ACT.161 貴金の転生者(Ⅲ)
目先の闇へ伸びた蛟尾が、転生者の腕に巻き付き捕える。
手元へ返ってきた反応から、巻きついた腕があまりに細いことが伝わる。
転生者は幼い子供であるという推測をベルタは瞬時に立てる。
──そして刹那の瞬間に、ベルタと暗中の転生者との間で無数の駆け引きが行われる。
蛟尾で転生者は腕を取られはしたが、それは裏を返すとベルタを捕縛したということとも同義であった。
更にこれにより、両者間を繋ぐ蛟尾を経由してお互いがお互いの位置を正確に把握した。
この瞬間に両者は多くの取捨選択を迫られる。
転生者は腕を封じられてはいるものの、異能を用いた狙撃には問題ない。
しかしここで攻撃という選択肢を選ぶなら、ベルタを狙撃した間にアルフォンソによる接敵を許すことになる。
相手を殺せるが、自身の命も天秤に掛けざるを得なくなるのだ。
一方のベルタは蛟尾で捕まえたのが首でなく腕であることを察知し、この一瞬で致命傷を与えられないことを悟る。
だが、先程猛虎を仕留めた際と同じ手際でその腕を使い物に出来なくするのは可能性であった。
仮にカウンターで自身が致命傷を負う事になっても、側にはアルフォンソがいる。
ベルタにとっての蛟尾のような、あの武器が無くとも彼が手負の転生者に遅れをとることはないだろう。
ベルタもまた、自身の命と使命を天秤にかける。
──そして、先に決断を下したのもベルタであった。
彼は柄を操作して、巻きついた蛟尾のかえしを起動させる。
ベルタ・ディ・ゼギュールは歴戦の粛清騎士──自身の命を惜しまず、命を賭けることに躊躇いなどは微塵もない。
自らの死すら賭けて、彼は蛟尾を引き締める。
覚悟の差がベルタと転生者、両者の明暗を分つ。
腕に絡みついた鞭が万力のような負荷をかけ、華奢な骨肉が砕けるのを激痛と共に感じて転生者も決断を迫られる。
──次の瞬間、肉を根こそぎ断つような壮絶な異音が獣の蔵に響き渡った。




