ACT.177 星に焦がれて(2)
「見損ないましたよ、アイシャさん」
ゆっくりと扉を開けて、内にいるアイシャを正面から見据えてリゼはそう言った。
「見損なった、ね」
彼女の言葉を内心で反芻し、そう呟いたアイシャ。
確かにリゼから見たら、いや世間一般で考えてもそう取られて当たり前だとアイシャは気持ちを飲み込む。
だがもう、そういう段階では無いのだ。
「アンタが只者じゃないってのはなんと無くわかってた。大方、王国側の間者──違うな、聖教会の粛清騎士かな」
話しながらリゼの槍捌きを思い返して、あの戦い方は聖騎士だろうと当たりをつける。
ノウハウを蓄積されて教えられたであろう無駄の無い動きと、臨機応変な対応力に純粋な個人的な力量。
人ならざる者たちと一対一で戦うことが前提になっている戦い方と、アイシャは感じた。
「なんで私がこんな事をしたか、わかるかい?」
「それは、どっちの事を言っていますか?」
転生者に加担して、密かに竜を育て保管していた事か。
それとも、わざわざリゼをここに連れて来るような真似をした事か。
「質問に質問で返すのはマナー違反だぞ。まぁ、今回だけはいいか」
肩をすくめて敢えて茶化すようにリゼを咎めるアイシャだが、直ぐにその表情を真剣なモノに改める。
「両方だよ」
それはそうだと覚悟していたリゼだが、その言葉を吐いた瞬間にアイシャから感じた冷たい気迫に内心で息を呑む。
「まぁ、さっきの模擬戦から見てたなら察しはつくんじゃないか?」
多対一の模擬戦。
それでも埋まらない圧倒的な実力差。
アイシャの落胆と諦観。
「まさか」
ここでリゼは一つの答えに辿り着く。
ある意味でもっともアイシャらしく、それでいて残酷なまでに稚拙で自分勝手な理由。
それは──。
「──対戦相手が欲しかったんですか」
リゼの答えに満足そうに頷くアイシャ。
その姿に、リゼの頭は一瞬で沸騰する。
「そんな事の為に!?」
彼女は転生者と関係を持つことの危険性も、竜を相手にする危険性にも気が付いていない。
何故、竜の討伐にわざわざ粛清騎士が出向いているか。
竜の対処を間違うと何が起こるのかを。
「そんな事?」
その言葉に、アイシャのこめかみがひくついた。
明確な苛立ちと怒りだった。
それほどまでに、彼女に取ってはそんな事では無かったのだ。
だが、彼女は至って落ち着いてリゼへと語りかける。
「いや、アンタならわかる筈だリゼ」
親が子供に諭すように──否。
「アンタと私は、きっと同類なんだから」
同胞、同志に語りかけるように。




