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ACT.158 蛟尾(Ⅲ)

あけましておめでとう御座います。

 ベルタが鞭を振るう。

 一振りで三度、闇の中で音が爆ぜる。

 ()()()、打ち据え、弾かれて複雑な軌道を描きながら凶暴な(マモノ)が哀れな獣共に襲い掛かる。

 月明かりすら差し込まない暗中で、まるで指揮棒(タクト)を振るうかのように優雅に彼は(たたか)う。

 彼が指揮する度に奏でられるのは獣の悲鳴と抉り裂き爆ぜる肉の音色。

 蛟尾の鋼をも凌駕する硬度からの鋭い打撃は、もはや斬撃と言っても過言ではない。

 音による威圧で獣共の思考を恐怖心で鈍らせ、その間に圧倒的な手数と射程(リーチ)で肉を裂き骨を砕く。

 檻から放たれた熊に獅子、狼が瞬く間に無数の傷を負い果てていく。

 そしてただの一頭すら、彼に触れることすら叶わずに周囲一帯を血と肉で染め上げて命を散らしていった。


「こんなモノかな?」


 粛清騎士序列第二位にして"最高の騎士"と呼ばれる男、ベルタ・ディ・ゼギュール。

 彼は最も美しく華麗に、そして残酷に敵を殲滅させる殺人技巧を持った粛清騎士であった。


「──相変わらずエゲツねぇな」


 喉元を掻き切られた黒豹の身体を肩に担ぎながら、アルフォンソは引き気味に呟いた。

 暗闇での戦闘訓練を積んである彼らにとって、暗所での戦闘は不利には繋がらない。

 アルフォンソはよく効く夜目で、当たりの惨状を見渡す。

 壁や床に飛び散った大量の血痕とグズグズになった肉片に思わず顔を(しか)める。


「手負の獣一匹に、随分仕留めるのに手間取ったね」


「お前が早すぎるん──」


 アルフォンソがその言葉を最後まで口にするより先に、ぞわりと背筋を逆撫でする鋭い悪寒を感じた。

 瞬間、彼らは同時に身を翻す。

 ──二人ともが長らく粛清騎士として務め、数多の転生者と対峙してきた。

 そしてその多くは異能(チート)を用いた()()()()に近い性質の技を繰り出してきた。

 だからこそ、彼らは転生者と対峙する際は直感を信ずることが多い。

 理由なき死の予感を先に感じ取れる才覚があるからこそ、彼らは長くその任を完う出来ているといっても過言ではなかった。

 だからこそ、その時二人は同時に強い死の予感(ヴィジョン)を感じ取り、すぐさま回避行動を取った。

 しゃがみ込まなかったのは単に、足元を狙った攻撃の可能性も考慮してだ。

 彼らがバックステップで下がった途端、高速で飛来するナニカがベルタのいた位置を掠める。

 それを空気の振動にて如実に感じとった二人は、警戒心を露わに向こうを睨む。


 ──暗闇の彼方に潜む、転生者の見えざる姿を。

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