ACT.172 アイシャ・セブン(Ⅱ)
アイシャ・セブン。
シャウラ剣闘士の看板選手の一角にして、実質的な覇者。
──女剣闘士たちの中では、という話では無い。
男女性別問わず、全ての剣闘士の中で彼女が一番強いということだ。
「彼女が、何か?」
リゼが口元に手を当てて、少し棘のある声色で疑問を口にする。
剣闘士として過ごした期間は短いものの、リゼから見たアイシャという人物の所感は悪いモノではなかった。
快活であり、優しく面倒見も良い。
規律に厳しくも杓子定規では無い。
アイシャが悪事に加担する様な人物には、到底思えなかったのだ。
「アイシャ・セブンもまた、重要人物というだけだよ」
リゼの声色と表情の変化に、随分と彼女を気に入っているらしいことを察したベルタは、敢えてそこに言及せずに答える。
「彼女は三剣の一人と繋がりがあってね、その方とは中々会うことが難しくて」
「お前が?」
ベルタは交渉や内政的な駆け引きに関して言えばプロフェッショナルである。
そんな彼がコネクションを繋げられない、というより会うことすら出来ないというのは非常に珍しい。
「向こうにも事情があるんだろうとは思う。だからこそ、最後の一人から話が聞ければようやく全体像が掴める気がするんだ」
腕を組み、真剣な眼差しで虚空を睨むベルタ。
こと今回の任務は単純じゃない。
徒党を組む転生者にしゃしゃり出てきた国王側の人間に独自の権利下で統治されるシャウラ、巨大かつ閉鎖的な環境の闘技場関係者。
確かに一人でこの件に対するのは無謀で、尚且つ自分がいなきゃ駄目だったと今更ながらベルタは感じた。
今まで荒事をこなせればそれでいいという話だったが、今後はそうはいかなくなるかもしれない。
取り敢えずこの件が片付いたら、腹芸の授業でも皆んなにしてみるかと内心でベルタは決意する。
「兎に角、君にはちょっとアイシャ・セブンと接触して上手く私とコネクションを繋げて欲しい。それは流石に男性と女性では難易度が異なるからね」
ベルタにそうお願いされて、リゼは挽回のチャンスに意気揚々と力強く頷いた。




