女神の接吻
『ネットの方も文庫化の方も同一人物が描いたのか?』
『本当に同一人物が描いたのか?』
『何の為に同一人物が描いたんだ』
そこで靖子さんは『良い質問ですね。同一人物が書いた理由はみなさんの心を確かめる為よ。ちなみに今回だけ、文庫化されたメモリーブラッドを読んでもらい、バットエンドに終わったらみなさんはどう思うか試させて貰ったの』
そこで僕は「靖子さん嘘はいけないよ」
「雅人さんは黙ってみていて」
『世の中って善も悪も絶え間無く続くものだね、そんなみなさんに私達からのプレゼントとして、文庫化したバットエンドに終わる内容と、ネットに掲載された心ときめく物語を用意させて貰ったの』
『何の為に?』
『意味分からない』
等々、ユーザーから疑問の声が届いている。
『意味分からないかもしれないけれど、みなさんはどちらのストーリーが好きかな?』
『私は心ときめくネット小説のメモリーブラッドよ』
『僕はバットエンドに終わる、メモリーブラッドだよ』
等々、
『今回は二つ用意させて貰いました。みなさんは世の中の正義ってどう思いますか?』
『それは犯罪を犯さないこと』
『法律に触れないこと』
等々、私は見ていてハラハラドキドキしている。
こんな嘘をついてどうなってしまうのか靖子さんが心配だ。
『そうだよね。法律に触れないことだよね。けれど私達はバットエンドでも心ときめく内容でも、面白ければ何でも良いと思って今回は二つのパターンを描かせて貰いました』
『面白ければ何でも良いんですか?』
『確かに一理あるね』
等々、もう靖子さんのツイッターは炎上している。それでも靖子さんは『小説は面白い方が良いに決まっている小説家になりたい人ってこの世に五万といるけれど、本当の小説家になれる人はわずか一握りしかいないのが現状よ。
面白い小説を読みたいみんなに今回は二つのパターンの小説を用意してあげました。みなさんはどちらの方がお好みかな?』
『さっきと同じ質問』
『筆者は何をしたいの?』
等々。
『私達は今までにないインパクトのある小説を描いて、世の中をびっくりさせたいの。それが私と筆者である雅人さんの夢』
『なるほど、インパクトか?』
『わかる気がする』
『小説は所詮どんなにがんばっても嘘よ。その嘘話が面白くて文庫化した私達の小説とネットで掲載した小説も嘘よ。私達は一生嘘を貫いて生きて行くのよ。
最後にみんなに聞きたいんだけれども正しさと楽しさ、どちらが良い?』
『楽しい方に決まっているよ』
『正しさよりも楽しさに決まっているよ』
等々、ユーザーの気持ちが今一つになろうとしている。
『そうよね。楽しい方を選んで私達は数日前、バットエンドとハッピーエンドのメモリーブラッドを書いたのです』
『なるほど、そっちの方が楽しいね』
『いいね』
靖子さんの台詞にいいねの嵐が吹き込まれた。
リリンが「聖なる本とペンが輝きを取り戻している。どうやら今回の件は一件落着のようじゃのう」
「さすがは靖子さん」
そういって靖子さんを抱き上げた。
「えへへ、私って凄いでしょ」
「凄いなんて物じゃないよ。過ごすぎるよ」
そういって私は靖子さんを強く抱きしめた。
さすがは我が妻と言ったところか、今回は靖子さんの虚構推理でユーザー達を欺き、私達に聖なる力が宿った。
そんな時である、リリンが、「危ない」と言って私達に体当たりをして、一瞬矢のような物が飛んできた。
飛んできた矢の方を見ると、私と靖子さんにリリンに座敷わらしそっくりの者たちであった。
「お前達は私達を欺いた者たちだな」
リリンが言う。
「リリン」
剣になってくれとアイコンタクトをする。
「分かっておる」
剣と化したリリンを持ち、奴らに立ち向かった。
すると奴らも、悪しきリリンが剣となり悪しき私がその剣を持ち、戦いに挑んでくる。
さらに悪しき靖子さんと悪しき座敷わらしが弓となり、悪しき靖子さんがそれを持つ。
「みんな行くよ」
私が言うと戦闘態勢になった。
私と悪しき私がリリンと悪しきリリンの剣がぶつかり合う。
悪しき私が言う。
「もう少しで我らの主の力になるはずだったのに」
「やっぱりお前等があの偽物の小説を書いたのだな!」
「それがどうした」
「だが、お前達が書いた小説も私達が書いた事になった。印税はくれてやる、地獄まで持っていけ!」
そういって小競り合い、悪しき私はかなり強い。
さすがは私達の分身であり、悪しきの源のサタンに作られた者だろう。
私達と悪しき私達はまさに互角の勝負に挑んでいる。
靖子さんはと、様子をうかがおうとしたが、そんな余裕などない。
靖子さんも必死に戦っているのだろう。
今は仲間を信じて戦うのみ。
それ以上でもそれ以外でもない。
本物が偽物に負けるわけには行かない。
だが偽物の私達は私達を上回る力を持っている。
このままではやられてしまうかもしれない。
「ハァ、ハァ」
「どうした、お前達の力はその程度か?」
「わ、私達は、や、やられる訳には行かないんだああああ!」
「威勢だけは良いなあああ!」
不気味に笑いながら、剣を構えて、突っ走ってくる。
そして跳躍して剣を振りかざして、私は剣で受け止めたが、あまりにも衝撃的な攻撃に耐えきれず、剣を手放してしまった。
「勝負ありだな」
悪しき私に剣を向け「死ねえええええ!」と言い、死を覚悟したその瞬間に、靖子さんの矢が飛んできた。
「雅人さん諦めてはダメ」
そうだ。私達は諦めてはいけない。
悪しき私がひるんだその隙に、剣と化したリリンを手に取った。
「まだ、諦める訳にはいかないんだ」
両手で剣を持ち構える。
「どう足掻いてもお前たちの負けだ!」
「あああああああああ!!」
と叫び私は悪しき私の偽物の攻撃を剣でくい止める。
「まだだ。まだ。終わるわけにはいかないんだ」
私達の夢のために私達は戦うしかない。
私達はサタンを倒し、小説で一人でも多くの人を希望に誘う物を作り上げる使命がある。
剣と剣が混じり会う。
「やるではないか、偽物の私よ」
「遊びは終わりだ」
再び跳躍して剣を振りかざしたが、私はそれをよけて、大降りで剣を振りかざした偽物の私に僅かな隙が出来、そこを狙った。
「終わりなのはお前の方だ」
そういって突き刺し・・・命中したと思いきや悪しき靖子さんの矢が飛んで来て、回避された。
そう一筋縄ではいかない相手だ。
本物の私達と偽物の奴らはほぼ互角。
「惜しかったな、千載一遇のチャンスをお前は見逃したのだぞ」
「そうだな。でもお前達は仲間の連係プレイもなかなかの物だ」
「敵に誉められたって嬉しくはないよ」
何だろうこいつらと戦っていると楽しくなってきた。
これは真剣勝負、勝った方が正義となる。
私達は負けるわけにはいかないのだ。
私は跳躍して奴に切りつけようとしたが、相手は剣で私の攻撃をかわさずに、一歩下がって私の攻撃を回避して、僅かな隙が私に出来、相手はその隙を伺っていたらしく、私を一突き浴びせようとしたが、そこに靖子さんの矢が飛んできて、回避出来た。
「この勝負一筋縄ではいかないみたいだな」
悪しき私が言う。
「そうだな、だが私達は負ける訳にはいかないのだ」
「それはこちらの台詞だ」
そんな時、「きゃあああ」と靖子さんの悲鳴が聞こえてきた。
「靖子さん!」
「そこで俺に隙を見せたら、お前をバッサリと行くぞ」
「くそーーー」
「何だその早さは」
「私達はお前達にやられる訳にはいかないのだ」
自分でも驚くくらいの早さで奴の懐に入り急所を外して、奴を突き刺した。
「うわあああああ」
これでもう動けないだろう。
「靖子さん」
靖子さんの方を見ると、肩に矢が刺さっていて、もはやホーリーアローは使えそうにもないようだ。
悪しき靖子は弓矢を連撃で迎え打つ。
そこでリリンの声が聞こえた。
「我がケッカイを張る」
剣が光りだし、リリンがケッカイを張る。
容赦なく漆黒に染まったその矢を解き放つ悪しき靖子。
「靖子さん、私から絶対に離れないで」
「面目ない、雅人さん」
私は靖子さんを守る盾となり悪しき靖子の元へと歩み寄った。
しかし忘れていたが、悪しき私が持った剣が悪しきリリンに変化して大釜を持ち、こちらに走って向かえ打ってくる。
そこで靖子さんが肩に刺さった矢を自分で引き抜いて、悪しきリリンにホーリーアローを解き放とうとしている。
靖子さんに無理はするなと言いたいところだが、悪しき靖子と悪しきリリンを同時に相手など出来ない。
だが靖子さんは弓を持ちホーリーアローを放とうとするが命中が定まらず、当たらなかった。
そして悪しきリリンの大釜は靖子さんの腹部に命中して串刺し状態になってしまった。
「靖子さあああああああああん」
怒りに狂った私は、悪しきリリンが許せなくて、邪悪な弓を放ってくる悪しき靖子も目もくれず、悪しきリリンを刀で成敗する。
「うわああああああああああ!」
悪しき靖子に向かって、立ち向かい、リリンの刀で成敗した。
後、弓に変化している悪しき座敷わらし真っ二つに切りさいた。
これで全部やっつけた。
私は大釜で串刺しになっている靖子さんの元へと行くと、靖子さんは意識が戻っていない。
「靖子さん。靖子さん」
そこでリリンが剣から元の姿に戻り、リリンは治癒能力を持っているため、それで助かると期待したが、もはや手遅れだった。
「靖子、靖子」
「リリン。創造主の本とペンを貸してくれ」
「まさか雅人よこの本とペンで靖子を蘇らせるつもりか?」
「もはやそれしかない」
「ダメじゃ、リスクが大きすぎる。人を蘇らせるにはそれなりの代償が必要となる」
「そんなもん知るか」
リリンはそんな私を恐れている。
「ダメじゃ。人を蘇らせるには、いくつ物命が奪い尽くされ、それは憎しみに変わり、サタンの餌となって、もはやサタンの思うつぼじゃ」
座敷わらしは泣いている。
私はやるせなくて悲しくて涙が出ないほどのやるせなさと悲しさに絶望している。
「お願いだよリリン、その創造主の本とペンをこちらによこしてくれないか?」
「頼む、雅人、ここはこらえてくれ、いくら創造主のパワーがみなぎったとはいえ、靖子を蘇らせるのは危険じゃ」
するとリリンの体が光りだし、想像主の本とペンが現れた。
「何事じゃ?」
うろたえるリリン。
靖子さんを蘇らせられる期待が膨らんだ私。
私は創造主の本とペンを取り、靖子さんを蘇らせようとしたところ、死神のリリンが大釜で私の喉に切り先を当てた。
「雅人よ、頼む諦めてくれ。靖子を蘇らせる事は出来ても、その代償がとても大きすぎるのじゃ」
私は創造主の本とペンを地面に置いた。
「分かってくれたか」
リリンが言うと、創造主の本とペンが光りだし、宙に浮いて、本が勝手に開き、ペンが勝手に何かを描いている。
「な、何が起こっておるのじゃ?」
目を丸くして驚いているリリン。
「それはこっちが聞きたいよ」
すると本から、何か飛び出してきた。
その飛び出してきた者は私が今描いているメモリーブラッドの主人公のメグだった。
「君はメグ、僕が描いているメモリーブラッドの主人公のメグ」
するとメグは「君は本当にこのメモリーブラッドを描いている作者の雅人か?」
「そうだけど、それが何か?」
「君は本当に創造力がないね、直接自分の愛する、私のイラストを描いた靖子さんを創造主の本とペンで蘇らせようとするなんて、ひどいもんだよ」
「じゃあ、君に靖子さんを助ける力はあるって言うの?」
「ある訳ないじゃん」
この野郎。
ぶん殴って、やりたいと思ったが、リリンが死神の大釜のみねで殴られて「落ち着け、雅人よ」
「私にはないけれど、君が作ったシナリオにはある」
私はそのシナリオを知っているので、「それは女神の接吻?」
「そう。君が僕を苦労させて、恋人のエイちゃんを蘇らせた女神の接吻で蘇らせられる事は出来る。
それで私を創造した靖子は助かるよ」
「でもそれって、過酷な試練だと私は描いた」
「そう。その試練を乗り越えれば、靖子を助ける代償となってくれる」
「本当か?」
私の心が黄色く染まった感じがした。
そこでリリンが「雅人よ、これは命を懸ける事になるぞ。じゃから我も手伝う」
「あたしもあたしも」
と座敷わらし。
私は女神の接吻を知っている。
それは主人公のメグが苦労して手にした接吻。
私が描いた主人公のメグは吸血鬼であり、第二巻から太陽の光と血以外の物でも食料なら食べられるようになり、昼間でも活発に動き回り、人助けをしている主人公のメグ。
その強さは私と座敷わらしとリリンが立ち向かっても倒せない尋常じゃない力を持っている。
そのメグが恋人のエイちゃんを蘇らせる為に、死ぬ寸前まで、その女神の接吻にたどり着いたのだ。
しかもその女神の接吻を物にしたのは私の小説の中の世界で一人がメグとなっている。




