ACT.174 アイシャ・セブン(Ⅳ)
「いつでも良い、来な?」
そう言うアイシャが構えるのは、大剣。
ただそれは刃を潰しているとはいえ、一般的な大剣とは些か趣が違う代物であった。
聖騎士及び騎士たちの中にも大剣──両手持ち直剣を好んで用いる者が幾人か存在する。
両手で振るえる事による生半可な装甲をモノともしない攻撃力と長い刀身によるリーチによって多対一の戦いや、槍などの長物相手に有利に立ち回れるからだ。
だが、アイシャの大剣はリゼが普段目にする大剣とは刃の構造が別物であった。
刃の幅が小盾ほどもある上に片刃で切先が存在していない。
言ってしまえばそれは、大剣というより──。
「──巨大な、鉈?」
巨大な鉈、もしくは山刀。
そうとしか形容できない姿をしていた。
アイシャは右手で柄を握りその刃を下に向け、峰の中ほどに左手を添える構えを取る。
見た事の無い武器を使うアイシャに興味を惹かれて、その一挙手一投足に目を光らせるリゼ。
そして、アイシャを囲む四人がとうとう動き出す。
「しっ!」
短く息を吐くと同時に四人のうちの一人、槍と盾を持つ娘が鋭い刺突を放った。
刺突のその瞬間まで前に構えた盾で穂先を隠し、狙いを読ませないという強かな攻撃。
その刺突をアイシャは、右手を前に出すようにして受ける。
二点を押さえてその中間点で攻撃を防ぐという守りに堅い防御術。
分厚い刃に阻まれて、ガンという鈍い音とともに穂先が弾かれ軌道が逸れる。
槍の娘にとっての隙、それを逃さずにアイシャは彼女に向かって踏み出した。
だが、それはアイシャ自身の隙にも繋がった。
「「「──ッ!」」」
"受け"の構えを解いたアイシャに、残る三人が迫る。
大槌を振り上げた娘が、刺突剣を構えた娘が、湾刀を振りかぶる娘が。
刹那の瞬間、アイシャは姿勢を大きく下げた。
それは避けるというより、それぞれの攻撃が自身へ到達するまでの時間を延ばす技術。
低く低く下げた姿勢のまま、踏み込みに前に出した脚を軸に彼女は身体を捩る。
そして刃に重心が依っている歪な大剣が遠心力を加速させ、回転するような豪快な薙ぎ払いが四人全員に襲いかかった。
「あ゛ぃ」
潰れた蛙のような、肺から搾り出すような鳴き声をあげたのは誰なのか。
刃は潰してあるといっても相当重量のある鉄の塊、それをそれぞれが真面に身体に受けたのだ。
放射線状にそれぞれに吹き飛ばされた彼女たちは、咄嗟に立ち上がれる程の余力を残していないようにリゼには見えた。
「──OK、もういい」
アイシャはそう落胆したかのような溜息を吐き、大剣を地面に突き立てた。




