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死神様  作者: 柴田盟
第2章南へ。
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リリンの過去

「我も会いたかったぞ」


「さようでございますか」


「じゃがあの時、我らが一人でも多くの人を助けたいと言う思いはあの原爆の中では無理じゃっただろう」


「あの一人の女の子はその十年後に亡くなられてしまったのですから」


「そうじゃ、残念な事にな」


 そこでわらしが「おじさん遊ぼう」と言って魔法使いのおじいさんに抱きついた。


「これわらし、失礼じゃろうが」


「良いんですよ。座敷わらしですか?」


「よく知っておるのう」


「私も小さい頃座敷わらしと遊んだものです」


「お主の名前を聞いていなかったな?」


「私の名前は近藤敦と申します」


「我は死神のリリンじゃ」


「じゃあ、これからはリリン様とお呼びします」


「好きにせい」


 人見知りの激しいわらしが今日初めて会った魔法使いの近藤さんと遊んでいる。

 その最中私達は創作活動をしている。


 順調に進み、一息入れようと、延びをして、わらしと近藤さんが遊んでいる姿を見ていた。


 近藤さんはトランプマジックをしているのか、わらしはキャキャッと楽しんでいる様子だ。


 そこで靖子さんが、「わらしちゃんに近藤さん、何をして遊んでいるの?」


「トランプマジック」


「私も拝見させてもらってよろしいですか?」


「もちろん」


 そこでリリンが「おもしろそうじゃのう。我も拝見させてもらうとするか」


 ついでに私も拝見させてもらう。


 突然トランプが消えて「あらら、トランプが消えてしまったと思ったら」口からトランプが出るように「トランプは私の口の中から出てきました」


「すごーい」とわらし。


「大した物じゃ」とリリン。


 さすがは魔法使いと言ったところか凄い技を知っている。


 すると魔法使いの近藤さんはいきなり消えて、「どうしたと言うのじゃ?」リリンが言う。


「はい」


 と背後から声が聞こえて、瞬間移動をしたようだ。


「すごいのう。お主」


「ハッハッハッ、私は魔法使いだからな」


「ところでお主、そんな能力があるのに、こんなこじんまりとした喫茶店を経営している。

 お主には治癒能力があったはず、どうしてその力を世のために使わぬのじゃ?

 あの時言っていたではないか、一人でも多くの命を救いたいと」


「・・・」


 黙り込む近藤さん。


「どうやら話したくないようじゃな、まあ別に無理に話さなくても良いがのう」


 すると近藤さんは「人間は勝手な生き物です」


「何やら事情がありそうだな。我なら聞いてやっても良いぞ」


「数十年前ですかね、私は人を無償で治療を行っていた。私には嫁も娘もおりました。

 ここの喫茶店のマスターとして、働きながら無償で手の火傷や折れた骨などを治療していました。

 そこで重体の患者が訪れ、傷は治った物の後遺症が残ると言ったら、その父親は激怒して、私の妻と娘を誘拐して殺したのです」


「ふむ、それは災難じゃったのう」


「それから私は無償で治療を行う事を止め、治癒能力を法外な値段で取るようになったのです」


 近藤さんの気持ちは分かった。

 でも近藤さんにどんな言葉をかければ良いのか私には分からなかった。


 そこで先ほどの先生と呼ぶ、若い男性が来た。


「先生仕事です」


「内容は」


「交通事故による全身打撲です」


「一千万円用意しろと言っておけ」


「分かりました」


 若き助手らしき人は二階に電話があるのか、出てきたところから戻っていく。


 そこには初めてあった近藤さんの穏やかな姿は無かった。

 

 それもそうだよな、救ってあげたのに妻と娘を殺されてしまったのだから。

 でも近藤さんのやり方は間違っていると思う。

 でも私が同じ立場だったら、近藤さんと同じような事をしていたかもしれない。


「近藤よ。お主がそんな法外な値段を付けて人々を助けようとしても娘も妻も戻って来ないぞ」


「リリン様、あなたに私の気持ちなんて分からないはず、娘と妻がいたあの頃に私は戻りたい、愚かな人間に殺される前に」


 するとマスターは二階に上がり、私達の前から消えていった。


「リリン、あの近藤さんの娘と妻を創造主の本とペンで蘇らせる事は出来ないの?」


「何を言っているたわけが!そんな事出来るわけがないだろう」


 と怒られてしまった。


 大切な物を奪われる辛さ、私には分かるな。


 私はあの近藤さんを何とかしてあげたい。


「じゃが、一つだけ近藤を改心させる方法はなくはない」


「それってどんな事なの?」


「この部屋から二つの魂が泣いておる。

 これらはあの近藤の娘と妻の魂じゃ。

 かわいそうにのう。このままでは二つの魂は成仏できずに、近藤が死ぬまで浮遊霊として生きて行かねばならぬ事になる」


 そこで靖子さんが「そんなのかわいそすぎる」


 しばらくして近藤が二階から姿を現した。


「近藤よ。お主に見せたい物がある」


「悪いが私は忙しいのじゃ」


「すぐに終わる」


 するとリリンは死神の大釜を召還して、地面に突きつけた。

 そして二つの魂が実体化した。


「お、お前達、なぜここに」


 その二つの魂を実体化させたのは近藤さんの妻と娘であることが私には分かった。


「お父さん」「あなた」


 娘と妻はもの悲しそうに言う。


「お父さん。もうこんな事は止めてよ。昔の優しいお父さんに戻って」


「そうよ、あなた、法外な値段で治療することは、人間への復讐しか思えないわ」


「お、お前達・・・」


 そこでリリンが「近藤よ。その二つの魂はお主の知っての通りお主の娘と妻じゃ」


「そんな事は分かっている」


「その二つの魂はお主が人間に報復する事を悲しんでおる。この者達はお主の側でずっと見守ってきたのじゃ。お主がそのまま人間に報復をしていれば、この者達の魂は悪霊と化してしまうじゃろう」


「お願いパパ、もうこれ以上、報復なんて止めて」


 娘が言う。


「あなた」


 妻が言う。


 そんな時である、「死ね近藤」と助手がナイフを取り出して、近藤の元へと猪突猛進につっこんでくる。


「そうはさせぬ」


 リリンが大釜でナイフをはじき飛ばして、助手の頭をはねた。


 すると助手はドスグロいオーラを霧散させ消えていった。


「お主程の者がこのような下等な妖怪に心を奪われていた事を知っておったはず、なのにわざと小奴のもくろみにはまっておったのじゃな」


「私は人間が許せない。身勝手で私の大切な者を奪っていく人間が許せなかった」


「その思いがお主の大切な者の魂を苦しめてもか?」


「もう私には何もない。人間は身勝手すぎる」


「お主は妻と娘を殺されて、そうじゃない人間もいる事を知っていたはず」


 近藤さんの妻と娘の魂が言う。


「あなた、私は殺されても人を憎しむ事はないわ」


「私もよお父さん。昔の優しいお父さんに戻って」


 近藤さんは涙を流しながら「妻よ娘よ」


 そこでリリンが「小奴らの魂はお主が昔の優しかった父親を望んでいる」


「人間は優しさで救えるほど甘いものじゃない」


 と豪語する近藤さん。


「じゃが、この者達の魂はお主の優しさに救われておったそうじゃ」


「妻よ娘よ、私を一人にしないでくれ」


「あなたは一人じゃないわ」


「私達がいつも見守ってあげているよ。だから昔の優しいお父さんに戻って」


 妻と娘の魂が言う。

 そして魂は消えていった。


「妻よ。娘よ」


 私は近藤さんの気持ちは十分に分かる。もし私がリリンや靖子さんわらしが同じ目に遭ったら、この近藤さんのように憎しみに生きていたのかもしれない。

 世の中にはいろんな人間がいる。

 白を基調とした愛に満ちた人間もいるし、黒を基調とした悪魔のような人間もいる。

 私はどちらかというと白と黒を交えた灰色と言ったところか?

 悲しいことに世の中の人間が救われる事はない。

 黒を基調とした悪魔のような人間に陥れられる事もあるし、無関心にも悲しみに溺れて自らの命を捨ててしまう人間もいる。

 本当に近藤さんの言うとおり、人間は優しさでは救えるほどの甘い世の中ではない。

 でもリリンの言うとおり、近藤さんは妻も娘もその優しさに救われていたのだろう。


 娘と妻が消えた時、近藤さんはよつんばになって涙を流していた。


 そこでリリンが、「後は小奴次第だ。会計を済ませて我らは行くぞ」


「お待ちください」


「何じゃ、泣き言ならもう聞かぬぞ」


「リリン様は両親を目の前で殺されたと聞きました。それでも祖奴の事を許せるのですか?」


「たわけが、許せるわけが無かろう。でも我はお主のような悪魔に魂を売る弱い死神じゃない。

 お主はもっと広い心で人に接するべきじゃ。

 大切だった者が何を望んでいるか、お主も今さっき見たはずじゃ」


 そこで靖子さんが一万円を取り出して「おつりは入りません。これはここのお会計で」


 近藤さんは受け取ろうとはせずに、四つんばになって動こうとはしないので、レジに一万円札を置いていった。


 わらしが「おじさん泣いているの?」


 そこで靖子さんが「わらしちゃん」とほおっておけと言うように一喝して、わらしは「バイバイ」と言って私達は店を出た。


 それよりもリリンの両親が殺されたって初めて聞いた。

 その事で気になったが、今のリリンに言うのはタイミングが悪すぎる感じがして何も言えなかった。

 でもいつかは聞いてみたいと思ってタイミングを見計らって聞いてみるのも良いかもしれない。


 そういえば、私の両親が殺されたって、何の気も持てなかった。私も無関心なのかなってちょっと心がちくりとした。


 でも私の両親は私に多額の保険金をかけて殺そうとしたのだからな。


 私には家族がいる。子供のリリンにわらしに妻の靖子さん。せめてこの家族だけは何としても守り通したい。


 もし今私が命よりも大事な家族が闇に葬られていたら、私もあの近藤さんのようになってしまっていたかもしれない。


 店を出て、私達はちょっと近藤さんの事が気になってか?暗いムードに陥っていた。


 そこでリリンが「何をお主等そんなに暗くなっておる。そんな気持ちではサタンに心を奪われてしまうぞ」とリリンが私達を励ます。


「そうね。こういう時だからこそ笑うのよ」


 高らかに笑う靖子さん。


 正直笑えなかったが私も笑顔を取り繕って笑った。


 すると何だろう。楽しい気持ちになってきた。


「今日も健康ランドでお泊まりしましょう」


 もう外は夕暮れ時だった。


「明日こそは山口に出発だ」


「ふむ我々の魂を向上させに行くぞ」


 近藤さん。私達は負けないよ。私達は決して悪魔に魂を売ることは決してしない。

 たとえ大切な何かを亡くしたとしても。

 何だろう。今が凄く楽しい、小説も書けて出版されて、印税も入ってくるし、まあ、二巻は偽物の物になっちゃったけれど、私達は負けない。


 駅前に健康ランドの送迎バスが来ている。

 私達はそれに乗り込み、健康ランド狸猫に向かった。

 リリンが相変わらず私と一緒のお風呂に入ってくる。


 そうだここで二人きりになったのだから、タイミングを見計らって、リリンの両親が殺された事を聞いてみることにしようと思う。


 リリンは神様だから両親はいないと聞いていた。

 リリンが生まれたのは神様の分けみたまを授かって生まれたと聞いている。


 お風呂に入る最中に、私の魂を読み「何じゃお主よ。我が家族を殺された事を聞きたいのじゃろう」と言われ、「うん」と言った。


「仕方がない、その事は靖子もわらしも聞きたい魂をしていたからな、皆を集め話そうではないか」


 靖子さんとわらしも私のソウルメイトだ。

 ソウルメイトに秘密は、なしにしてもらいたい。


 健康ランドのフードコートで靖子さんとわらしと私とリリンで集まった。


「リリンちゃん、家族を殺されたってどうゆう事?」


 靖子さんが心配の眼差しで訴える。


「あまり面白い話ではないのだがのう」


 リリンがつまらなそうに言う。


「良いから話して」


 と話を促す。


「時は戦国時代に遡る」


「そんな時代まで?」


「ああ、そうじゃ、お主には言っておったじゃろう。我はお主等の何十倍も生きておると」


「戦国時代、その時は我は人間だった」


「リリンが人間だったのか?」


「今更そんなに驚くこともなかろう」


「それで両親が殺されたって」


「まあ、我の両親は坊さんじゃった。しかし織田信長は比叡山延暦寺で行われた戦いで僧侶、学僧、上人、児童の首をことごとく首をはねたのじゃ。

 我の両親はその比叡山延暦寺の僧侶じゃった。

 それで我の両親は織田信長に殺されてしまったのじゃ。

 我も首をはねられる覚悟をしたが、我の前に神が現れた『お前はここで死ぬような人間ではない』となと言われて我は死神に転身したのじゃ」


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