独りじゃない
夕食も終えて、回転寿司の値段は総額六千円になってしまった。
「リリンちゃん高いお皿ばっか取るからお金が凄いかかちゃったじゃない」
不機嫌な靖子さん。
「まあまあ靖子さん受賞金も入ったことだし期限なおしてよ、たまにはご馳走も食べたいじゃない」
「そんな事をしていたら癖になるからダメじゃない」
と怒られてしまった。
リリンはしょんぼりしている。
さらに靖子さんは「とにかく二人とも、今後はそういう事のないように」
そんな靖子さんを見て私は笑ってしまった。
「何がおかしいのよ」
「怒る靖子さん初めて見たから、何か嬉しくて」
「はあ、何をいっているの?」
「いやあ私は靖子さんの事をもっと知りたいから」
「・・・別にそんなに面白い事じゃないよ」
照れている靖子さん。
「とにかくリリンちゃん、めっ!だよ」
「すまぬ靖子」
「今後は気をつけるように。さて帰ったら創作活動始めるわよ」
「よし!お腹もいっぱいになった事だし、創作活動がんばるぞ」
私たちはご立腹の靖子さんと共に宿に戻り、創作活動を始めた。
今日は本当に良いことがあった。
靖子さんとリリンでお買い物をしたり、それに怒った靖子さんも見れて幸せを感じてしまった。
創作活動を始めると、私と靖子さんはキリッと態度が変わり、創作活動に身を固める。
その私達が創作活動をしている時、リリンは私たちの魂を感じて力を蓄えている。
靖子さんとの創作活動は私たちに幸せをもたらしてくれる。
気がつけば、夜深夜一時を回っていた。
「靖子さんそろそろこれぐらいにして、今日は眠ろうよ」
「そおね」
もうリリンは眠っている。
三人分の布団を敷いて私たちの子供であるリリンを真ん中にして私たちは眠りにつく前に、今日も靖子さんと一つになった。
ちゃんとスキンも用意している。
「靖子さん愛している」
「雅人さん、私もよ」
リリンが眠っているのを良いことに愛し合う私たち。
****** ******
必然的に朝はやってくる。
だが今日は雨であった。
「雨が降ると憂鬱になるよね」
靖子さんは窓際に立ちネガティブな事を言う。
「靖子よそんなネガティブな事を言っておったら幸せは逃げてしまうぞ。これは恵みの雨じゃ」
「恵みの雨と言ってもね」
思えばこの一週間恵みの雨とやらは降らなかった。
でもやっぱり靖子さん気持ちは分かる。
「靖子さんここでもう一泊していこうか」
「ダメよ。今日は札幌に行く予定でしょ」
「靖子さん札幌に何かあるのかい?」
「別に何もないけれども。こうしてまた旅費がかかってしまうじゃない。一刻も早く札幌に向かうよ」
「リリンはどうよ。今日は雨だけど、もう一泊、泊まっていっても良いんじゃないかな?」
「滞在するのは危険じゃ。また昨日みたいに私達を狙う奴らがやってくるかもしれない」
「じゃあ、昨日私達を襲おうした連中は・・・」
「そうじゃアケミの回し者じゃ」
「そういう事は早く言ってよ」
「すまぬ、雅人がまた悩んでしまうかと思って黙っておいた。我らは旅をしながら身を隠すしか方法はない」
リリンの言葉にアケミの言葉がリフレインする。
『あなたには居場所がない。あなたには居場所なんかない・・・・・』
恐怖で頭がおかしくなりそうだった。
するとリリンが私の右手をとり、康子さんが私の左手を取った。
「雅人お主は一人じゃないぞ」
「雅人さん。リリンちゃんの言う通りよ」
ヤバい涙が止まらない。
拭おうとしても二人に手を捕まれ涙を拭えない。
すろと靖子さんとリリンが私を抱きしめて来た。
「思い切り泣いて、それから思い切り笑いましょう」
「リリンも靖子の言う通りだと思うぞ」
すると自然と笑顔で涙目スマイルと言った感じだ。
「よし今日も旅をしながら創作活動頑張るぞ」
「その意気じゃ雅人よ」
「私達は雅人さんを一人にはさせません」
****** ******
新青森駅から青函トンネルを渡るため、札幌行きの電車に乗り込んだ。
電車に乗ると共に創作活動を始める。
きっとこの二人がいるから、創作活動が出きるのだ。
思い切り泣いて、思い切り笑う。
アケミ、私は一人じゃない。どんな手を使って来ようと私はお前なんかに屈したりしない。
そしていつしか靖子さんとリリンと三人で安心して暮らせる場所を探しに行く。
その為の旅何だから。
「いよいよ青函トンネルに入るよ」
わくわくしている靖子さん。
「青函トンネルを通るのは初めてよ」
「私もだよ」
「青函トンネルは世界で二番目に長い長さなんだって」
スマホを見ながら靖子さんは言う。
そして青函トンネルに入る。
「凄い真っ暗なトンネルね」
リリンが「人間が命がけで作ったトンネルじゃ。ここにも我にプラスになる魂を感じる」
「さて雅人さん、そんな青函トンネル中でも創作活動を始めましょう」
「うん」
真っ暗な長いトンネルは続くが私たちが創作活動をしている。
時間を早く感じさせるのは忙しさであると私は思った。
気がつけば青函トンネルを抜けて雨は降っているが、凄い爽快な自然豊かな函館にたどり着いた。
聞いたことがある。北海道の夏は色とりどりの花を咲かせて、爽快な自然を堪能できると。
「凄いぞ雅人、靖子」
「本当だね」
「北海道は札幌以外自然しかないところだからね」
リリンが「何じゃまた力がみなぎってくる」
「雅人さんリリンちゃん」
靖子さんが自身が書いた絵を私とリリンに見せる。
私はそれを見て、私もリリンではないが魂を感じる絵だった。
私が書いた小説の主人公とそのヒロインが仲むつまじく鮮やかな花に彩られている。
「凄い靖子さん」
「この絵には魂を感じる」
靖子さんが怪我したときに使い果たしたリリンが心配だったが、私と靖子さんの創作意欲ににじみ出る魂を感じて今では元気だ。
でもこれからが大変な時だと思う。
そんな時に靖子さんのスマホから着信が入った。
「前原さんからだわ・・・もしもし」
「本当ですか?」
前原さんから何を言われたか知らないが、何か朗報を聞いた感じだ。
靖子さんは「それでは失礼します」
「聞いて下さい雅人さんリリンちゃん。私たちの小説が二十万部を突破したしたそうです」
「本当に?」
「誠が靖子よ」
私たちは電車の中で喜びに満ちあふれて抱き合った。
「雅人さんまるで夢を見ているみたい」
そんな時リリンがテンションを下げて「雅人、靖子よ喜ぶのはまだ早いかも知れぬ、我らは狙われている事を忘れるでないぞ」
「分かっている。靖子さんも気を引き締めて、これから私達に何が起こるか分からないからね」
「分かっているよ。でも私は何かワクワクしているんだけれども」
「ちょっと靖子さん・・・」『それは不謹慎何じゃないか?』と言いたいところだが、正直私もワクワクしていることに気がついて、強くは突っ込めなかった。
そこでリリンが「また雅人と靖子の感じたことのない魂を感じる」
どうやらリリンはまた新たな力を宿した感じがしてきた。
こうなったら波乱よドンと来いだ。
私たちは最強の家族だ。ソウルメイトだ。
****** ******
札幌に到着して私達は堂々と電車を降りて、どこにアケミ達の回し者がいるのか気を張っていた。
もう雨は病んで寒さを感じる北海道も夏なので、暑さを感じる。
「北海道でも夏は夏なんだね」
私はハンカチでおでこに出る汗を拭いながら言う。
靖子さんが掲示板を見ている。
「どうしたの靖子さん」
「雅人さん花火大会ですよ今日は」
リリンが「花火とは何じゃ?」
「夜空に花が咲くような・・・こういう物よ」
掲示板に張られている花火の写真をリリンに見せた。
「これが花火か綺麗じゃのう。我も見てみたい」
「じゃあ今日は花火大会を鑑賞しましょう」
私が言う。
「その前に泊まるところを探さないとね」
とスマホでテントを張るところを探している。
もう私達はお金には困らないのでどこかビジネスホテルにでも泊まったらどうかと検討しようとしたが、靖子さんはそういうの癖になるからと言うだろうから黙っておいた。
もう私は靖子さんの尻に敷かれているのかもしれない。
「会ったわ。中央公園まで行けばテントが張れるわ」
早速中央公園まで足を運ぶ。
札幌って発展した街だなあと感心する。
「着いたわ」
テントを張っている人たちを見ると浮浪者ばかりであり、中には花火大会に向けて、座敷やらテントを張っている人たちも少なくない。
「結構込んでいるけれど大丈夫かな?」
「確保出来ない場所はないわ」
確保出来る場所を探し出し、確保完了。
「ここにテントを張るわ。二人はお昼の買い出しに行ってきて。その間にテントを張るから」
「いや靖子よ。一人になっては危険じゃ。じゃから行動は常に三人そろって行おう」
「分かったリリンちゃん」
靖子さんは本当に手際よくテントを張っている。
「手伝おうか?」
「大丈夫だよ」
ここは靖子さんに任せることにする。
しばらくして「出来た完成ね」
「じゃあ一休みしたらお昼ご飯の買い出しに行こう」
一休みをして私達はお昼ご飯の買い出しに向かった。
****** ******
一方その頃。
憎い憎い憎い憎い憎い。なぜあの男が幸せになるのよ。
あいつに絶望を味らわせたい。
「リリス、あいつ等はどこに行るの?」
「北海道札幌市にいる」
「こんなくそつまらない小説が二十万部も突破だなんて。私の人生を狂わせた雅人に絶望を味らわせたい。
リリス私の憎しみで奴らを地獄に送る方法はないの?」
「今は我の力ではどうにもならない。リリンはおろか雅人には何かしらの魔法のような物があるから、勝つ事は不可能よ」
「靖子という奴のスマホの電波もGPSもハッキングも出来ないなんて。あの靖子という奴は何者なの?」
「靖子は普通の人間だ。ただの知識人に代わりはない」
私はリリスの胸元を掴み、「何とかしなさいよ。もっと私の憎しみを吸い尽くしなさい」
私がリリスにはっぱをかけたら、リリスから赤いオーラがにじみ出てきた。
「そうよ。その調子で雅人達に迎え打つのよ」
「はい」
私のかわいい愛ちゃんが泣いている。
「どうちたのかな?愛ちゃん。お母さんはここにいるよ」
愛ちゃんを抱き上げて、「これは愛ちゃんを守る為でもあるのよ。だから泣かないで」
私の命よりも大切な物愛ちゃんは私があやしてあげたら泣き止んでくれた。
「よーちよーち」
雅人は私の子供を殺しに来る。
私を死に追いつめた雅人ならやりかねない。
待っていてね。私は愛ちゃんの味方だよ。
****** ******
お昼ご飯も終わって、夕刻になるまで創作活動に没頭していた。
私は少し行き詰まっていた。
「どうしたの雅人さん」
「ちょっと行き詰まってしまってね」
「どれ見せて」
靖子さんにポメラを渡す。
しばらく読んでいる姿を見て私は緊張する。
やっぱりプロになっても書いた物を面白いかどうか判定して貰うのはドキドキしてしまう。
「面白い。これ面白いよ雅人さん」
「本当かい?」
「うん。本当に本当、嘘なんてつかないよ」
靖子さんは嘘をつく人じゃないし、ましてや私に気を使って面白いなんて言ったりしない。
「すごいインスピがどんどんあふれかえってくるわ。この登場人物私と雅人さんとリリンちゃんの事ね」
「よく分かったね」
「さあこの熱が冷めないうちに私はどんどんイラストを書くわ」
そういって靖子さんはスマホのアプリを開いて書き始める。
私も創作意欲が心の底からあふれ出すように描き始める。
リリンは相変わらず私たちの創作意欲、いわばその魂を感じて力を蓄えている感じだ。
そう今回の作品は私たちの事をモチーフに書き始めたのだ。
私とリリンと靖子さんで旅をしながら創作していく物語だ。それを邪魔するアケミのモチーフも出てきている。
そんな創作意欲全快で書き始める。
本当に楽しい。
私たちが作業にうつっている時リリンが言う。
「感じる」
「どうしたのリリン?」
靖子さんもいったん作業をやめてそんなリリンに注目する。
「奴らの気配じゃ」
「またアケミ達が私達を狙って?」
「それしか考えられぬ」
さっきの勢いはどうしたのかと言うほど、私は狼狽えてしまった。
「ここを離れるか?」
「奴らはまた憎しみを持って現れるだろう」
そんな時、私の中で幻聴が聞こえてくる。
『あなたには居場所がない』
とリフレインされる。
それを振り払うように私はテントから出て人目もはばからず叫んだ。




