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死神様  作者: 柴田盟
第2章南へ。
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座敷わらし登場

 熱海の駅にたどり着き次はどこに行こうか三人で相談した。


「次は名古屋に行かない?」


 靖子さんが言う。


「名古屋かあ、別に良いんじゃないかな?」


「名古屋の人って『だぎゃ』とか言うのかな?」


 靖子さんはおもしろおかしく言っている。


「私達は遊びで行くんじゃないよ」


「それは分かっているよ。遊びじゃなくても楽しく行こうと思ってさあ」


 そこでリリンが「楽しく行くのか?それは魂を向上させる香辛料のような物じゃ。じゃから靖子の言っていることは間違ってはいないな」


「楽しくねえ」


 先ほどまでは私達はサタンに呪われし者に殺されかけたのに、楽しいという気持ちにはほど遠いが、確かに一理あっても良いかもしれない。


「まあ楽しくなければ、良い小説も書けないからね」


「でしょ。今度サタンの回し者が来たら私達が片づけちゃうんだから」


 本当に靖子さんはどんな時でも前向きだ。

 そんな靖子さんを私はパートナーとして良き妻として選んで良かったと思える。

 本当に靖子さんは頼れるパートナーだ。


「さあ、切符を買って行きましょう」


「はい」「ふむ」


 僕とリリンが返事をする。


 電車に揺られて私は小説を描き靖子さんはイラストを描いている。

 これはいつもの魂向上の為にやっていることだ。


 もっともっと面白い小説を描いてやる。

 靖子さんも私の小説を面白く彩るためにイラストを描いているのだろう。


 本当に創作活動は楽しい。

 本当に靖子さんの言うとおりだ。


「んふふふふ」


 何かリリンが笑っている。


「リリン、どうした?」


「何がじゃ?」


「今、子供の笑い声が聞こえたような気がして」


「私も聞こえた」


「我は何も言っておらぬぞ。お主等の気のせいじゃないのか?」


 リリンは笑っていない。多分私も靖子さんも気のせいなのかもしれない。


 そう思って私と靖子さんは創作活動に打ち込んだ。


 気のせいだろうか私達が乗る車両には私達以外いない。

 他の車両を見てみると、ちゃんとパラパラと人が乗っている。


「んふふふふ」


 また笑い声が聞こえた。


「靖子さんリリン」


 靖子さんもリリンもその不気味な笑い声に気が付いたみたいだ。


「何だ?サタンの回し者か?」


 そこでリリンが「用心した方が良さそうじゃな」


 靖子さんが「でもサタンの回し者みたいに殺気は感じられないわ」


「んふふふふふふふ」


 また聞こえてきて、頭上を見ると、着物を着た女の子が頭上の荷物置きに上って私達を見下ろしている。


「誰だお前は?」


「んふふふふふふふ」


 ただ少女は笑っているだけだ。


 そこでリリンが、「小奴は座敷わらしじゃ」


「座敷わらしって幸運を呼ぶあの妖怪?」靖子さん。


「その通りじゃ、ほおっておいても我らに危害を加えはしない」


「そう」


 そう思って、安心した私達は創作活動で魂の向上を勤めた。


 すると座敷わらしは頭上の荷物置き場から、降りてきて、「遊ぼう」と言ってきた。


「悪いけれどもお嬢ちゃん。私達は忙しいんだ」


「ブー」


「ふてくされてもダメ」


 そこで靖子さんが「良いじゃない少しくらい」

 すると靖子さんはポケットからあやとりを取り出して、座敷わらしと遊んであげている。


「ほら、東京タワー」


 あやとりを自在に操る靖子さん。


「きゃきゃ」


 と座敷わらしは喜んでいる。


「お姉ちゃん、お菓子持っているんだけど食べる?」


「食べる」


「えーと、どこにあったかな?」


 リュックサックの中をごそごそと探している「あった」とポッキー取り出して座敷わらしに差し出した。


 靖子さん子供にも優しいんだ。

 私は子供相手にどうしたら良いのか分からない。


 座敷わらしは靖子さんの膝の上に座ってポッキーを食べている。


 何だろう、もう一人子供が出来たみたいで嬉しく思ってしまう。


 私も遊んであげようと思って手品を披露した。


 本来破けているのに破けていない手品だ。


 すると座敷わらしは大喜びをして今度は私の膝の上に乗った。


 何てかわいいのだろう。


 座敷わらしと遊んでいる間に、名古屋の駅に到着した。


 駅を降りたとき、座敷わらしはついてくる。


 困ったことになつかれてしまったらしい。


 そこで靖子さんが「ねえ、座敷わらしちゃん。お姉ちゃん達、危険な旅に出ているの。だからあなたを連れていくわけにはいかないの」


 リリンが、「早速お出ましみたいじゃ」


 サタンの呪われし者、しかも以前よりも力を増している。


 そこで靖子さんが「座敷わらしちゃん。ここは逃げて」


 すると座敷わらしはサタンの呪われし者に近づいていく。


「ダメよ」


 と言ったにも関わらずサタンの呪われし者に向かって行ってしまった。


「ダメだ。危ない、リリン!」


 リリンとアイコンタクトを取って、剣になって貰おうとしたが、リリンは「その必要はない」と座敷わらしの事が心配じゃないのか、そう言う。


 すると座敷わらしが目映い光を放ち、サタンの呪われし者を一掃した。


 連中は死んでしまったのかと心配したが、サタンの呪いが解けただけで、元の人間に戻っただけだった。


「凄いよ座敷わらしちゃん」


 靖子さんは座敷わらしを抱きしめた。


 そこでリリンが「座敷わらしは幸運をもたらす神に匹敵する力を持つ者、我らに味方がついたのは偶然なのか必然なのか。とにかく座敷わらしは幸運をもたらす妖怪じゃ。

 それに座敷わらしは気まぐれだからな我らに味方をしたのは偶然と言った方がよいじゃろう」


「偶然かあ」


「座敷わらしはサタンを凌ぐ力を持っている。でも座敷わらしは気まぐれだから、あまりその力を利用しようとは考えん方が良い」


 今回は座敷わらしがサタンに呪われし者を一掃してくれた。でもこれは偶然だ。


 聞いたことがある。

 座敷わらしが住み着いた家には幸運をもたらすが、いなくなったら、その幸運はなくなり、幸運ではなく不運に見回れると。

 だから座敷わらしは良い妖怪ではなく悪い妖怪と人々は勝手な解釈をしていると。


 でも今回座敷わらしに助けられた、先ほど出てきたサタンに呪われし者は以前よりもパワーアップしていた。

 サタンの力が増していたと言うしかないだろう。


 そこでリリンが「座敷わらしは気まぐれな妖怪じゃが、座敷わらしが我らについているのなら、創作意欲も増すはずじゃあ、じゃから座敷わらしの力を借りて創作意欲に火を灯すのじゃ」


「そうだね」


「ところで我らもお腹が空いてきた。何か馳走を食べに行かぬか?」


「名古屋の名物は味噌カツと聞いたことがあるけれど、節約癖の靖子さんは許してくれるか分からないよ」


 そこで靖子さんは「今日は良いよ。座敷わらしちゃんに助けられたお礼がしたいからね。

 座敷わらしちゃん。何が食べたい?」


「何でも」


「じゃあ、名古屋名物の味噌カツを食べに行こう」


 名古屋駅周辺に味噌カツの店がある。

 とりあえず私達はそこに行った。


 店に入るとお味噌の香りが漂う食欲のそそる。

 お客は何人かいたが座れない程混んではいなかった。


「いらっしゃいませ」


 笑顔の素敵な女性の定員がちょうど四人座れるスペースに案内された。


 メニュー表を見て、ちょうどランチの時間で千円でここのオススメの味噌カツ定食があった。


「靖子さん。ランチにしようよ」


「千円かあ」


 もったいぶるように言う靖子さん。


「印税も入ったんだから少しぐらいは贅沢はしても良いと思うよ。それにお子さまランチ用の七百円の物もあるよ」


「仕方ないわね。もう贅沢はこれっきりにして貰うからね」


 そこで私とリリンは「「やった」」と言って、両手を叩きあった。


「座敷わらしちゃんもお子さまセットで良い?」


 すると座敷わらしはにっこり笑って頷いた。


 ああ、もうかわいいな。


 笑顔の素敵な女性定員に、大人用のランチ二つにお子さまランチ二つを頼んだ。


 待っている最中、何か調子が出て、創作意欲がいつもより増す。

 私はポメラを出し、靖子さんはスマホで絵を描いている。


 そこでリリンが「これも座敷わらしのおかげじゃ。みるみる力がわき起こってくるぞ」


 座敷わらしは気まぐれな妖怪だと言う。

 このまま座敷わらしが僕と靖子さんの娘として迎え入れたいが、やはり座敷わらしは気まぐれだから、いつかどこかに消えていってしまうかもしれない。

 だから座敷わらしの力にあやかるのは座敷わらしがいる間だけにしようと思う。

 何が言いたいかを言うと、座敷わらしがいてもいなくても気を抜かないようにしたい。


 私と靖子さんが座敷わらしに創作意欲をアップしてやっている最中に私達が注文してきた物が運ばれてきた。


「さて、いただきましょうか」


 靖子さんはスマホをおいて手を合わせた。

 私もポメラをおいてリリンも座敷わらしも手を合わせて「いただきます」と言って味噌カツを食べた。


 私が味噌カツを食べると超おいしく、思わず「うまい」と言ってしまった。


「本当においしいね座敷わらしちゃんにリリンちゃん」


 と靖子さん。


「「おいしい」」


 と座敷わらしとリリン。


 そんなご馳走を堪能して私達は店を出た。


「さて、創作活動と行きますか」


 私が言うと、靖子さんは「じゃあ、どこか人目のつかない喫茶店に行きましょうか」そう言ってスマホを取り出して、喫茶店を探す。


 すぐに見つかって、私達は入る。

 誰もお客の来ない喫茶店だった。


 ずいぶんと古く、テーブルやイスなど色あせている。


 マスターが「いらっしゃいませ」丁寧に言う。


「どこでも空いてますから、好きな席に座ってください」


 品の良い年老いたマスターに言われて私達はちょうど四人が座れる席に座った。


 すると座敷わらしが靖子さんに「遊ぼう」と言われて、靖子さんはこれから創作活動をしているのにちょっと苦笑いの靖子さん。


「座敷わらしちゃん。お姉ちゃんこれから大切な事をしなければいけないから後でね」


「ブー」


 不服を現す座敷わらし。


 困惑する靖子さん。


 そこでリリンが「座敷わらしよ、あまり靖子を困らすでない」


「ブーブーブー。さっきあたしが敵に囲まれたとき助けたじゃん」


「んーー」


 困惑しながらどうしようか考える靖子さん。

 確かに名古屋の駅に到着したとき、サタンに呪われし者に襲われそうになった時、助けられたっけ。

 力は私達よりもあるが、根が子供な座敷わらしだった。


「じゃあ、座敷わらしちゃん。私と一緒にお絵かきしましょう」


「うん。する」


 ナイスアイディアだ。

 一緒に絵を描くことをすれば、靖子さんも創作活動に打ち込めるし、座敷わらしも楽しむ事が出来る。


 そして早速私達は創作活動が出来る。

 さらに座敷わらしの力の恩恵も得ることが出来る。


 だがすぐに座敷わらしは絵に飽きてしまい、「靖子お姉ちゃん。お絵かき面白くないよ」


「ちょっと待って、今良いところだから」


 すると座敷わらしは癇癪をおこして靖子さんのスマホを取り上げて地面に叩きつけてしまった。


 さすがの優しい靖子さんも堪忍袋の緒を切らして「座敷わらしちゃん」と言って座敷わらしの頭にげんこつを与えてしまった。


「うわーん」


 と小さな子供でも滅多に見せないような泣きっぷりだ。

 そう泣きながら、外に出ていってしまった。


 靖子さんはスマホを拾って、「ちょっとやりすぎたかしら」と反省する。


「あれで良いのじゃ。我らは座敷わらしに頼らない方が良い。我ら自身で強くなって行くしかなかろう」


「スマホは大丈夫だったの?」


「ええ、私のはちょっとやそっとじゃ壊れるようなスマホじゃないからね。

 それよりも座敷わらしちゃんに悪いことをしちゃったね」


「ちょっと外に出ようか、そんな気持ちじゃ良い絵も描けないだろう」


 私が言うと靖子さんは「そうね」と複雑な気持ちだ。

 靖子さんが元気ないと私もテンションが上がらなくなる。


 外に出ると、店の外の隅で座敷わらしがうずくまって泣いていた。


「座敷わらしちゃん」


 靖子さんが優しく声をかける。


「靖子、あたしの事が嫌いなんだ」


「嫌いじゃないわよ」


「嘘だ!」


 恐ろしい形相で私達に訴える。


 そんな時である。


「その憎しみもらった」


 とサタンの声が聞こえてきて、座敷わらしに真っ黒なオーラに包まれた。


 そこでリリンが「サタンの奴、座敷わらしの憎しみを餌に座敷わらしを呪われし者に変えようとしている。座敷わらしを敵に回したら我らに勝ち目は無いぞ」


 そこで靖子さんは座敷わらしの間合いに入ってエナジードレインで座敷わらしの憎しみを吸収しようとしたが、座敷わらしのパワーはすさまじく、靖子さんは吹っ飛ばされてしまった。


「靖子さん」


 靖子さんの元へ行き、靖子さんは「私は大丈夫だから。それよりも座敷わらしちゃんを・・・」


 とても大丈夫じゃない。それでも相手の座敷わらしの心配をする靖子さん。


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