正しさよりも楽しさ
「リリンにそういう過去があったのか?」
その時私はリリンの両親が殺された気持ちを考えてみた。
いくら戦国の世であっても、両親を殺されたら慟哭するに決まっている。
「戦国の世はいつ誰かが死んでもおかしくない時代じゃった。
我は死神に転身した時、戦で亡くなった者や飢饉で亡くなった者達の魂の浄化に勤めた。
人間に生まれて良かったと思えるように我は願いながらそうした。
それでも人間は争いを繰り返す愚かな生き物じゃ。
じゃが今の世は良い時代になってきた。
じゃから雅人よもう二度と死ぬような事を考えるなよ」
「考えない考えない・・・リリンやわらしに靖子さんがついていてくれれば」
「大丈夫じゃ。我はいつでも雅人の味方だぞ」
「私もよ雅人さん」
「あたしも」
「みんながいてくれるなら、僕はもう大満足だよ」
リリンが「さて雅人よ、話は終わった。お主の魂を堪能させてはもらえぬか?」
「もちろんだよ」
私は早速、ポメラを出して小説を書いた。
そろそろ仕上がるメモリーブラッド第三巻向けてポメラのキーボードを叩く。
死神のリリンの魂と靖子さんが描くイラストとわらしの後光を浴びながら、私達は今一つの魂と化している。
私達の魂の向上だ。
魂の向上をしていれば、創造主の本とペンで聖なる力を手にすることが出来る。
人を蘇らせる事はもう出来ないけれど、サタン打倒の為に私達は魂の向上をし続ける。
今こそ聖なる力を。
「ちょんちょん」
そういって、私の肩をつつく感触がした。
「ん?」
と振り向いてみると、メモリーブラッドの主人公のメグが私達の前に現れた。
「女神の接吻の時以来だね」
「どうしたんだよメグ」
そこで靖子さんが目を丸くして驚いている。
自分が描いたイラストのメグを見てだ。
「君が靖子さんか?」
「はい、そうですけれども、何か?」
「靖子さんに雅人君、君達が描いたメモリーブラッドは本当にすばらしい物語となっているよ。これも二人のおかげだね」
「いやいや、リリンとわらしも入るぞ」
「ここでご報告なんだけれども、弱まりつつあるサタンの気配が消えた」
「消えたって、サタンは憎しみによって力を得ることが出来る」
「それはあなた達が創造主の本とペンで乱用しなかったからだと思う。
でも新たなる敵がサタンの力を利用して、憎しみも聖なる力も源としている者がいる。
そのものは大天使ミカエル、最高神の神よ」
「私達の聖なる力も吸収するって、いったいどう言うことなのだ?」
「今、ミカエルはあなた達の力を利用して力を蓄えているわ」
「そんな大天使がそんな事をするのか?私達は一人でも多くの人間に愛と希望を持てるような物語を描いて聖なる力を手にすることだ」
「ミカエルがどうして聖なる力を使ってこの世を混乱させようとしているか分かる?」
「分からないよ。そんなの」
「正義よ」
「正義?」
「ミカエルはこの世の中の人間を一人残らず消すつもりだわ」
「消すって、そんな、私達がしている創作活動はどうなるの?」
「しばらくは創作活動は止めておいた方が良いかもしれない」
「それじゃあ、魂の向上は?」
そこでリリンが「まあ、雅人よそんなに熱くなるな、しばらくは様子を見ておいた方がいいじゃろう」
「じゃあ、私達はこれからどうすれば良いの?書けなくなったら生活も出来ないし」
そこでメグが「雅人さんは小説を書くことが楽しい?」
「楽しいよ。小説は私の英知の源と呼んでも過言じゃない」
「だったら正義に打ち勝つには楽しい方を選ぶべきだね。聖なる力は正しさを意味している。それを覆すには楽しい方を優先してやっていくと良いよ」
「楽しいか」
「そう昔は正しさにとらわれて争いが起こった。これからはみんなで協力しあって、楽しい方を選んでいった方がミカエルに立ち向かう事が出来る」
「楽しい力でやればミカエルの聖なる力を制御できるんだね」
「そうよ。だからいつも通り楽しい気持ちでみんなで協力しあって創作活動に打ち込んだ方が効率的でしょう。ミカエルに立ち向かうには」
「楽しい力でも魂の向上は出来るの?」
「もちろん」
「ありがとうメグ。教えてくれて」
「お礼を言いたいのは私だよ雅人君。君の物語で活躍する私は言葉では感謝しきれないほどなんだから」
「これからもメグをかっこ良く書くからね。期待して待っていて」
「ありがとう」
そういってメグは消えていった。
「私達が描く物語の世界に戻ったのだろう」
「じゃあ、靖子さん、メグの言うとおり楽しく清らかにやろう」
「アイヤイサー」
と靖子さんが言う。
早速フードコートで私が小説を書かせてもらい、靖子さんはイラストを描きだした。
リリンはそんな私に寄り添って魂を感じ、向上している。
わらしは後光を発して私達の小説を楽しく書く意欲を燃やしてくれる。
楽しい楽しい創作活動は明け方まで続いた。
****** ******
少し寝て私達は岡山の健康ランドを後にした。
「さて次は山口まで行きましょう」
健康ランドの送迎バスに乗り込んで私達は岡山の駅前まで送ってもらった。
「じゃあ、靖子さん、私が切符を買ってくるから待っていて」
「分かったわ」
切符を買って私達はいざ山口に行く。
電車の中では私達は楽しく清らかに創作活動をしている。
みるみるアイディアが浮かんでくる。
楽しい、本当に楽しい、楽しくて幸せだ。
「雅人よ、心地の良い魂を感じるぞ、我にもっと魂をくれぬか?」
「もちろんだよリリン」
そこで靖子さんが「私の魂を感じるのを忘れないでね」
「忘れてなどおらぬ、靖子からの楽しい魂を感じるぞ」
山口県山口市に到着して、そこでも健康ランドの送迎バスが動いていた。
私達はそれに乗り込み、狸猫のチェーン店の健康ランドに向かう。
そこで脱衣所はわらしと靖子さんが一緒になり、男専用の脱衣所ではリリンと私が入る。
「リリン、別に男の湯までにつき合わなくても良いんじゃない」
「我は雅人とお風呂に入りたい。そこで楽しく魂の向上を努めたい」
リリンは見た目は九歳から十歳の間だ。
もうこの年になったら、私がいなくても女湯に入れる年頃だ。
でも本人が良いというなら別に構わないけれど。
「さてと、早速暑い中を歩いたから汗だくだよ。だからお風呂に入るか」
いつも通り、リリンが私の背中を流して、その次に私がリリンの背中を流す。
女の子の匂いって何でこんなに良い匂いがするのだろう?
「雅人よ、今嫌らしい事を考えておったな!」
「いや考えてないよ」
「なら良いが」
リリンの長い銀髪の髪、よく見ると、他のお客さんの視線の的になっている。
まずいリリンは今は素っ裸だ、他のお客に変な目で見られないようにリリンにバスタオルを巻いておこう。
「何をするのじゃ、雅人よ」
「良いからバスタオル巻いて、リリンはもうお年頃の年代なのだから、リリンの裸を見て興奮しているお客も入るみたいだしさ」
「別に我は気にならぬ」
さっきは私の事を嫌らしい事を考えていたって言っていたのにリリンの素性が明らかではない。
お風呂から出て、男部屋の寝室にリリンはついてきて、そこでポメラを取り出して、楽しく小説を書き上げる創作活動を始めた。
リリンが寄り添って私の魂を感じているリリンは本当に愛らしく、見ていて幸せを感じてしまう。
本当にリリンは可憐だ。
そういえばリリンは両親を比叡山延暦寺で両親を信長に殺されたと聞いた。
その時のリリンはどういう気持ちだったのだろうって考えてみれば分かるものだ。
「どうした、雅人よ、何か魂が悲しみを帯びておるぞ」
「ごめん、またやり直すから」
「何を考えておったのじゃ?」
「リリンの両親が信長に殺された事を聞いて思って」
「雅人は優しいな、こんな我の事を心配してくれるなんてな。じゃが心配はあまりせぬ方が良い、心配は憎しみの部類に入る。そんな事は思わないことだ」
「分かったよリリン、僕は楽しく創作活動に勤しむよ」
「その方が良い」
そうだ。心配は憎しみの部類に入ってしまう。リリンに余計な心配はかけない方が良いな。
私はリリンを信じることに決めたよ。
メグが言っていたミカエルか?
そいつは聖なる力を手にして私達人類を破滅させようと願っている。
だから私は正しさよりも楽しい方を選んで進めば良いのだ。
****** ******
一日が過ぎて、私と靖子さんは今日も創作活動に勤しんでいた。
少し眠って、起きたら、リリンは私を抱きしめながら眠っていた。
「リリン、時間だよそろそろ起きて」
「ふむ、おはよう雅人よ」
健康ランドの入り口で靖子さんとわらしは待っている。
「もう何をやっていたの?遅かったじゃない」
「ごめん寝過ごしちゃったよ」
「時間は厳守よ。さあ行きましょう」
健康ランドを出て、リリンは不思議そうに空を見つめた。
「どうしたのリリン。やはり静かすぎる。こうも連中が攻撃を仕掛けてこないなんて何かミカエルの奴は何を考えておるのか分からぬ」
「でもリリン、今はそんな事を考えたって何もないでしょ」
「それもそうじゃが、本当に静かすぎる、一応みなも気を引き締めるのじゃぞ」
「分かっているよリリン」
そこで私の携帯が鳴り響いた。
文術社の前原さんからだった。
「もしもし」
「もしもし雅人さんですか?」
「はい」
「先日はどうも、まさかあのバットエンドに終わる内容とネットに書き込んだ希望に満ちあふれるメモリーブラッドはどちらも圧巻でした」
「そうですか?」
「所で今はどちらにいらっしゃるのですか?」
「今は山口です。これから福岡に向かおうとしています」
「そうですか?メモリーブラッドの第三巻はいつ頃出来そうですか?」
「もう少しで出来上がります」
「そうですか?もしよろしければ、メモリーブラッド三巻が出来上がったらご連絡いただけませんか?」
「分かりました。出来上がり次第前原さんに伝えます。それと今度は出来上がったらメールで送信します」
「そうですか、その方が効率的ですよね。分かりました、また連絡します」
プチと通話が切れた。
「雅人さんもしかして前原さん?」
「うん、三巻が仕上がり次第に、データを向こうに送ると言っておいた」
「また私達の偽物が現れたりしないよね」
「さあ、分からないけれども、みんなに危険が及ばぬ事をさせておくよ」
そこでリリンが「さあ、福岡に向かうぞ」
福岡の駅前でも何も起こらなかった。
いつもなら私達の刺客が現れて、殺しにかかってくるのに。
本当にリリンの言うとおり、静かすぎる。
このような時はじっとしていた方が良いとリリンは言うがそうも言っていられない。
私達は旅をしながら創作活動をしていくことを誓ったのだ。
福岡行きの電車に乗り、そこで創作活動をしていた。
そういえば静かすぎると言って、メモリーブラッドの主人公のメグは言っていた。
サタンはミカエルに吸収されたのだと。
それで私達の聖なる力もミカエルの力になり、憎しみもミカエルの力になると聞いた。
どこかに現れるはず、ミカエルか?それともその回し者かが?
だから私達は創作活動をしながら、気を引き締めるしかない。
どんな相手だか分からないが私達は負けるわけには行かない。
だからこれからは聖なる正義の力ではなく楽しむ力で奴らに対抗していくしかない。
こっちには創造主の本とペンがある、だから負けるわけには行かない。
福岡に到着するまで、創作活動が楽しくてたまらない。
こうして私の妻である靖子さんと創作活動をしていけばこの先怖いものなしと言いたいところだが私は正直怖い気持ちも存在している。
私が怖い気持ちで入ると、リリンが私に、そのような魂でいるとサタンの思うつぼじゃと言われ、反省させられる。
そうだ私達はもっと胸を張っていくしかない。
もっと堂々と創作活動を楽しんで書いて行くしかない。私はメモリーブラッド三巻も面白い物が出来上がると自信がある。
楽しく、そして協力しあって、行く事こそ、私達の力の源だ。
どんな強力な相手でも私達は負けない。
負けるわけには行かない。
そんな思いで私は小説を描いている。
「靖子さん。調子はどう?」
「うん楽しいよ」
「それは良かった」
それよりもどうしてメグはミカエルの事を知っているのか?メグも敵ではない。私達の有能なパートナーだ。
とにかくこの先どうなるか分からないが私達は負ける訳にはいかない。
だから楽しく清らかに、私は小説、靖子さんはイラスト。
でもこの先、とんでもなく恐ろしいことが起こるのを私達は知らない。




