ACT.181 星に焦がれて(Ⅵ)
双頭の竜。
アイシャがあの方から下賜された、より高みへ至る為に必要な敵役。
自然発生する普通の竜とは違う、人工的に第二の首と人格を移植された生物兵器。
特殊な薬で出番まで眠らされているソレは、絶対に殺されてはならない。
しかし、彼女は失念していた。
闘技場で長年対峙し続けたが故に、相手は自身と戦うということを当たり前としていた。
だが、ここは闘技場での剣闘では無い。
観客がいないが故に卑怯な手段だって取れるし、そして何より粛清騎士であるリゼにとってアイシャとの戦いはあくまでも過程であって目的ではない。
彼女の目的は竜を始末し、背後に潜む黒幕の正体を暴き──引き摺り出して殺す。
「しまっ、ふざけるな!!」
そこに思い至って焦りを見せたアイシャは、顔面に迫る石突を咄嗟に避けることが出来なかった。
「ガッ!?」
アイシャを無視して竜を殺す。
その行動姿勢そのものが、リゼのフェイント。
そもそも、アイシャは勘違いをしている。
確かにアイシャを倒すことがリゼの目的ではない。
あくまで粛清騎士リゼ・ハウエルの目的は本件背後に潜む転生者を始末すること。
そしてその過程で遭遇した竜は確実に最優先で始末しなければならない。
だが、それを阻止せんとするアイシャの実力は無視していいものではない。
故に結局は、アイシャの無力化こそが最優先という事実は変わらない。
冷静であれば、アイシャもその事に気がつくことが出来ただろう。
「(けど、戦場で冷静でいられる人はそうそういない)」
ルールに則った剣闘じゃない。
ここはもうルール無用な戦場だ。
ならば、ソレを前提とした修練を積み重ねてきたリゼにこそ勝機はある。
眉間に一打をお見舞いしたリゼは続け様に石突での打突を繰り出す。
人中、顎、鳩尾と正中線の急所を突いて意識を削ぐ。
「強い奴と戦いたいだけなら、粛清騎士にでもなりなさい。私たちはいつでも歓迎するわ」
そして槍を翻して両膝を横凪に払い、姿勢を崩す。
「けど、自分が勝っていい気でいたいだけなら──」
崩れた姿勢、位置の下がった脳天に槍の柄を渾身の力で叩きつけた。
「── 箱庭の中でずっと飽きてなさい!」
意識を手放し、倒れ伏す寸前に微かに笑ったように見えたのはリゼの錯覚か。
うつ伏せに倒れた王者を前にして、リゼは乱れた息を必死で整える。
最後に格好はつけたものの、正直ギリギリの戦いだったとリゼは自認する。
万に一つの勝ちを偶々一回目で拾っただけだ。
「もっと、もっと強くならないと」
粛清騎士の末席に加えてもらえた以上、その意義を果たさなければ。
兎にも角にも、まずは背後に眠る脅威を排除しなければ話にならない。
そう思いながら、槍を持ち替えて振り返った瞬間。
──二対四つの瞳が、リゼ・ハウエルを凝視していた。




