ACT.163 波紋(Ⅰ)
▽▲▽
「ん?」
昼下がりの女剣闘士宿舎にて。
午前中の自主トレーニングを終えたリゼが食堂へやってくると、何故かいつもよりも騒がしさを感じた。
「何かあったのかしら?」
聖協会とは違い、ここは食事中の私語厳禁というわけでは無い。
男性側は知らないが、むしろ女子側の食堂は大体姦しいことが大概である。
ただ、その騒がしさにも空気感というかイロがある。
普段のソレは多種多様で雑然としているのに対し、今は色が揃っているとリゼは感じ取った。
ようは、全員がほぼ同じ毛色の話題を口にして近い感想や感情を抱いている──みたいな。
有り体に言うなら、事件の香りである。
ソレを感じ取ったリゼは、内心で気を引き締める。
そもそも、こういった外からは探りづらい内部の事情や情報を得る為に彼女は剣闘士として潜入したのだ。
決して露出度の高い格好で命懸けの見せ物を演じる為などでは無い。
カウンターでいつもの大麦主体の定食を貰い、盆を持ってそれとなく一番大きなグループの近くの席に座る。
彼女らに背を向けて匙で蒸かし芋を口へ運びながら、神経を集中させて聞き耳を立てる。
「──れで、獣の蔵でなんでそんなことが起きてんのよ」
「わからないわ。聞いた話だと、何匹かオジャンになったせいで対戦予定の変更が──」
口々に交わされる話を頭の片隅でツギハギしてまとめると、昨晩に剣闘で使う猛獣たちを飼育してる施設で何匹かが急死したらしい。
そのせいで、剣闘士のスケジュールも変更になる可能性がある──とのこと。
「このタイミングってことは、何もかもこっちの事情と無関係って訳じゃなさそうだけど」
ただそれだけだと情報としての価値が低い。
むしろ本質が外の出来事であるなら、外担当のアルフォンソらの方が詳しいだろう。
ならば、得るべき情報はその事件そのものでなく、その影響で起きる変化だろう。
対戦スケジュールの変更で誰が得をして、誰が損を被るのか。
目を平らにして、さりげなくを装ってサラリと食堂内にいる剣闘士たちの表情を伺う。
「──いた」
多くの剣闘士たちの中で、ひとり。
明らかに周囲と違う表情を見せている人物を見つけ、リゼは盆を手に立ち上がって彼女の方へ向かった。




