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死神様  作者: 柴田盟
第2章南へ。
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魔法使いのおじさん

 真っ暗な廃墟の中、玉座に鏡が置いてある。その者こそサタン。


「な、何が起こったと言うのだ。力が抜けていく」


「サタン様に申し上げます。連中は創造主の本とペンで自分達が描いた、物語の中で死んでしまった靖子という女を蘇らせる事に成功したみたいです」


「創造主の本とペンにそんな事が出来るのか?」


「さらに言われますと奴らは、創造主の試練に打ち勝ち、パワーを増してきています」


「もう何でも良い、奴らから憎しみを集めるのじゃ」


「もう我々にはそんな事は出来ないのだよサタン」


「何よお~。貴様私を呼び捨てで呼ぶのか?」


「惨めだなサタンよ。憎しみでしか生きられないお前に何が出来ると言うのか?」


 サタンの下部は、玉座に置いてある鏡の前に近づき、鏡の中にいるサタンを引き出し、サタンを口にした。


「うおおおおおお。これが憎しみのパワーか私は聖なる力も憎しみの力もパワーにすることが出来るのだああああ。

 待っていろ創造主に選ばれし者よ、私はこの両方の力でお前達を倒して見せる。そして私は大天使ミカエルは全知全能の神となるのだ」






 ******   ******





 私達は今、電車の中で創作活動をして広島に向かっていた。


「雅人、靖子、わらしよ我の魂が向上していくぞ」


 リリンは相変わらずに、私達が創作活動の意欲を魂向上につとめている。


「本当にリリンちゃんはかわいいねえ」


 私は少々スランプ気味であった。

 でもこのスランプは誰もが経験するスランプであり、サタンの仕業ではないことは分かる。


 私はメモリーブラッドの三巻にどう女神を出そうか考えていた。

 女神と約束したからな、私が彼女の出番を増やすと。


 でもすぐにインスピレーションが浮かび、女神の出番を書き留める事に成功した。

 これはおもしろくなるぞ。

 期待を大きく膨らませながら、創作活動に打ち込んでいる。


 少し一息入れようと、靖子さんが何か描いているスマホを覗き見した。


「おお、これは」


 主人公のメグが恋人のエイちゃんを両手で持っている姿だ。


「ちょっと見ないでよ」


「まあ、良いじゃない」


「完成するまでは見て欲しくはないの」


「はいはい分かりました」


『まもなく広島~広島に到着です』


 と電車内にアナウンスが流れる。


「もう到着か?」


 リリンは魂向上体制だったリリンが目覚める。


「広島と言ったら原爆ドームね」


 そうだった。広島は私達が生まれる前に原爆が投下され二十万人者犠牲者が出たところで有名だ。


 そこに行き、何か私達の小説で生かせないか見学することになった。


「なるほど、原爆ドームかあ」


 リリンの顔が険しくなる。

 そしてリリンは語る。


「我はあの日、原爆が投下されたときの様子を頭の中に刻み込まれている」


「リリン」


「燃え盛る爆円の中、我は一人でも多くの人を助けたいと思っていた。

 それで我は一人の少女を救うことが出来た。

 だが、その少女は助かったが、十年後に被爆の原因でなくなった」


 もの悲しそうに言うリリンに、どう言葉を伝えれば良いか分からなかった。

 続けてリリンは、


「我は被爆で亡くなった者に対して、人間に生まれて良かったと思えるように魂を浄化した。

 だが七十年くらいたった今でもその魂を浄化できずにさまよっている者もいる。

 我みたいな下等な死神しか出来ないことだった」


「リリンは下等なんかじゃないよ」


「雅人」


「そうだよリリンちゃんはすごく立派な事をしているじゃない」


「靖子」


「リリンお姉ちゃん偉い」


「わらし」


 駅から原爆ドームまで歩いて三十五分はかかるわ。


「じゃあ、いっちょ私達の魂向上と、救われなかった魂を浄化しに行こう」


 歩いて三十五分原爆ドームに到着した。


 それは凄惨な形に変貌していた。


「初めて見るけれども、すごくいびつに変化したみたいだね」


「あの時の人々の声が聞こえてくる。あの高温の中で人々は凄惨な姿でさまよっていた事を。

 日本があの時ポツダム宣言を受け入れていればこのような事にはならなかった。

 争い事は悲しみしか生まない事を政府が知っていれば、罪なき者達にこのような事はなかった」


 リリンは泣いている。

 泣いているリリンを見るのは初めてだ。


「もう行こう。思い出したくない事を思い出してしまった。我らにはサタンを始末する使命がある」


「そうだ。こうしている間にもサタンは憎しみを増長させ、パワーを蓄えている」


「それよりもお腹好かない?」


 靖子さんはそういって、広島名物のお店の広島風お好み焼きを食べる事にした。


 広島名物のお好み焼き屋は駅前にあった。


 広島の原爆を思い出したのか、リリンの機嫌がいまいち良くない。


「リリン、広島風お好み焼きだよ」


「ふむ、いただくとしよう」


 と少しだけ、機嫌が戻った感じだ。

 罪無き者が二十万人の犠牲者を出したのかあ。

 想像もつかないほどの、憎しみや悲しみが数十年前にあったのだろう。

 今は想像もつかないほどの町は賑わい、栄えている。

 その証拠にこんなご馳走が食べられるんだよな。


 店を出て広島風お好み焼きはおいしかった。


「靖子さん次は山口に行こう」


「でももう遅いから、ここら辺の健康ランドに行ったらどうかしら?」


「リリンはそれで良い?」


「なぜ我に聞くのじゃ。それはお主達が決める事じゃろう」


「だってリリン、ここにいると何か辛そうな顔をしていたから」


「何我に気を使っておる。我自身の機嫌くらい我自身でとれるわ」


 リリンに怒られた。


「なら決まりね、広島の健康ランドに泊まろう」


 広島にも健康ランドが顕在してある。


 そこに行って、リリンはあいも変わらず、男湯の私の方を選んで来た。


「リリンは女の子だから靖子さんと一緒に入った方が良いんじゃない?」


「我は雅人の事が好きじゃからのう」


 どうやら広島での出来事を思い出す事もなく、上機嫌のリリン。

 また機嫌直った何て言ったら怒られるから、何も言わないで置こう。


 私とリリンが裸になって入って、リリンは私の背中を流して私はリリンの背中を流す。


 いつものやりとりだ。


 そして男部屋の寝室で私の創作活動の意欲を魂向上に努めていた。

 しっかり魂を向上させてくれよリリン。

 リリンに助けられた私からのプレゼントだ。

 リリンは一人でも多くの人に幸せに生きてもらいたいと私を助けてくれた。

 さらに私の夢の手伝いまでして、さらにさらにその夢を叶えるために、リリンの魂が向上すると言う不可思議な事が起こっている。


 私もリリンの事が好きだ。

 リリンは私の大事な娘として、靖子さんとわらしと共に歩んでいる。

 創作活動を終えてリリンは気持ちよさそうに眠っている。


「リリン」


 と私はリリンを抱きしめた。

 リリンの体は華奢でもろいガラス細工のようだ。

 そっと抱きしめてあげないと壊れてしまいそうな程の体をしている。

 それにリリンは私の何十倍もの生きているって言うから不思議だ。

 それに死神何だよな。

 死神って言うと恐ろしいものをイメージしていたが、こんなにかわいい死神が私の娘でいてくれる事に感謝感激雨嵐であった。


 リリンは寝言を言っていた。


「我は人間になりたい」


 と。


 だったら私は死神になりたいと思っていた。


 必然的に朝はやってくる。


 健康ランドを出る前に銭湯に入る事にした。

 もちろん靖子さんと話し合って、リリンも一緒に男風呂に入った。


「朝のお風呂は気持ちが良いのう」


「あはは、そうだね」


 リリンとこうして朝風呂に入り、幸せを感じていた。


「のう、雅人よ、これから山口に行くのだな?」


「そうだよ。それよりもまた健康ランドから出てトラブルはゴメンだな」


「我もそう思っておるが、何か静かすぎる」


「静かすぎるって?」


「このような時は何もしない方が良いと言いたいところだが、そうも行かぬか」


「リリンがそういうなら、この健康ランドでもう一泊するのはどうかな?」


「いや、じっとしているのも良くないだろう。奴らは何を考えているのか分からん。とりあえずこの健康ランドを出て、どこぞの茶店で創作活動を靖子と雅人でやるのじゃ。

 山口に行くのはそれからにした方が良い」


「分かったよ、靖子さんと話し合ってそうする」


 湯船から出て、着替えをすまして、靖子さんはカウンターにいた。


「ゴメンゴメン遅くなったね」


「いやいや私達も今出たところ」


「じゃあ会計すまして行こうか」


「そうだね」


 健康ランドを出たときに、いつもなら奴らが来るパターンが多かったが、今日はそんな問題は起こらなかった。

 靖子さんと私で話し合って、山口に行く前に、先ほどリリンと話し合った事を言った。


「静かすぎるか?

 わらしちゃんはどう思う?」


「あたしはみんなと一緒ならどこへでも」


「そう。じゃあどこかの茶店でも探そうか?」


 するとわらしが走り出して「こっちこっち」と言って私たちを導いている様子だった。


「ちょっとわらしちゃん」


「どうしたんだいったい?」


 私が言うとリリンが「とにかくわらしの後に付いていこう」


 わらしが行く方向に行くと、ボロい喫茶店だった。


「何このボロい喫茶店は、それにスマホのナビにも入っていないわ」


「まあ、良いじゃないか、ここでお茶でもしながら創作活動をしよう」


 中に入り私が「ごめんください」と言った。


 すると品の良さそうな男性の老人が「いらっしゃいませ」と快く対応してくれた。


「ちょっとお茶をしたいのですがよろしいでしょうか?」


「大歓迎ですよ。どうぞお好きな席に座ってください」


 内装は外観と比べてとても綺麗になっていた。


 そんな時である。

 若い男性が来て「先生お客さんですか?」


「ふむ、そうじゃ、お冷やでもお出しして差し上げなさい」


「はい先生。さあお客様、どこでも自由な席にお座りください」


 あまりの対応に圧倒されて、言葉では「はぁ」と言って丁度四人座れる席があったので、靖子さんの隣にはわらしが座り、私の隣にはリリンが座った。


「ご注文が決まり次第にお呼びくださいませ」


「はい」


 と返事をして、メニュー表を見る。


「コーヒー二百円か、安いね。

 リリンとわらしはパフェでも頼むか?」


「ちょっと雅人さんあまり無駄な使い方はダメよ」


「良いじゃないか、パフェも四百円で食べられるんだからさ」


「もう仕方が無いわね」


 そして注文は決まり「マスター」と呼んだ。


「はい、ご注文は決まりましたか?」


「はい、コーヒー二つに、この四百円のスペシャルパフェを二つ、お願いします」


「かしこまりました」


 注文して、何となく辺りを見渡してみると何か不思議な空間にいるような気がしてきた。


「さて注文も済んだ事だし、始めようか」


「そうね」


 リリンは私に寄り添い、わらしは靖子さんに寄り添い後光を出している。


 何だろう?いつもより、はかどる感じがするのは?


 そんな時にあの品のいいおじいさんが私達が注文した物を持ってきた。


「はいコーヒー二つにスペシャルサンデーパフェ二つね」


「ありがとうございます」


 スペシャルサンデーパフェを見ると、凄い豪華だった。

 様々なフルーツとアイスがのっかっていて虹を思わせる色合いだった。


「あの、これ本当に四百円なのですか?」


「はいそうですが」


「豪華すぎないですか?」


「うちの自慢のパフェです」


「リリン、わらし、こんなに食べられる」


 二人に聞いてみると、「残ったら雅人と靖子が食べてくれ」


 朝ご飯食べたばかりなんだよな。


 するとマスターは「何かあなた達を見ていると不思議な感覚に陥りますよ。とても暖かい何かを感じる」


 そこでリリンが「我もお主を見てそう思っていたところじゃった。お主何者だ?」


「ふっふっふっ、私は魔法使いと言ったところですな」


 そこで私が「魔法使いって、まさか・・・」私の言葉を遮ったのはリリンであった「雅人よこの者はサタンの回し者じゃない」


「今、何と仰いましたか?」


「サタンと申したが、お主、存じておったか?」


「はい。サタンは憎しみに生きて憎しみを餌にしている邪神たるもの」


「お主ただの魔法使いじゃなさそうじゃのう」


 そこでわらしが「おじさん遊ぼう」と人見知りの激しいわらしが言う。


「わらしよ。我とこの者と話している最中じゃ、後にせい」


「ブー」


「まあ、良いじゃないですか死神様」


「お主、なぜ我の素性を知っている」


「お忘れですか?私と若き私と原爆の被害者を一人でも良いから助けだそうとした時の事を」


「お主はあの時の魔法使いじゃったか」


「さようでございます。あなたとはもう一度あいたかった」


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