ACT.180 星に焦がれて(Ⅴ)
ニコニコ静画でもコミカライズが公開されました。
よろしくお願いします。
アイシャが支柱のように立てていた愛剣の峰を思い切り蹴り上げる。
ソレは腕を使った従来の斬り上げを凌駕する威力と速度でリゼに襲いかかる。
半身を逸らしてギリギリに斬り上げを躱すと、次にアイシャは驚くべき挙動を取る。
斬り上げならぬ蹴り上げでカチ上げた刀身をぐるんと身体を軸に時計回りに回転させ、二撃目の斬り上げへと派生させたのだ。
先端に重心が寄っているからこそ、上から下へと落とす時により重量加速力が乗る。
そこに遠心力も更に乗算される。
「っあ゛!」
咄嗟に防ごうと構えた槍は、中腹にて真っ二つにへし折られる。
大剣の刃が逆袈裟にリゼの身体を斬りつけ、折られた柄の破片と自身の血肉が彼女の視界に舞う。
今際の際かもしれないその瞬間にリゼが思い返すは、以前手合わせした時にライが言った言葉だった。
『剣は筋力のみで振るうと弱い』
剣術について、どういう風に太刀筋を考えて戦法を構築しているのかをライへ質問した時に彼はそう答えたのだ。
曰く、剣自体の重量や遠心力そして重力などを用いて効率的に振るうのだとか。
効率を突き詰めるやり方が結局のところ、最も威力が出る。
『ひと一人の力より、世界の物理法則に則った方が断然に強力になる──つまりは』
リゼが、刹那の走馬灯から意識を現実へと帰還させる。
もう一度カチ上がった刃が三撃目を放とうとした瞬間に、彼女は一歩を踏み出してアイシャへ肉薄する。
──いや、そうでは無い。
リゼの一歩は、アイシャとの間合いを詰める為の歩みではなかった。
予想外の接近に一瞬思考が固まったアイシャを他所に、リゼはその横をすり抜ける。
遠心力を伴った斬撃は強力だが、太刀筋は読みやすい。
そして物理法則に則った動きは、単純な筋力のみでは急に止められない。
故に、リゼは容易にアイシャをすり抜ける。
『──無理に同じステージに上がる必要は無い』
直近でアルフォンソから言われた言葉を胸に、彼女は走る。
狙うは、彼女の背後で眠る双頭の竜。
瞬間、アイシャは叫ぶ。
「しまっ、ふざけるな!!」
アイシャ・セブンは、女性でありながらその体格はリゼと比べるべくも無く恵まれている。
一対一、正面からの戦闘経験の豊富さ。
今のリゼは、どの要素を取っても彼女の足元にも及ばないだろう。
しかし、それはあくまでも剣闘士としての話である。
見栄えのする奇抜な見た目の大剣を使った、豪快で派手で楽しませる戦法で、相手が自分と戦ってくれることを大前提としている。
──リゼはもう、ソレには付き合わない。




