ACT.165 波紋(Ⅲ)
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「──それで、彼女の様子は」
市街にいくつか存在する彼らの秘密の家にて、レジー・グレイヴは別室から戻ってきたカレンに対して不安げに声をかける。
「きちんと処置したから大丈夫よ。ただ痛みと発熱が酷かったから鎮静剤打って寝かせてるわ」
そう聞いた彼はホッと胸を撫で下ろす──ような仕草は見せずに、痛ましく悔恨の念に強く唇を噛む。
彼女に今回の指示を出したのはレジーであった。
先日捕らえた間者から引き出した情報を元に、街に潜む蟲を燻り出して一手に引きつけて処分する腹積りだったのだ。
街に潜む蟲──聖ルバウス王国の国防部からの間者を。
レジーらが隠匿している竜は、使い道次第では兵器として見られても不足ない威力を秘めている。
その存在の噂を知った猟犬たちがウロウロと周囲を嗅ぎ回っているのはレジーたちも知っていた。
だが、彼らは所詮ただの人間である。
異能を保有する転生者には、束になってかかろうとも相手にはならない──筈であった。
「幼い体躯ではありますが、かなり強力な異能を持った彼女が返り討ちにされるだなんて」
予想外ではあった、だがこの落ち度は自分にあるとレジーは自身の無能さを恥じる。
そんなリーダーの姿を横目で見ながら、カリンは顎に手を当てながら思案する。
「あの子が相手したのは、聖教会の粛清騎士でしょう。じゃなければ転生者以外にあの子が不覚を取る筈がないですから」
「──馬鹿な」
カリンの言葉に対して、レジーはそんな感想を返す。
彼のリアクションは、かなりおかしなモノであった。
転生者側からしてみれば、自分たちに敵対する存在として真っ先に名前が出てくるのが粛清騎士である。
粛清騎士は、転生者がある所に奴らは必ず現れる最大にして最悪の天敵と言っても過言では無い。
むしろ今回駆除しようとしていた王国の猟犬などより、余程出張ってくる可能性が高い相手の筈である。
馬鹿なというリアクションは、本来ならばあり得ない。
だが、それには明確な理由があった。
「──あの女からの内通は、無かった筈ですよ」




