ACT.170 三剣ウィリアム・グラディウス(Ⅳ)
「何度も言わせるな、儂にとってはどちらでもいいのだよ」
──先程の言葉はベルタを挑発する為では無く、大老の真意であった。
「最終的に街に巣食う転生者という魔を祓えれば、どちらがやったとて関係ない」
「お互いがお互いの活動を阻害するようなことがあってもですか?」
それは現に昨夜の事件にもかかわってくる。
あれは、転生者側が意図的に敵対者を誘い込んで始末してしまおうとした罠だ。
だが、粛清騎士たちを対象とするならば余りにも弱い。
つまり、本来あの罠は粛清騎士たちを嵌める為のモノではなかったのだろう。
それが、ベルタが国王側が動いている事に気がついた一因であった。
共通の敵を前にして、互いが互いの行動を邪魔してしまっているという状況は既に起こり始めている。
だが、大老は──。
「それが何だ?」
ティーカップを手に取り、温かな紅茶で唇を湿らせると、大老はなんて事なさげにその暴論を口にした。
「どちらにどれだけの被害が出ようと、儂は痛くも痒くもない」
「テメェ!」
大老の言葉に怒り心頭に達したアルフォンソが一歩前に出そうになったのを、ベルタが片手で制する。
三剣ウィリアム・グラディウス。
彼はこういう男であった。
あくまで自身の損得勘定のみを優先し、それでいながら政治的立ち回りが上手い。
今ここで話をしているのが、粛清騎士ベルタではなく王子ベルタであったのならまた違う話をしたであろう古狸にギジりと奥歯を噛み締める。
上手く入り込む為には大老を頼らざるを得なかったからとはいえ、彼を頼ったのは失策だったかとベルタは一瞬考える。
「──わかりました。貴方がそういうスタンスなら、我々も貴方を最大限に利用するとしましょう」
だが、過ぎてしまったことはもう取り返しようがない。
それをわかっていたからこそ、ベルタは思考を切り替える。
ベルタは、あまりに理不尽かつ自分勝手な権力者の相手は慣れている。
──その対処法すらも。
怒り心頭に達しているのは何もアルフォンソだけでは無い。
この瞬間、ベルタはこの肥え太った古狸をわからせてやろうと決めたのだった。




