プロローグ―とある酒場にて―
『激しい剣戟は福音の如く、悪しき異端を狩るは若き黒獅子。黒塗の刃は月光を裂き、哀れな悪鬼は露と消える――』
南部のとある町の酒場にて、流麗な歌声が響く。
旅の吟遊詩人が、美しいテノールと、アコーディオンを用いて、英雄譚を奏でていた。
――いや、英雄譚とはいったが、普通とはちょっと違う。
何故なら、題材としているのが今だ実在している人物だからだ。
『――おぉ、粛清騎士。おぉ、粛清騎士。悪魔を倒し、狂刃に散ることを定められた雄々しき騎士よ。いつの日かの安息が訪れる時まで、戦いつづける者たちよ!』
そういって語る吟遊詩人の技量はずば抜けていて、誰もがその語りに耳を傾けている。
これは、今回の稼ぎは多そうだと、内心彼はしめしめと思った。
――しかし、そんな中、彼は酷く不愉快そうな表情を浮かべる大男を一人見つける。
肉の大鎧を身に着けたような隆々とした巨躯と、短く刈り込んだ金髪。
近くの壁に、鞘にしまった物々しい大戦斧が立てかけてあるが、おそらくそれも、男のモノだろう。
歌を続けながら、内心吟遊詩人はまずいと思った。
職業柄、各地で難癖をつけて金品をせびられることは少なくない。
一応護身術の類は覚えているが、あんな体格の男とかち合って勝てるほどのものではない。
こりゃ、すぐにでも逃げた方がいいか?
そんなことを冷や汗をかきながら思い始めた矢先だった。
ちっ、と大きな舌打ちをして、大戦斧を担いでその大男が酒場を出て行った。
そのあとに、連れと思われるフードを被った小柄な人物もついていく。
二人の後を見送った吟遊詩人は、内心助かったとほっとしながら、歌を歌いあげた。
『夜空の鎧を纏いし騎士たちよ、これからも我らを守り給え!』
△▼△
誰もいない路地裏にやってきたところで、フードの少年が語りかける。
「どうしたのですか、シギ。急にあの場を飛び出してしまって」
「――大将、すいません。ちょっと腹が立ってしまいまして」
金髪の大男・シギが、後からついてきたフードを被った小柄な少年に謝罪する。
大男が、少年に頭を下げる姿は、傍から見れば、さぞ滑稽に映っただろう。
しかしながら、この二人にとってはこれがあるべき形、いつもの姿だった。
「あの吟遊詩人、よりにもよって粛清騎士なんてものを語りやがって、俺らを何人も屠ってきた、あいつらをよ!!」
そういって、シギが、その辺にあった小石を思いっきり蹴る。
すると、その小石は鋭く飛び、石作りの壁に陥没を作った。
「やめなさい、無暗にモノに当たるのは貴方の悪い癖です」
「――うっす」
そういってばつが悪そうに俯くシギ。
――その瞬間だった。
「わーい、またシギのバカがおこられてるー!」
知性的な雰囲気で話していた少年が、急に稚拙な――年よりも幼い話し方をし始めた。
「あ゛、うるっせーぞクソ坊主!大将が話している途中だろうが!!」
今度は一変、血の気の多いチンピラの様な話し方で怒鳴る少年。
「ワン、フォー、落ち着きなさい。大将もシギくんも困ってるわよ?」
更には、情勢的な女々しい語り口で話し始める少年。
「つ、ツーさん、ありがとうございます」
「――ありがとう、ツー。これで落ち着いて話せるよ」
そう言って、少年は元の知的な口調に戻る。
「ごめんね、僕たちうるさくって」
「い、いえ滅相もありません」
そして、少年はコホンと咳払いして、こう続ける。
「それじゃ、僕たちは僕たちなりに勧誘活動頑張ろうか、粛清騎士たちに負けないようね」
少年はフードを上げ、そうして意味深に笑う。
少年は、ありふれた黒髪をしていて、ありえない虹色の瞳と目元に竜鱗の痣があった。
「頑張ろう、僕たちの【国】の為に」
感想等もらえると嬉しいので、お願いします!!




