ACT.183 星に焼かれて(Ⅱ)
「竜息が来る!?」
竜の口内に集まる熱を感じたリゼの脳裏にその言葉が過ぎる。
そしてこの土壇場で真価を発揮したのは、理性ではなく本能であった。
肌感で迫り来る脅威を感じ取ったリゼは、思考を飛び越えて判断を下す。
下顎に刺さったままの槍の柄を蹴折り、全力で飛び退いて距離を取る。
硬く冷たい床に転がり落ちる。
受け身を取る余裕すらなく、自ら身体を叩きつける様にして平に落ちて這いつくばる。
身体の節々が嫌な音を奏でたが、それすら気に留める余裕だって無い。
瞬間、閃光が弾ける。
竜の口内から一直線に放たれた禍々しい光は、勢いに負けて暴れる首と共に床から天井までを出鱈目に走る。
地下室をめちゃくちゃに溶断していく。
日光の何倍もの熱量と、聴覚を麻痺させるような轟音。
竜退治が粛清騎士へと一任されている理由を、リゼは痛みと苦痛と共に身をもって味わうこととなった。
──竜を殺すなら、ひと息に。
竜息という切札を切らせてはならない。
転生者の用いる異能。
その超常の力を使う源とは、彼ら自身の魂である。
彼らは前の人生から持ち越した己の記録を薪として焚べて、怪物として振る舞う。
それを可能とする程に、魂とは高いエネルギーを保有している。
転生に失敗した転生者である竜もまた、そのエネルギーを有していることに代わりは無い。
しかし、ただ一つ相違がある。
竜共は、異能を持たない。
異能という形での、エネルギーの放出と活用が出来ない。
そんな竜が肉体の変異と維持以外でソレを用いるのが、今際の際である。
己に残る魂を、全て単純な熱エネルギーとしてレーザーの様に放出する竜息。
使ったが最後、熱量に耐えきれず頭部は消し飛び、その魂は全て焼き切れ消滅する。
だからこそ、死の間際に相手を道連れにする時のみしか竜共は使わない。
だからこそ、使わせてはならない。
その火力は、この世界の文明レベルからしてみれば、あってはならない領域へと達している。
ひとたび放たれたなら山は削られ池は蒸発し、街は炎の海に沈む。
故に、竜に死を覚悟させずに殺さなければならず。
大軍を差し向けて警戒を煽ることも下作、かと言って少数では仕留めきれず。
その為、竜の討伐には粛清騎士があてがわれる。
いつか誰かから聞いた話を瓦礫の雨を全身に受けながらリゼは思い返す。
その最中、崩れ落ちる瓦礫の隙間から刹那に覗いた暗い夜空に、極光が流れるのをリゼは目撃する。
それは、例え仮初で偽りであったとしても、表面上守られてきた交易都市の平和が、決定的に崩れ落ちた証となった。




