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ACT.92 レオーネたちの戦い(Ⅱ)

 呆気なく。

 存外に呆気なく、転生者は息の根を止めた。

 その亡骸をレオーネは肩で息をしながら見下ろす。


「殺した」


 怪物のような肢体と裏腹に幼い顔つきをした転生者の姿を改めて見つめ直し、彼女は小さく息を吐く。


「殺せた」


 小さく小さく、その言葉を口にする。

 ライからは逆光となって彼女の表情はわからない。


「──殺せる」


 噛み締めるように呟き、手をぎゅっと握りしめる。

 まるで、たった今殺した命の感触を確かめるように。

 そして彼女は天を仰ぎ見る。

 いや、レオーネが見ている先は(そら)では無い。

 空の向こう、同じ空の下に今も生きているであろう弟に向けて、レオーネは言葉を口にする。


「今度は、今度こそは私が貴方を殺してあげる。貴方の罪を私が禊ぐ」


 まだ命の感触が残るその手を掲げて、彼女はそう宣誓した。


▽▲▽


 転生者を(ころ)したなら、粛清騎士の仕事は終わりだ。

 そもそも、それだけに特化した超越特権を持っているがゆえに任務の障害や支障になる事柄以外には基本関わることは推奨されていない。

 だが、それとは別に人として通す"義"や"仁"はある。


「あ、姐さん?」


 激しい戦闘があったあの日から、三日後。

 スラムの肋屋にレオーネとライは再び訪れた。

 厳しい黒鎧の姿で敷居を跨ぐとそこにはあの時助けになってくれた小男と、レオーネのお願いを引き受けてくれた二人の不労者が新たに居座っていた。


「こんにちは、元気そうね」


「へ、へぇ」


 以前と違い酒精が回っていない為、三人とも腰が引けている。

 威圧感のある鎧姿なのも原因のひとつであろう。


「今日は幾つか()()があってきました」


 こうしてライの口から出る言葉を、三人は固唾を呑んで聞く。


「まずは先日の件で、皆さんには大変お世話になりました」


「三人とも御協力感謝! ありがとね!」


 ライは深々と頭を下げ、レオーネは明るく手を振って感謝の意を示した。

 そして次にライが切り出したのは事件の顛末、その一端である。


「次に、転生者の処分が完了し、然るべき機関による()()()の調査も開始しました。貴方たちの生活や命がこれ以上脅かされることは無いでしょう」


 今回の一件、転生者を利用した憲兵団側とプロキシマ行政機関には聖教会側からではなく、王国の機関が調査に当たることとなった。

 同じ王国側であるから甘い処分が下りそうに見えるが実際のところは真逆である。


「こういう時ベルタ様いると助かるよねぇ」


 小さな声で、レオーネは序列第二位の粛清騎士に感謝する。

 実質的な粛清騎士の長である彼にある()()()()()に感謝しているだけであるが。


「それで最後に、良かったら私たち聖教会から皆に仕事を斡旋しようかと思って」


 最後にレオーネが伝えたのは、彼らにとって予想外の内容であった。


「ここじゃない居場所、あげられるけど?」


 粛清騎士の聖教会からの仕事と住居の提供。

 それは彼らにとって破格の報酬と言えた。

 本来なら喉から手が出るほど欲しいだろう。

 スラムに留まるのは、ここにしか居場所がないからであり、好きで居るわけでは決してないのだから。

 しかし、彼らは──。


「──遠慮しま、す」


 一瞬、顔を見合わせた後に口を揃えてそう答えた。


「ジブンたちがここにいるのは、ジブンたちのせいってのも少しあるんです」


「だから、今のまま身の丈に合わないトコ行ったってまた駄目になるかもしれねぇッスから」


「──だから、ここでまだ自力で這い上がる努力をしたいです」


 みすぼらしい格好をした彼らは、そう言って笑う。


「こんなオレらでも騎士様や姐さん助けられたんス、まだまだヤレるッス」


 その笑顔は何処となく自信に満ち溢れていて、ライとレオーネは少し彼らを侮った自分を恥じた。


「──皆も、これから頑張ってね。私たちも頑張るから!」

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