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ACT.164 波紋(Ⅱ)

「隣、いいですか?」


 そう言ってリゼは、有無を言わせない速度感で例の人物の右隣に腰掛ける。

 この食堂に集っていた面々の中で唯一、会話にあまり参加せず神妙な面持ちでいた人物──アイシャ・セブンだ。


「ん、あぁ、いいけど」


 どこか心ここに在らずといった感じの生返事を返すアイシャに、むしろ好都合だとリゼは内心でガッツポーズを取る。

 こういう状態の方が、話を聞き取りやすいからである。


「いつもより疲れているみたいですけど、何かありました?」


 横目でアイシャの顔を伺いながら、あくまでも軽い気持ちで聞いてますといった体裁を醸し出しながら問いかける。

 実際、いつも威勢がいいというか気力満点といった感じの彼女が妙にしおらしい。

 しおらしいというより、いっそ(しお)れているといってしまってもよい。


「疲れてはいな──いや、疲れているっちゃ疲れているのか?」


 頭痛がするのか、こめかみを押さえながら苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「もしかしたら話は伝わっているかもしれないが、昨日獣の蔵という剣闘に使う動物を飼育している施設で事件が起こってな」


「事件、ですか?」


 その想定外の言葉にリゼは驚いて目を見開く。

 てっきり、その騒動で猛獣が死んだ原因は飼育員による事故か何かしらの病によるモノだと思っていたからである。


「何者かが深夜に忍び込んで、猛獣を殺しまくったみたいでよ」


 全く迷惑も甚だしいと、怒りと苛立ちを滲ませるアイシャ。

 反面、リゼは血の気が引いた。

 剣闘に使われる猛獣は、別に弱い訳ではないことを彼女は身をもって知っている。

 それを何匹も人知れずバカスカ殺すなんて芸当が出来る人物なんて敬愛する先輩であるライ・コーンウェル──が名を連ねる粛清騎士たちぐらいであろう。

 つまり、今この街に滞在してるアルフォンソとベルタが犯人とみて間違いないと直感する。

 リゼの顔色が若干悪くなったのに気づかずに、アイシャは申し訳なさそうにリゼに言う。


「動物の数が不足して色々都合を合わせた結果、本当は次の試合はまだまだ先だったリゼには申し訳ないが直近の試合に出場してもらわなきゃならないかもしれない」




「(何してるのよ、あの先輩たちはぁぁぁああああ!!)」


 ──という絶叫を口の中で噛み殺し、リゼはまたあの下着みたいな露出の衣装着なきゃならないことに軽く絶望した。

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