういって二人は踵を返して執務室を後にした。
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