ACT.176 アイシャ・セブン(Ⅵ)
アイシャの消えた地下通路へ進むことに対しては、リゼに躊躇いはなかった。
薄暗くはあるものの階段自体は短い。
壁に手を這わせながら、慎重に歩を進める。
手を這わせる壁からは乱雑な造りは感じられず、キチンとした建築様式を感じた。
第三者が隠れて作った秘密基地、という感じはしない。
「ってことは、この修練場作った人もグルになるのかな?」
小さく彼女はひとりごちる。
そして口に出してから、その文言に注釈を付け足した。
「有罪だったら、だけど」
明らかに怪しい行動をとっていながらも、リゼとしてはまだアイシャを信じたかった。
もしかしたら、何か騙されている可能性だってある。
そう思いながら階段下の扉と辿り着き、隙間から中を覗き見る。
薄暗くはあるものの、上の舞台と同程度くらいと部屋としては充分すぎる広さの部屋だった。
そして地下室の薄闇に、リゼは自身と因縁深い獣の存在を感じ取った。
人より大きな獣独特の息遣いと、肌感で感じる体温と圧迫感。
「──竜?」
事前にベルタから聞き及んでいた件を含めても、真っ先にソレを連想させた。
階段の影から、暗闇に慣れてきた視界が少しづつ明瞭になっていくのをリゼは感じた。
そして覗いた先の、その輪郭を捉えた瞬間に彼女は息を呑む。
「双頭の、竜!?」
体長はリゼ自身の三倍はあろうかという中型の竜だった。
だが、その姿は常軌を逸していた。
屈強な犬を彷彿とさせる四足獣の体躯に、馬のような首をもっつ二つの頭が乗っている。
右に赤く太い一角を備えた首が、左に短く不規則に連なった六本の角を生やした首が。
折り畳んだ前肢を枕に眠っている。
「ん?」
その異様を見た彼女は、同時にある結論に結びつける。
竜とは、転生に失敗した転生者の成れの果て。
一つの身体に一つの魂が原則のソレらが双頭となるのはあまりに不自然であった。
──つまりそれは、誰かの手が掛かっている可能性があるということ。
そして、通常群れを作らない竜を何らかの方法で率いていたとされるあの人物がその脳裏にはっきりと浮かんだ。
「確実にこれ、"竜王"が関わっているやつじゃない」
竜王を名乗る未知数の実力を持つであろう転生者。
そして、リゼの初任務に泥を塗り、同行したライを負傷させた相手でもある。
彼女にとって因縁の深い敵だった。
過去の無念を思い出し、強く奥歯を噛み締めた時であった。
地下室中央で眠りこける双頭の竜に夢中になってた彼女は、そも誰を追跡してここにやってきたのかを一瞬だけ失念していた。
「なぁ、そこにいるんだろ──リゼ」
一枚を隔てた扉のすぐ向こうから、そう呼ばれた。
本日よりコミカライズ版がコミックシーモアにて、先行配信されました。
他の電子書籍サイトからでも順次配信が開始されていく予定ですが、よかったら是非読んで見てください。
また、配信開始を記念して短編を投稿しました。
ライの師匠アスラン・アルデバランを主人公とした"アルドラの乱"のお話です。
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最強の少年聖騎士、転生者を狩る【外伝】アルドラの乱
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