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ACT.175 アイシャ・セブン(V)

「──OK、もういい」


 ため息をついたアイシャではあるが、その言葉には不思議と倒れ伏した四人に対する失望の蔑みは感じられない。

 言葉に含まれていたのは、純粋に"どうしよう"とか"困ったな"の様なニュアンスだとリゼは感じた。


「ご、ごめんなさいアイシャさん」


 よろよろと槍を杖代わりにして立ち上がるのは、アイシャに対し先手を打った剣闘士の娘。

 他の仲間と共に一撃で伸された彼女の表情には敗北の悔しさでは無く、自身の不甲斐なさを恨めしく思う自責の念が浮かんでいた。


「いいや、無茶を言ったのはコッチの方さ。よく模擬戦を受けてくれたねありがとう」


「あ、アイシャさん」


「アンタたちも、我が儘に付き合ってくれてありがとう」


 そんな彼女たちに対して、アイシャはむしろ労いの言葉をかけて頭を下げた。


「そ、そんなことなさらないで下さい!?」


「そうです、ワタシたちの方で今度は連携とかを練習して!」


「いや、もういいんだ」


 次に彼女が吐いた言葉には、諦観の念が込められていた。

 ──おそらくは、自分自身へ向けての。

 俯き右手でガシガシと頭を掻くと、アイシャは顔をあげて彼女たちを見据える。


「付き合ってくれてありがとう。君らは私と違って剣闘試合もまだまだあるんだし、先に帰って休んでくれ」


 紛れもない、心からの労いの言葉。

 しかし、リゼはそこから別のニュアンスを感じ取った。

 

(何か、遠ざけようとしている?)



 そして模擬戦相手をしていた四人は、アイシャに深く礼をして部屋を後にする。

 人がいなくなった修練場に、沈黙の(とばり)が降りる。

 アイシャは彼女らが出て行った扉をしばらく眺めていた。

 その姿はまるで。


(誰もこないか、確認しているみたいな)


 誰かが突然戻ってこないか。

 または、別な人物が急に入ってこないか。

 その様子とタイミングを見計らっているような。

 何かしらの予感を感じとったリゼは咄嗟に手のひらで口を塞ぎ、先程までより深く念入りに気配を消す。

 吐息の一欠片すら漏らすまいとし、物陰からアイシャの一挙手一投足を見逃すまいと凝視する。


「──もう良いか」


 修練場の静けさを、彼女の一言が破る。

 それは闘技場の英雄(チャンピオン)たる彼女らしからぬ、嫌に落ち着いた声だった。

 霜のように冷たく張り詰めた諦観と、それと相反する粘り着く憤怒が込められた(それ)は、まるで悪役(ヒール)の独白であった。

 大剣を引きずりながら舞台を降り、その角に手を掛ける。


(何を?)


 リゼの脳裏に疑問符が浮かんだのも束の間。

 何か大きな装置が外れるガコンという音と共に、舞台そのものが僅かにズレる。

 そして、ズレた舞台の影にアイシャの身体が沈み込むように吸い込まれていった。

 瞬間、心臓が大きく脈打つのをリゼは感じた。


「──うそ」


 一拍をおいて、リゼは忍び足で物陰から出て彼女が消えた場所へ向かう。

 嘘であってくれと、リゼは内心で願う。

 アイシャ・セブンという女傑とは長い付き合いではないものの好感を抱いていたからだ。

 何となく自分と似た部分を感じた一方的なシンパシーかもしれないが、それでもリゼはアイシャにある種の信頼を置いていた。

 彼女は、転生者なんかへ協力するタイプの人ではないと。

 進んで悪事に加担するような悪人(てき)ではないと。

 しかし、リゼの願いは眼前の事実によって半ば強制的に打ち砕かれる。


「嘘でしょ」


 ──いつもリゼを含めた皆が使っている修練場には、隠された地下が存在していた。

comicスピラ様よりコミカライズが11/22(金)より配信が開始されます。

作画は御塩(@REDmanS666)先生で、タイトルは副題が取れて『最強の少年聖騎士、転生者を狩る』となっています。

HPより一話冒頭部分の試し読みが解禁されていますので、下記URLかcomicスピラ公式HPから是非読んでみて下さい。


作品ページ

https://spira.jp/comic/2808/

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