ACT.24 暗い夜霧は人を喰らう(Ⅰ)
ソレは、月のない暗い夜だった。
深い夜霧の立ち込めるそんな夜に、酒に酔った男が一人ふらふらと町を歩いていた。
「――ひっく、飲みすぎたか?」
そんなことを回らない思考と呂律でつぶやきながら男は、街灯の明かりを頼りに自宅への帰路をたどる。
「やぁ、やっぱり町はいいな! 夜も明るいし、魔馬は出ないし、安全だし!」
田舎からこの町に移住してきたばかりの男は、赤ら顔でそんなことを繰り返しのたまう。
男の故郷には、時たま魔馬と呼ばれる獰猛な肉食の馬が現れ、家畜や人を襲ったりしていた。
そんな環境が嫌で飛び出してきた男にとっては、この町は天国に思えた。
男が歩みを進めると、目の前に妙なモノが飛び込んできた。
――いや、それは正確にはモノではなく、現象であった。
「あん?」
目の前に、ナニカ生き物の形を濃霧があった。
その濃霧は、地面に転がった何かを貪っていた。
――そして、遅れて感じる鉄臭い、魔馬が出る村出身の彼が何度か嗅いだことのある、独特の匂い。
正体は、人の血と脂の匂いだ。
「――ひっ!?」
瞬間、その濃霧が男の方を振り向いた――気がした。
そして見えたのは、先ほどまでその濃霧が貪っていたモノ。
ぐちゃぐちゃに咀嚼された、人の亡骸だ。
――そして男が最後に見た光景は、目の前いっぱいに広がる、生暖かいその濃霧の咢だった。
△▼△
ギンッと金属が強く打ち合わされる音が修練場に響く。
聖騎士たちが使う修練場には、時間割が決まっており、この時間此処を利用しているのは、目の前で激しく模擬戦を繰り広げている二人だけであった。
二人は、同じ夜空色の鎧を身に着けていたが、シルエットと手に持つ武器が異なっていた。
一人は、やや女性的なシルエットの鎧を身に着け、大盾と片手用の槍を持った騎士だ。
彼女は、もう一人の騎士に果敢に挑んでいく。
一方、そのもう一人の騎士は、華奢ではあるが男性的なシルエットをして、円盾と黒い刀身の片手半剣を持った騎士だ。
その剣の騎士は、槍の騎士の攻撃を余裕を持って、その円盾で弾き、受け流す。
槍の騎士の突きを弾き飛ばした瞬間、剣の騎士は一気に攻勢に出る。
「――っ!」
槍の騎士の息を呑む声が聞こえる。
円盾で殴りかかった剣の騎士は、その体格の差を活かして、強引に大盾にぶつかって槍の騎士の身体を揺らす。
「衝撃の受け流し方が甘い」
剣の騎士はそう言いながら、力の入らなくなった槍の騎士の足を剣の腹で払う。
「ぐぅ!」
瞬間、槍の騎士は大きく姿勢を崩し、転倒する。
そして立ち上がるより先に、剣の切っ先がその喉元に突きつけられた。
「あ、ありがとうございました」
「男女差があるのだから、体格体重で負けるのは当たり前だ。盾を持って戦うのなら、そこを補う戦い方をおぼえた方がいい」
「――はい」
そういって二人はメットを脱ぎ、ソレを脇に抱えて身を正す。
槍の騎士は、赤毛が特徴的な二十代前半の若い女性。
剣の騎士は、黒髪と紫水晶の瞳を持つ、十代後半の少年だった。
「本日もご指導ありがとうございます、ライ先輩」
「頑張れよ、リゼ」
槍の騎士の名前は、リゼ・ハウエル。
剣の騎士の名前は、ライ・コーンウェル。
二人は、この国に現れる“転生者”という災悪を払う役目を負った、粛清騎士である。
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