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死神様  作者: 柴田盟
第1章北へ
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魂の鍛練



 向かい座席に座ったマスターは、私のコーヒーが空になっている事に気がつき、「ちょっとコーヒーを入れてくるね」と立ち上がった。


「別に一杯だけで結構ですよ」


「いやいや、サービスするよ。おいしくコーヒーを飲んで貰って、それでもって、勉強に熱中している姿に私はこの職業に就いて冥利に尽きる」


「そうですか」


 そこまで言われると、僕ももう一杯コーヒーをご馳走にならざるを得なかった。


 新しくアイスコーヒーを持ってくるマスター。


 早速マスターは向かい座席に座って僕とリリンを交互に見る。


「最初は親子かと思ったけれども、それはちょっと違うような気がする」


「・・・でもまあ親子みたいな者です」


「まあ、そういう事にしておくよ」


「君は先ほどからパソコンで何をしているんだい?」


「小説を書いています」


 思えばこうして小説を書いているところを見られて、そして聞かれて、それを正直に答えた事は初めての事だった。


「なるほど、何か君たちは先ほどから見ていたが、今まで来たお客とは違う印象がある」


「僕達は普通の人間で、普通の親子ですよ」


「ふふ」


 その含み笑いは『そういう事にしておく』と言わんばかりの発言で、意味深に感じられなった。


 リリンの方を見ると、頬杖をついてマスターの方をじっと見つめていた。


 リリンとマスターが見つめ合って、何か二人の間に不思議な感覚が感じる。


「良い魂をしている」


 呟くリリン。


「リリン」


 とその発言は知らない人に言うのはいささかまずいことだと一喝してリリンに言う。


「魂か。人間の肉体は魂が宿り、その体が崩壊するまで魂が宿ると言っている。そして魂は永遠だ」


 何を言い出すのだと思ってマスターの顔を見ると、「人間は魂の成就のために何度も生まれ変わって繰り返すと言われている」


「お主、最初見た時から分かったが、魂を向上させるために、日々鍛錬しておるな」


「君はどうやら普通の人間ではなさそうだね」


 何か変な会話になってしまったが、でも二人の間からまずい空気には染まっておらず、別に会話を続けても大して差し支えないと思えて、私は黙って聞いている。


「そうじゃ。我は普通の人間ではない、死神だ」


「リリン」


 それはまずいと思ったが言ったがリリンは「大丈夫じゃ。こ奴にやましい魂は感じられない。魂の向上に勤める人間にやましい気持ちなどほとんど存在しない」


「そうなの?」


「だから雅人は黙ってコーヒーでも飲んでおれ」


 リリンと会話をするマスターには本当にやましさを感じられなかった。

 リリンはそんなマスターに打ち解けて、色々と語り合っている。


 僕はアイスコーヒーをチビチビと飲みながら二人の会話を見て、このマスターにまったくと言って良い程のやましさや人を騙して欺こうとする気持ちはいっさい感じられなかった。


 正直このようなマスターのような人とは初めて出会った。

 思えば今まで出会ってきた人間は人を平気で欺き陥れようとする人間ばかりだった。

 そんな連中を心底毛嫌いして、距離を置いたりもしてすごしていた。

 でもまたそんな連中は心に隙が出来た私に優しい笑顔で近づいてきて、そんな私を再び欺こうとする。

 小説家を目指すのは一人でその作業をして、誰からも邪魔される事がないからその夢を選んだんだ。

 以前は僕はバンドを組んでデビューして頑張ろうと思ったが、バンドメンバーは同じメンバーである人に対して、け落とす事しか考えない連中ばかりだった。

 それは周りのライバルの連中をけ落として行かなければ上に上がっていけないけれども、身内でもそれをする連中ばかりだった。

 私も負けていられないと、必死で練習したが、どこかで心の隙が出来て、同じバンドをしている連中はそれを見逃さず、その隙をつかれて、精神的に追いつめられて、楽器ももてなくなる程まで、たたきつぶされた。

 その時私はすべてを失い死んでしまおうなんて考えたが、簡単に死ぬことは出来なかったので、小説家の夢を追いかけるようになった。


「何かこのお店良いですね」


 ふと辺りを見つめて思う。


「ふふっ、もうおだてても何も出ませんよ」


 そうやって三人で他愛もない話をしている。


 楽しい会話だった。


 しばらく話して、マスターは立ち上がり「おっといけない、つい長話になっちゃったかな?君は続けて」


 そうだ私は小説を書いていたんだ。

 穏やかなマスターと話していて忘れてしまっていた。


 気が付けばリリンは私に寄り添って気持ちよさそうに眠っていた。


 そんなリリンを見て私の魂を近くに感じられて、気持ち良さそうに愛らしく目を閉じて眠っていた。


 私の夢を全力で応援してくれるリリン。


 どうして私があの樹海で生き絶えていた所を助けてくれたのだろう?


 それは謎だか今こうしてリリンを感じられて魂が燃えるように小説を書く無限の力を感じられた。


 そう思うとリリンは僕を死ぬことを阻止して、またこうして大好きな小説を書かせるためにこうしてついてきてくれたのか?


わからないけれども、以前は百パーセントの割合で書いていたとしたら、今リリンを近くに感じられて二百パーセントの勢いで書いている。


構想が止まらない。文字を書くキーボードのタイピングが止まらない。


一段落ついた時には、お店の窓からハチミツを流し込んだ木漏れ日か漏れていた。


リリンは気持ち良さそうに眠っている。


時計を見るとこのお店に入って小説を書いていてずいぶんと長居をしてしまいマスターに悪いと思ったがマスターはカウンター席に座って小説を読んでいた。


「すいません。すっかり長居してしまって」


「いいんだよ僕も君に触発されて小説を読みたい気持ちにさせてもらったのだから」


「何を読んでいたのですか?」


「人間失格だよ」


「あー太宰治の」


「そうそう」


「僕も読んだことありますけれども、凄い孤独な人だと読んでいるとき私自身を重ねて読んでいました」


「孤独か、私もこの本をふと読みたくなる。そして僕も君のように気持ちを重ねる時がある」


 何かマスターの言葉にこれ以上は踏み込んではいけないような気がして「長い時間居座って申し訳ありません。そろそろ僕達もおいとまさせていただきます」


「もう少しゆっくりしていけばいいのに」


 マスターの言葉が社交辞令なのかどうかは分からないがリリンを起こす。


「リリンリリン」


 揺さぶり起こそうとしたが起きようともせず、すっかりおやすみモードになっている。


 それを見ているマスターが「寝かして起きなさい」


「いえそれは迷惑ですから」


「良いから良いから」


 私にウィンクするマスター。

 そんなマスターを見ると気持ちがほっこりしてしまう。


 でも僕は狙われている身。

 しかし今のところ連中の気配は感じられない。


 それにそろそろ小説も一段落がついてネットに掲載してもいい頃だ。


 でも掲載したら私が生きていると連中にばれてしまう。


 仕方がない。

 せっかく書いた小説だけど。

 これをネットで公開したら私の居場所が特定されて、リリンやこの店のマスターも巻き込みかねない。


 私はため息を吐きながら、パソコンを閉じた。

 するとマスターが「どうしたのかね?さっきまでのハキがなくなってしまった見たいに感じだけど」


「何でもありません」

 と言う。

 するとリリンが目覚めた。


「どうしたのだ?雅人の魂が弱まっておる」

 リリンは私の胸に手を当てる。

 そう言えばリリンは相手の魂を感じることができるんだっけ。

 だから僕は適当に「ちょっと疲れているんだよ」と言っておいた。


「いいや違う。雅人の中にいびつな物を感じる」

 ひたむきな視線を向けて私にいいかける。それに便乗するようにマスターも私にリリンと同じような目で見つめる。


 私は観念して二人に事情を説明した。


「なるほど昨日あった時に言っていたな。」


「せっかく書いた小説だけどこれをネットに掲載させるのは諦めるしかないな」


「どうしてじゃ雅人が魂を燃やし尽くして書いた小説だろう」


「でもこれをネットで投稿したら私の命は愚か、リリンやここにいるマスターまでも巻き込んでしまう」


「大丈夫じゃその時は、我がマスターも雅人も助けてやる」


 私はマスターの目を見る。

 するとウィンクして了承してくれた見たいだ。

 そしてリリンの目を見る。

 リリンは我こそはと言う目で私を見る。


 しばしの葛藤。


 そして私は「分かったこの僕の小説をネットに掲載しよう」

 僕がそう言うとマスターとリリンが笑顔で見つめあった。


「その前に言って置くけれど、僕がこの小説をネットに掲載したら僕とリリンはこの町にいられなくなるよ」


 するとリリンは不敵笑みで「我を誰だと思っておるのじゃ」


 そうだリリンは死神だ。そんな私を助けてくれるかもしれない。

 そう思った直後に自分の頬を叩いていた。

 私は何を考えているんだ。

 死神だからといって、その力を利用するのは良くないだろう。


 そこでマスターは「私の事なら気にしなくても良いよ」


「そんな、初めて出会った人にそんなことを義理何てありませんよ」


 そこでリリンが「その男なら大丈夫じや」


「何を根拠にそんなことを言っているんだよ」


「その男が常に魂の鍛練をしておるからじゃ」


「意味わからないよ」


 そこでマスターが「大丈夫そのリリンさんの言う通りだよ」


「雅人よ、お主の小説は少なからず救われている人もおる。だからそのネットとやらにで世界中に雅人の思いである小説を広めるのじゃ」


「でも」


「我を信じろ」とリリン。


「ついでに僕の事もね」品のいい笑顔言うマスター。


「分かったやるよ」


 リリンとマスターは笑顔で顔を見合わせる。


 早速無線LANのパソコンでネットな繋げて、僕が書き上げた小説をネットに掲載した。


「終わったよ」


「お疲れじゃ雅人よ」


「・・・」


 何だ?妙に不穏な気配か私の心の中から込み上げてくる。

 やつらが動き出した感じがする。


「雅人よ気がついているそうだか。大丈夫じゃ」


「何が大丈夫何だよ!」


 今更ながらに僕は後悔してしまう。

 不穏な気配が近づいてくる感覚がしてくる。


「ここにいたらまずいよ。早くリリン」


「確かにここでじっとしているのはまずいな。じゃが我には雅人と共鳴した魂のエネルギーがある」


「何訳のわからない事を言っているんだよ。僕は狙われているんだよ」


「わかっておる。だから何度も言うようじゃが大丈夫じゃ」


 不穏な気配がだんだんそこまで来ている。


 そして僕達がいる店にサングラスに黒いスーツ姿のいかにも悪そうな二人組が入って来た。

 

 二人が僕の前にやって来て、「吉永雅人君だよね」


「そうだけど」


 僕は観念して認めた。


「ちょっと同行してもらいたいんだけど」


 僕の腕を乱暴にも強くつかむ。

 するとリリンが男にコップに入った水をぶっかけた。


「何するんじゃ我」


「それはこっちの台詞じゃ」


「このガキ」


 と罵りながらリリンに蛮行を働こうとしたところ僕は怖くて何も出来なかった。


 するとリリンに蛮行を働こうとしたら、男は激しく燃え上がり断末魔をあげていた。


「助けてくれ」


 男は燃えて、そして本当に跡形もなく燃え尽きた。


 リリンはもう一人の男に悪魔のような赤い赤い赤い瞳で男を見つめた。


「化け物だ」


 と言って去っていった。


「リリン」


 リリンはその場で立ち尽くして、少し切ない表情をしてからはにかんで笑った。


「雅人大丈夫じゃよ。我が一年間お主を助けてやると約束したじゃろう」


「そう」


「お主には使命がある」


 その後リリンのちょっと切なげな表情で見つめあった。


 そこでマスターが手を叩いて「今日のところは私のうちに泊まって行ったらどうかな?」


「お言葉に」甘えたいところですがと言おうとしたがリリンが私の言葉を遮り「よし。ここはお言葉に甘えるとしよう」

 

「ちょっとリリン、また襲われたりしてマスターを巻き込んでしまうだろ」


そこでマスターが「大丈夫だよ。私は魂の鍛練をしているから、そうやすやすとはやられはしないよ」


「ほら、マスターもそう言っておるのじゃ、お言葉に甘えるとしよう。雅人は安心していい。雅人は我が守ってやる」


 複雑な気分だ。

 こんな小さい子供に守られながら私の使命を果たさなくてはいけないなんて。ところで使命とはいったい何なのだ。

 考えると不安に陥りそうだ。 


 とにかく二人に守ってもらうばかりではなく、私も頑張らないといけない。


 リリンがいなかったら私の存在なと無かったのだから。




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