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死神様  作者: 柴田盟
第2章南へ。
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リリンの使命

「ええ、雅人さん」


 靖子さんは弓を構えて、サタンの黒い集合体に向けた。

 そして「ホーリーアロー」と唱えて弓矢を放った。

 しかしマリンの集合体なのか?矢は命中したものの、効果はない。


 そうだ。あのサタンの黒い集合体は私達の攻撃をセーブしているのだ。


 それで創造主の本とペンで奴らに立ち向かおうとしたところ、刀と化したリリンが言う。


「創造主の本とペンは使ってはならぬ」


「じゃあどうすれば」


「感じるのじゃ。我らの攻撃をセーブされても何か隙がある。そこを狙うのじゃ」


「そこを狙うって奴は私達の攻撃をセーブしている。そんな隙なんて・・・」


「戯け!!とにかく感じるのじゃ。靖子の手を取れ」


 言われたとおり、靖子さんと私は手と手を繋ぎ、目を閉じる。


 その刹那、サタンの黒い集合体の弱点が見えてきた。


 サタンは大きく口を開け、私達に襲いかかってくる。


「靖子さん」


「雅人さん」


 互いに見つめ合い、私と靖子さんはアイコンタクトで奴の弱点を見つけたとうなずき合い、靖子さんは大きく口を開けたサタンの集合体にホーリーアローを放った。


 サタンの体内に入り、サタンは苦しみもがいている。


「そこだ!」


 と私は電車のドアを蹴り破り、剣を両手に構えて、跳躍して、サタンの体内に入り、心臓を見つけて、そこを差し込んだ。


 するとサタンの集合体は断末魔を上げて、霧散して消えていった。

 霧散して消えていったサタンの集合体を剣で払い、私は電車の中にいる靖子さんの元へと帰っていった。


「靖子さん。やったね」


「もう、雅人さんは無茶が過ぎるんだから」


「でも、そうでもしないと私達はお陀仏だった」


「それよりもその本とペンは何だったの?」


「分からない、これでサタンの集合体をやっつけようとしたけれど、リリンがダメだって」


 リリンは刀から元の姿に戻り、「雅人よ、その創造主の本とペンを我に渡すのじゃ。とりあえず我が預かっておく」


「どうして?」


「どうしてもじゃ!!それはお主にとってどれだけ大変な物か分からぬじゃろう」


 私は言われたとおり、創造主の本とペンをリリンに渡した。


 リリンは創造主の本とペンを持って、どこにしまい込んでいるのか?創造主の本とペンが消えていった。


「とうとうここまでやってきたか」


 ため息混じりにリリンは言う。


「リリン、その本とペンはこれからもサタンが襲いかかってきたときに使えるんじゃないの?」


「創造主に選ばれし雅人よ。今はこの本とペンを使うのは危険じゃ」


「何が危険なの?」


「その本とペンの代償は人間達のエナジーだ」


「じゃあ、私が願ったことは、誰かが死ぬって事?」


「そうじゃ。でも今、使ったのは充分に使えるエナジーが宿っていた。じゃからマリンをやっつける事はちゃらになった訳じゃ」


「じゃあ、エナジーが宿っていなければ・・・・」


「察しの通り、多くの犠牲者が現れる」


「じゃあ、犠牲者を無くせる用にするにはどうすれば良いの?」


「お主達が我に創作活動で力をそそぎ込むしかない。聞いた話ではお主の本がたいそう売れていたらしいじゃないか、そのお主達の創作が今回の件で使い果たしてしまったのじゃろう」


「じゃあ書きまくろう。メモリーブラッド第三巻を出してその創造主の本とペンでサタンに立ち向かおう」


「その前に、ここから逃げた方が良さそうじゃのう」


 辺りを見ると、車両は銃でガラスが散乱している。

 私たちは有名人だ。マスコミなんかにあわされたら、袋たたきになってしまう。


 私達は蹴り破ったドアから外に出て、そこから一目散に消えていった。





 ******   ******



 

 真っ暗闇の中、玉座に鏡がおいてあり、ある者が、狼狽えながら、玉座にひざまずく。


「サタン様に申し上げます。奴らは創造主の本とペンで死神のマリンがやられたそうです」


「なにぃ、奴らは創造主に出会ったと言うのか?」


「はい、間違いありません。マリンに追いつめられたときにその創造主の本とペンを授かった模様です」


「貴様、何をそんなに狼狽えている」


「奴らが創造主の本とペンを授かったのですよ。これは一大事です」


「狼狽えるでない。今度その創造主の本とペンを使えば、我らはより多くの憎しみや怒りにあやかる事が出来る」


「そう申し上げますと?」


「創造主の本とペンを使えば、この世の多くの人間達を犠牲になる。そうすれば仮に私をその創造主の本とペンで立ち向かってきたときは、仮に我は倒せても、我らはその憎しみや怒りで蘇る事が出来る」


「なるほど」


「だが、奴らがまた創作を続け、よりいっそうにパワーがみなぎれば、やっかいな事になる」


「そうしますと、また創造主の本とペンが誰の犠牲にもなく使えるようになると」


「そう言うことだ。その前に手はうっておけよ」


「はは」




 ******   ******




 電車を降りて私達は岡山へ。


「靖子さん。岡山の健康ランドは後どれくらい?」


「後二十分くらいかな?」


 私はこの炎天下の中、へとへとだった。


 ここは何もないところだ。


 電車も降りてタクシー一つも走っていない。


「だらしないわね、雅人さん」


 そう言って私にミネラルウォーターを差し出す。


「ありがとう」


 そう言って飲み干した。


「ああ、生き返った、さて岡山の健康ランドに向かおう、そこで創作活動を始めよう」


 そんな時、私のスマホに連絡が入った。


 私に連絡を入れるのは出版社の人しかいない。

 案の定、着信画面を見ると文術社の前原さんからだった。


「もしもし、雅人です」


「雅人さんですか、私は文術社の前原と申します」


「ああ、これはいつもお世話になってもらっています」


「今回発売されるメモリーブラッドの第二巻ですが、ファンの人たちの要望で少し早めに出版させる事にして良いですか?」


「もちろん構いません」


「一度お目にかかりたいと思いまして、今どちらにいらっしゃるのですか?」


「岡山の健康ランドに向かっています」


「岡山のどこの健康ランドですか?」


「こんな遠くまではるばる来ていただけるのですか?」


「もちろんですよ。メモリーブラッド、二十万部突破です」


「そんなに凄いんですか?」


「ご存じないようですね」


「いえ、こちらで色々ありまして」


「イラストレーターの靖子さんはどうしています?彼女のイラストはまさに神の領域を越えています」


 神の領域ってそんな大げさな事にちょっと苦笑してしまった。


「靖子さんなら元気に私達と旅をしながら、創作活動に打ち込んでいますが」


「えっそうなんですか?以前会えなかったことに、喧嘩別れでもしたのかと思いましたよ」


 そんな失礼な事に腹が立ち咳払いを一つかましてやった。


「申し訳ありません。何か深刻な事情があったのでしょう」


 咳払いは効果てきめんだった。


「それより打ち合わせがしたいので、岡山の狸猫と言う健康ランドですね」


「はい。よろしくお願いします」


 スマホを切って、私は靖子さんに抱きついてしまった。


「何、雅人さんこんなところで、私達の本が二十万部突破みたいですよ」


「エーそんなに売れているの」


「これから編集部の前川さんが私達が向かっている狸猫の健康ランドに向かっているって」


 そこでリリンが「待てよ雅人よ我らは危険な者に狙われておるのじゃぞ。その前川とやらに危険な目に遭うかもしれぬのだぞ」


「でも僕達の目的は一人でも多くの人に小説を読んでもらって、その創造主の本とペンが使えるようにしなければ」


「それもそうじゃな、少しでも多くの人に読んでもらうか」


 そして私達は岡山の健康ランド狸猫に到着した。


 健康ランドの中に入り、男湯と女湯に分かれていたがリリンはどうしても私と一緒にお風呂に入りたいと言って、ついてきた。


「リリンは女の子だから女湯に入りなよ」


「嫌じゃ、雅人と一緒が良い」


「仕方がないな、じゃあ靖子さんお風呂から出たらフードコートで待ち合わせしているから」


「分かった」


 リリンは見た目は九歳だから、一緒に入っても問題ないか。


 それでリリンと一緒に入ることになった。


「雅人、背中を流してやるぞ」


「じゃあ、お願いするよ」


 本当に我が子のようにかわいいリリン。

 でも私達はソウルメイトで家族も当然だ。


「リリン、リリンは今いくつなの?」


「こう見えてもお主の十倍は年をとっている」


「リリンには家族とかはいなかったの?」


「我は神じゃ。我を産んだのは約束の地と言う人間には立ち入られない所から産まれた」


「約束の地ってどこにあるの?」


「遙か彼方の、宇宙の中心じゃ。そこで我は神から分けみたまという物を貰っておる。その分けみたまはお主や靖子や座敷わらしにも心の中に眠っておる」


「じゃあ、それって私達も神って事?」


「そうじゃ、お主等にも神の分けみたまを貰っておる。お主等にも神は存在する」


「どうしてリリンは死神なの?」


「死神と言うと何か縁起の悪い者に聞こえてしまうかもしれぬが、我は使命を果たすために産まれてきた」


「使命って?」


「我は自殺してしまう人たちにも良い人生を送れるようにと選んできた」


「じゃあ、あの時、私が自殺しようとした時、私にも良い人生を送れるように助けてくれたの?」


「それもあるが、お主には使命がある」


「私の使命?」


「我とお主が出会ったのは偶然ではない、必然だ」


「そうなの?」


「そうじゃ、正直創造主に選ばれたのは驚いたが、これも偶然ではない必然じゃ。

 あの創造主の本とペンは危険な者じゃ、その書いた願いと共にいくつかの人間が死んでしまう。

 そうなったら憎しみを糧とするサタンの思うつぼじゃ。

 ほれ、次はお主が我の背中を流す番じゃ」


「うん。分かった」


 私はリリンと変わって次はリリンの小さな背中を流す。


 リリンは綺麗な肌をしている。


 優しく磨いてあげないと傷が付いてしまいそうなので丁寧に磨いた。


「気持ちが良いぞ。雅人よ」


「そう言ってもらえて嬉しいよ。

 それより、リリン、契約は一年と言っていたが、それは本当なの?」


「我は死神の中でも下等な部類に入る。

 でもこうして雅人と旅をしながら、力を増していき、我の使命も果たせる事も出来そうじゃ。

 お主の小説を読んで生きる気力が増した奴もおるそうじゃ。

 我の選んだ使命は自殺してしまう人間にも幸せに送ると言うのを選んできた。

 じゃからお主と共に互いの使命を果たせるなら、これほど嬉しいことはない。

 じゃからお主がよければ、我はお主や靖子や座敷わらしと共にいつまでも、いてあげられるぞ」


「そうか。じゃあリリンいつまでも私の娘でいてよ」


「何を今更言っておる。我はお主の娘であり、ソウルメイトじゃ」


 そして体を洗い終えた私とリリンは湯船に入って、出た。


「リリン、出るときはちゃんと体を拭かないと」


「すまぬすまぬ」


 とリリンは言って体を拭いてあげた。


 着替えも済んでフードコートには座敷わらしも靖子さんもいた。


「お待たせ、靖子さんに座敷わらし」


「前原さんからスマホに連絡があって、二時間後にはこちらに到着するそうよ」


「私達の小説のためにこんな所に来てくれるなんてありがたいね」


「それまでに晩ご飯を食べましょう」


「晩ご飯ってフードコートで食べるの?」


「うん。ここは持ち込み禁止の場所だからね」


「そんな贅沢していいの?」


「まあ、仕方ないよ。それよりもメモリーブラッド第一巻二十万部のお祝いも込めて」


「そうだよね。私達はお金持ちだからね。たまには贅沢しても良いよね。

 靖子さんは何を食べるの?」


「私は味噌ラーメンかな」


「リリンは?」


「我はハンバーグが食べたいぞ」


「座敷わらしは?」


「お肉」


「じゃあ、私が店員に言うから、待っていてね」


 私は立ち上がり、私の分はもう決まっていた。

 私はオーソドックスな醤油ラーメンを。


 平日だからか?お客はあまりいなかった。


 受付に行ってみんなの注文を言うと、すぐに私達が選んだ物が運ばれてきた。


「この味噌ラーメン私が作った方がおいしいわ。リリンちゃん、わらしちゃん、おいしい?」


「まあまあじゃのう」


 わらしは「お肉大好き」とフライドチキンにかぶりついている座敷わらし。


 私の醤油ラーメンは割とおいしかった。


 晩ご飯も食べ終わって、一時間が経過した。


 後一時間で前原さん来るみたいだね。


「その間に創作活動をしてしまおう」


「そうね」


 そこでリリンが「雅人の創作活動の魂は何よりも我の馳走じゃ」何て大げさに言っていた。


 創作活動をしている時間ってすぐに時間がたってしまう感覚に陥る。


「もう一時間が経過したけれど、前原さん来ないね」


「駅からほど遠いからね」


 その時、私達は知るよしも無かったんだ。

 前原さんが来れない理由がとても恐ろしい事の始まりだと。


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