ACT.162 貴金の転生者(Ⅳ)
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深夜と呼ぶのも憚られる、夜明けを控えた時刻。
眠らずの街の影を踏むように、ひとりの少女が弱々しい足取りで歩く。
彼女の歩む後には、無数の──夥しい量の血痕が続いている。
多大な事件性を帯びるソレを、普段の彼女は残すという不手際は犯さない。
あくまで、普段の彼女であるならば。
「く、くそっ、畜生がっ」
空に向かって憎悪の呪詛を吐きちらしながら、彼女は左腕を抑えながら決死の表情で闇の中を歩く。
暗闇でわかりづらいが、その腕は血に塗れ──二の腕から下が存在しなかった。
「話が違う、王国側の密偵なんて雑魚じゃなかったのかよ」
油断と慢心。
この世界に二度目の生を受けてから、彼女が敗北を喫したのは竜王のみ。
異能を持たない有象無象の原住民なんかに敗北するなど、あってはならない。
「許さない、絶対に──」
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「やられた、ね」
蛟尾の伸縮率を操作して引き戻した鞭の先には、人の左腕が巻きついていた。
子供のモノと思われる細腕を手に取り、ベルタは無表情で淡々と言葉を続ける。
「"根"の人たちに、左腕のない子供を探させるよ。この街には子供自体少ないだろうし、何もなければ見つけやすいだろう」
転生者を取り逃がした己に強い苛立ちを感じて、自然とベルタの語気が強くなっているのをアルフォンソは感じた。
「さっさとこの街からズラかるって可能性は?」
「無い」
アルフォンソの問いに、ベルタははっきりと否定の言葉を吐く。
「奴らは非常にプライドが高い──異能という才を得て敗北を知らないからね。そんな彼らが一度負けたら、どう考える?」
「なるほどね」
必ず再戦に来る。
だが、ただの転生者であれば、あの場面で腕を犠牲に逃げるだなんて選択は選ばない。
敗走という最悪の苦渋を舐めても、その上をいく上位命令もしくは使命があったのだろうか。
そう考えて、アルフォンソは「面倒な」と溜息を吐いた。
「じゃあ、再戦に備えて相手の能力を確認しますか」
アルフォンソはそう言うと、先程自分が斬り伏せた黒豹の死体へ向かう。
片手剣を手に、死体に空いた無数の狙撃跡をグリグリと掻き回して中身を掘り出してみせた。
「これは──金貨?」
転生者が射出していた物質の正体は、見慣れぬ黄金の貨幣であった。




