愛する靖子さんへ
私達は回転寿司屋に入った。
お客はパラパラいて丁度二つ席が空いているところがあり、そこにリリンと共に座った。
「雅人よ。我はタマゴが大好物じゃ、早速取らせて貰うぞ」
私達の前に丁度タマゴが運ばれてきた。
リリンはタマゴを受け取り、早速口にほうばった。
「ふむ、雅人よ・・・これは案外・・・いけるかも・・ひれるぞ」
「ああ、喋るか食べるかどっちかにしてよ」
私は一番安いマグロの赤身を取った。
早速醤油をつけて食べてみると、おいしい。
本当は靖子さんと料理を食べるのが一番良いが、私は靖子さんみたくおいしい物は作ることが出来ない。
靖子さんがさらわれたと言うのに、こんなご馳走を食べていいのだろうか?
「雅人よ。何を辛気くさい魂をしておるのじゃ」
とリリンに言われて、リリンは人の魂を見ることが出来ることを忘れていた。
あまり心配かけない方が良いかもしれない。
だから私はたくさんおいしい物を食べてテンションを上げるために努めた。
そうだ。僕が辛気くさくしていると、靖子さんを助けることが出来ない。
今は非常事態だが、おいしい物を食べてリリンに創作意欲の魂を味らわせて、どんどん力をまして貰うことにしよう。
その為にはおいしい物をたくさん食べよう。
私が六皿でリリンが八皿を食べた。
ちなみにリリンはすべてタマゴだった。
お会計は二千円前後で済んだ。
「丁度お腹がいっぱいになったことだし、そろそろ寝どころを探そうか」
ここ新小岩には健康ランドがあると聞きつけてそこに行くことにした。
行くには送迎バスが通っており、その送迎バスに乗り込んだ。
私の呪いは解けた物の、私を狙っている奴らが居ることを忘れてはいけない。
健康ランドに到着して、私とリリンは共に男湯に入った。
「良い湯じゃのう」
リリンはお風呂に入り、長い髪を結いで入っている。
「本当だね」
「風呂から出たら、雅人の創作意欲を我の魂に増幅してくれ、その方が靖子を助ける手がかりを見つける事が出来るからな」
「うん」
本当はこんなのんびりとはしていられないが、創作意欲をリリンの魂に灯して上げれば靖子さんを助ける手がかりを見つけられる。
そう言えば、リリンの話によると靖子さんは西に向かっていると聞いた。
でも正確な位置は分からない。
その為には私がリラックスして創作意欲をリリンの魂に灯すことになる。
「さて、良い湯じゃった、雅人よそろそろ出て、創作意欲を我の魂に灯すのじゃ」
「うん」
寝室に行き、私はリリンに創作意欲をかき立てるために創作をうつ伏せになってやった。
私はもっと書いていたい。面白い小説を書いていたい。
書いている途中リリンから白いオーラがわき起こっていた。
「おお、雅人よ力がみなぎってくるぞ」
その白いオーラに浸っていると、創作意欲が何倍もの力が増していく。
これは凄い、もっともっとリリンの魂に創作意欲を灯して上げられる。
キーボードの手が止まらない。
次から次へとアイディアが生まれる。
まるでリリンの白いオーラに包まれて、私までリリンが私の創作意欲で魂を灯しているように、私の創作意欲の魂に灯されている感じがする。
僕とリリンは互いに魂の向上している。
気持ちがいい。
この調子で行けば、奴らを一掃出来るかもしれない。
だが、アケミの憎しみは無限大。
私を不幸のどん底に陥れるのを嗜みにしている。
靖子さんを助けるにはまだまだ力が足りないのかもしれない。
だからもっともっと無限の魂をリリンとこうして互いにふれ合って魂の向上に努めている。
もっとだ。もっともっと。魂の向上を。
気がつけば私は眠ってしまった。
リリンに起こされ私は目が覚めた。
「おはようリリン」
「雅人よ靖子の居場所が分かった」
「本当に?」
「今すぐに支度しよう」
「うん。分かった」
健康ランドにて、貴重品をロッカーにしまい込んでいるので、それを取り出して、出かける準備をする。
「さあ、リリン準備は出来たよ」
「よし早速靖子のところまでワープをするぞ」
「ワープは力を使い果たしてしまうんじゃないか?」
「それには心配いらぬ、昨日雅人と共に魂を向上をしあったからな」
「そうかじゃあ」
そうだ。昨日私とリリンは魂の向上しあって、まるでレベルアップをした感じだ。
「じゃあ、行くぞ。我につかまれ」
言われたとおりにリリンの手をつかんだ。
そしてワープした。
ワープした辺りを見てみると、どこかの廃ビルであり、正面の壁に靖子さんが下着姿のままで手と足を手錠のような物で縛りつけられていた。
「靖子さん」
僕は走って靖子さんの方へ向かおうとすると、ビリリとケッカイみたいな物に遮られている。
「やはりそう簡単には行かないか」
「リリン、このケッカイを解く方法は?」
「分かっておる」
リリンは光の玉みたいな物を召還して、ケッカイの方へ投げつける。
するとケッカイはガラスが割れたかのような激しい音を出して、ケッカイは破れた。
「靖子さん」
靖子さんの元へと行くと今度は手錠を外さなくてはいけない。
「リリン、手錠の外し方だけど、どうにかならない?」
「任せておけ」
リリンが靖子さんの元へと行き手錠を外した。
靖子さんの胸に耳を当ててみる。
ドックンドックンと心臓の音が鳴り響き、安堵の吐息を漏らした。
「靖子さんは生きている。
靖子さん。靖子さん」
と揺さぶると靖子さんは目覚めた。
「雅人さん?」
「そうだよ雅人だよ」
「そう雅人さんなんだ」
するとリリンが血相を変えて、「雅人、靖子に近づくな!」
「エッどうして!?」
すると靖子さんは私の首を掴み上げた。
「や・す・・・こ・・さん!?」
靖子さんの力はものすごい物だった。
このままでは首を絞められたまま死んでしまう。
「雅人」
リリンが私の名前を呼びながら、何かに操られている靖子さんに体当たりをした。
靖子さんは吹っ飛んでいき、私は首を絞められた手から解放された。
「そ奴は靖子であって靖子ではない。
おかしいと思ったのじゃ。アケミとリリスがこうも簡単に靖子の居場所を特定させ、見つけさせることを」
すると頭上から何か降ってきた。
激しい音と共に落下した物は四角い鉄格子であり、私と靖子さんとリリンが閉じこめられてしまった。
背後から声が聞こえてきた。
「あっはっはっはっ」
振り返るとアケミの笑い声とリリスの姿であった。
「こうも簡単に罠にかかってくれたか」
「アケミ!リリス!」
そこでリリンが、それよりもこの鉄格子から、逃れた方がよかろう。
そう言って、鉄格子に体当たりをして打ち破ろうとリリンは試みたが、リリンは鉄格子にかけられてある電流みたいな物にかかり気絶してしまった。
「リリン!」
「さあ雅人よ、愛する者に殺される姿を見せてみよ!」
アケミはあざ笑いながらそう言った。
愛される者に殺されるなんて・・・。
「雅人さん」
まるで靖子さんは壊れた人形のような出で立ちだ。
私を殺そうとしている。
「靖子さん。目を覚ましてよ!」
「雅人さん。愛しているわよ」
ダメだ。私の言葉は靖子さんに届いていない。
靖子さんはじりじりと私の方にその手を差しのべて、ゆっくりと近づいてくる。
リリンも気絶してしまった。
絶体絶命のピンチだ。
靖子さんを殺すわけにも行かず、壊れた人形のような靖子さんに気絶して貰おうと思ったが、今の靖子さんは異様な力を持ち、私の力では太刀打ちできない。
「さあ、どうする?ま・さ・と・さん」
アケミがほくそ笑みながら私にそう告げる。
本当にどうすれば良いんだ。
ならもう覚悟を決めよう。
私は靖子さんを殺すことは出来ない。
リリンは気絶している。
私はここで靖子さんに殺される覚悟を決めよう。
現実は小説よりも奇なり。
本当にそうだ。
これが私の前に訪れた現実だ。
もう回避不可能だろう。
アケミにあんな事をしなければ良かったんだよな。
あの時の自分が悔しい。
貪欲で小さな子供でも滅多にしないわがままをしたんだよな。アケミに対して。
その結果がこれだ。
下着姿で壊れた人形のように私を殺そうとしている靖子さん。
鉄格子の電流のショックで気絶しているリリン。
それらの姿を見てニヤリとほくそ笑むアケミ。
今度こそは幸せになれると思って夢を追いかけたのに、結果がこうじゃな。
私がこのまま死ねば今の状況よりも辛い地獄が待っているってリリンは言っていたな。
それでも良いよ。
この状況を打破するにはどうすることも出来ない。
私は天国には行けない。
昔から私はだらしなく、良く学校ではいじめられていた。そんな連中を見返すために大学受験を志した。でも受験中にアケミに恋をして、振られて勉強が出来なくなり、アケミに恐怖心を与えるためにストーカー行為をした。
そして時は経ち、大学受験の事で不快な思いをした記憶を吹き飛ばして、小説家になろうとした。
小説家になって今度こそみんなを見返してやろうと思ったら、アケミの回し者に、私のバイト先まで来て、私を精神的に追いつめ、自殺させる事を決意させた。
私は青木が原樹海で死のうと思ったが、そこでリリンと出会った。
私は死にたくなかったんだ。
だからあの時、リリンが現れて、私はリリンと契約を交わした。
契約って言うけれど、いったい何なんだろうな?
それにその契約とやらも果たせずに地獄に行ってしまうのか?
それと私にも春が来たと思ったら、今ここで下着姿の靖子さんに殺される事になってしまった。
皮肉な物だよ、愛する者に殺されるなんて。
「靖子さん。正気に戻ってよ。私の一生のお願いだよ」
「ま~さ~と~さ~ん」
およその見当は付く、きっとアケミに頼まれてリリスにそう操ったんだろうよ、靖子さんを。
やっと靖子さんを助けられると思ったら、今度は靖子さんを操り、私とリリン共々殺す腹かあ。
本当に私の人生はついていない、それでここで殺されて、この状況よりも辛い地獄が待っているんだな。
「ま~さ~と~さ~ん」
と言って靖子さんは壊れた人形のように襲いかかってきた。
私はそんな靖子さんを抱きしめた。
「あっはっはっはっ。何を血迷っている、リリスの邪念はその程度の物では解かれることはない」
アケミのあざ笑う声が響いた。
だったらもう良いよ。
「ち、力が」
「あっはっはっはっは、呪われし靖子よ、エナジードレインで雅人の命がかれはてるまで、吸い尽くすのだ」
アケミが言う。
「わ・たしは死にたくない。靖子さん・・・どうか・・・目を覚まして・・・」
意識が遠ざかっていく。
「私の抱擁は無駄だったのか?いや、こうして愛する者に殺されるのも悪くはないな。
この私と靖子さんの物語を小説にしたら、ノーベル賞物だな」
そこで私のポケットからスマホを取り出して、靖子さんの描いたイラストを見せた。
私の物語なら、ここで靖子さんは目を覚ますはずなんだが、そうも行かないみたいだな。
本当に現実は小説よりも奇なり。
力を吸い取られながら私は叫んだ。
「奇跡よ起こってくれ!」
するとリリンが立ち上がった。
「靖子よ、もうそれくらいにして貰えぬか?」
「リ・リ・ン・ちゃん!」
靖子さんは僕を放して、呆然と考えている仕草をした。
「ええい、何をしている呪われし靖子よ。祖奴らを早く殺してしまえ」
なぜか狼狽えるアケミ。
私の願いが通じたのか?
靖子さんは電流の通った鉄格子を破ろうとしている。
「何が起こっていると言うのだ呪われし靖子よ」
「私は・・・誓った・・・何としても・・・雅人さんを・・・・命を・・・かけても守り抜くことを」
靖子さんが正気を取り戻した。
そして鉄格子は粉々に粉砕して、靖子さんは笑ってくれたと同時に倒れてしまった。
「靖子さん」
私も靖子さんに食らったエナジードレインが利いていてまともに動ける状態じゃなかった。
そこでアケミが「リリス」と叫び、リリスはリリンに襲いかかってきた。
リリンは死神の大鎌を召還して戦っている。
「リリスよ。なぜそのような憎しみを糧にして祖奴に肩を持つ」
「・・・」
リリスは黙ったままリリンの攻撃を与え続けている。
本当にそうだ。どうしてリリスはリリンの言うとおり、アケミの肩を持つのか?
アケミはリリスがいなければただの泣き虫な女だ。
つまりアケミはリリスを利用しなければ何も出来ない。
リリンはリリスを殺そうとはしていない。
リリンは大釜の峰でリリスを追いつめようとしているからだ。
だが戦いぶりを見てみると、リリスはリリンを本気で殺そうとしている。




