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そして夜は更ける。

 愛するダーク様の顔も見れた。


 別の日に会う約束も何とかもぎ取れた。


 食べて貰えるかは分からないが、クッキーも渡せた。



 結果として言えば、喜びの舞いでも踊らねばと思うほどの上々の首尾ではあったが、屋敷に戻った私が夕食後、真っ先に行ったのは、腰への湿布である。



 ◇   ◇   ◇



「あだだだっ、ルーシーもっとゆるく巻いてってば!青あざになってるの分かってるでしょうが」


「ああ申し訳ございません」


 自室ではしたなく下着姿で呻き声を上げる私は、恋する乙女というより子供の運動会で張り切ってしまったオヤジのようである。

 湿布も貼り終えるとようやく人心地ついたのでガウンを羽織り、ルーシーからホットミルクを受け取った。


「………ふぅ。それにしてもルーシー貴女とっさとは言え、よくあんな強引な病弱設定ぶっこんで来たわね。それにパンチも、素早くて堂に入ったものだったわ。何か習ってたの?」


「リーシャお嬢をお守りするために護身術を10年ほど前から。力では男性に敵いませんから、スピード特化で。

 先生からは『紅い流れ星』と呼ばれておりました」


「ちょっ、それは聞き捨てならないわ。何が護衛よ全く私のこと守ってないじゃない。信頼すべき護衛から攻撃を受けた哀れな被害者じゃないの。もう少し加減しなさいよ危うく貴女じゃなくて私が流れ星になるとこだったでしょうが。私が死んだら誰がダーク様を幸せにするのよ」


 私がムッとすると、ルーシーは意外そうな顔をした。


「少しばかりやり過ぎたかも知れませんが、私はお守りしましたよちゃんと」


「何がよ」


「リーシャお嬢様のダーク様への次へのデートと、コ イ ゴ コ ロ」


「………………」


「あっ、今ルーシーうまいこと言うじゃないの、そんなこと言われたら怒れないわ、とか思いませんでした?」


「やだなんで分かるのよ」


「伊達に十五年もお側にいる訳ではありません。お嬢様の思考回路なんて穴の空いた井戸の水桶みたいなもので、駄々漏れなんですよ駄々漏れ」


「くっ。さすが私の影武者兼ブレーン兼マネージャー兼護衛兼愛読者ね。貴女には敵わないわ」


「また頼みもしてないのに勝手に二つ名を増やして頂いてありがとうございます。

 もう面倒ですから全部ひっくるめてメイドか、紅い流れ星で良いじゃないですか。

 第一、愛読者って職業ではなく趣味ですし」


「ルーシー実は結構紅い流れ星って気に入ってるんじゃないの。でもそうね。私も段々覚えられなくなりそうだから、一括りにメイドにさせてもらうわ。ところでダーク様とのデートの件なのだけど」


「ほんのりとした期待を裏切るお嬢様のスルースキルも私の好みでございます。

 ところで、で思い出しましたが、リーシャお嬢様、ずっと出版元と揉めてた『ラブアサシン』、とうとう出版決定までこぎ着けました」


「本当?あれ書いたのもう1年近く前だけど、ようやくなの?まあお蔵入りしなくて良かったけれど」


「まあ切れ者の若き宰相に放たれた美貌の凄腕の殺し屋とのラブロマンスですからね。

 ちょっと恋愛もので殺し屋が出るのは如何なものか、と経営陣の方で問題になっていたようですが、ここ最近のお嬢様は飛ぶ鳥をも落とす勢いでございますから、出版するべきだと編集者が強く推してくれたそうでございます」


「編集者って、確かあのメガネかけた三つ編みの、イザベラ=ハンコック名義の本を全部経費でなく自分のお金で購入してる子よね?」


「左様でございます。

 因みに私は愛読用と保管用の2冊ずつ購入しておりますが。

 本になるにあたりまして、推敲をするという名目で改めて原稿を読み返しましたところ、やはり殺しにきた宰相に一目惚れされて、あしらいつつも機会を窺っている内に別の殺し屋が宰相を狙って来て、ほっとけばいいのに返り討ちにしてしまい愕然とした時に、初めて宰相への愛を自覚してしまうところなどキュン死するんじゃないかと思うほどのトキメキでございました。

 『お前がヤられていいのは俺の剣だけだ』とベッドへ宰相を突き飛ばすシーンなどは、ああ本当の剣じゃなく腰の剣のことなのねホホホとそれから起きるめくるめく官能の世界への期待感を煽りに煽る珠玉の名言ではないかと出版が待ちきれない思いで一杯でございます」


「だから何度言えば分かるのよぅぅ音読禁止よぉぉぉーーーーっ!!

 大体編集者より自分の方が愛読者ですアピール必要なのかしら?本だって編集者に渡す前に真っ先に読んでるじゃない何で買ってるのよ」


 相変わらず的確に私の羞恥心を抉る子である。


「それはそれ、これはこれ。

 それで本筋に戻しますと、ダーク様の件ですが」


「だから毎回本筋に行く前の横道が長すぎるのよ。待ってたわ戻るのを。それで?」


 ルーシーはまたメモ帳を取り出し何かを確認し頷いた。


「恐らく後日、ダーク様は休日の予定を確認してこちらに連絡がくると思います。

 お嬢様、どう動くのがベストだと思われますか?」


「どうっ、て、ダーク様とお会いしてハンカチを受け取るのよね。それで………」


「はい。それで?」


「………改めてお付き合いをお願いする?」


「3点です」


「………低っ。10点満点で?」


「100点満点です。ダーク様に一度告白して玉砕してるのに、何をまた正攻法でアタックしようとしてるんですか。またからかわれてると怯えられて逃げられるに決まってるでしょう?

 先ずは心を開いて貰うために小出しに本気度をアピールするしかございませんでしょう」


「………小出し?」


「芝居に誘う、お茶に誘う、食事に誘う、買い物に誘う、訓練場に応援に行く、ついでにランチを作って持っていくのも忘れずに、そう言う細かいアピールの積み重ねが、『あ、もしかして本当に好かれてたりするのかも知れない』とダーク様の心を徐々にほどけさせるのです。頻度と熱意。これしかありません。

 本来お嬢様がイケメンからチヤホヤされる存在ですからね?信用されないのも当然だと思わなければ………そんな不本意だ、みたいな渋い顔しないで下さい。事実を客観的に申し上げただけです」


「うーー、でも、そんな高度なテクニック、私に出来るのかしらね」


「出来るのかしら、ではなくやるんです。リーシャお嬢様が本当にダーク様を幸せにしたいと仰るならば」


「………そうね。私は肉食系になると決めたんだもの!服を脱がして押し倒すぐらい顔色も変えずにやれなくて何が肉食系よ野獣系よっ」


「お嬢様、押し倒すまでに色々辿らないとならない過程を概ねすっ飛ばしておりますので順序は守りましょう。わたくし旦那様に殺されたい訳ではごさいません」


「………気をつけるわ」



 それから夜遅くまで、あーでもないこーでもないとひそひそ話は続くのであった。






ブクマ、評価ありがとうございます。


ちなみに本作に主人公の小説に言及する話がちょいちょい出てきますが、別にそこら辺はすっ飛ばしても大筋に関係ありません。単純に作者が書いてて楽しいだけです(・ω・)

実はBLは殆ど読まないんですけども(笑)←



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― 新着の感想 ―
[一言] 恐ろしくスピード感の有る文章だなと思ってたら、地の文がほとんど無いんですね。 会話だけでこれだけ伝わるの凄いです。
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