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死神様  作者: 柴田盟
第1章北へ
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ぼんやりとした時間を過ごして。

 どこからともなく声が聞こえる。


『お前には居場所なんかない』


『お前に幸せになる権利などない』


『お前には・・・』


「助けてくれよ誰か。ここはどこなの真っ暗で何も見えない」


 すると一筋の光が見えてきた。


 私は引き寄せられるように向かって行った。


 そこには靖子さんとリリンの姿が合った。


「雅人」「雅人さん」


 二人は両手を広げてこんな私を迎え入れる。


「私には居場所がないなんて嘘だよね」


 二人に言うと笑顔で首を縦に振った。


「私にも幸せになれる権利はあるんだよね」


 すると二人は首を縦に振った。


「ありがとう」


 と二人に近寄ると拳銃を向けるアケミの姿と黒いオーラにまとったリリスが私の前に現れた。

 二人は嫌らしい笑みを浮かべて私にじりじりと向かって来た。

 

「言ったでしょあなたには居場所はおろか、幸せになる権利さえない」


「うわわあああああああ」


 と叫びながら私は目覚めた。


「どうしたんですか雅人さん」


 靖子さんが心配そうに私の顔を見つめている。


「恐ろしい夢を見た」


「そうですか。雅人さん。恐ろしい夢を見ることは今まで無理をしてその疲れがとれた証拠です」


 靖子さんにそう言われても、もう眠るのが怖いほどおののいている。


「私がしっかりしなきゃ」


 すると靖子さんは私を抱きしめてくれた。

 何だろうこの温もりは、今まで感じたことのない暖かな温もりを感じていた。


「靖子さんも病み上がりだからあまり無理しない方が良いんじゃないの?」


「私の心配よりも自分の心配をした方が良いと思いますけれど」


「そうだよね」


「リリンちゃん眠っています。もしよろしければ・・・」そういって服を脱ぐ靖子さん。


「ええっ!」


「私達夫婦になった事だし、別にかまいませんよね」


 その日、私と靖子さんは初めて一つになった。


「靖子さんって処女だったんだ」


「私は昔いじめられた経験があってね。学生の時は恋いどころじゃなかった」


 ここで靖子さんの経験談を聞く。

 もしかしたらと思ったけれど、靖子さんにも暗い過去があったみたいだ。

 人とは馴染めずにいつも一人で絵を描いていた。

 将来画家になる事が夢だったらしい。

 美術校を受けようとした靖子さんは、試験当日にいじめられる人間に体育倉庫に閉じこめられて試験を受ける事が出来なくなったみたいだ。

 それで中卒扱いになり、高校すら行けなくなり、唯一優しくしてくれたおばあちゃんの喫茶店のお手伝いをする事になった。

 でも今思うとそれで良かったと言っていた。

 独学だけれども自分の好きな絵が描けたし、何よりも自由に出来たと言っている。

 そして靖子さんのおばあちゃんは亡くなり、一人になってしまったみたい。

 私達が現れるまで、残してくれたお店で生計を立てながら暮らして様々な絵を描いたと言っている。

 私達が現れた時に素敵な事が起こる予想はしていた。

 私もいじめられた経験があるので、靖子さんの気持ちは充分に分かった。

 もう私達は夫婦なのだからこれからはもっとお互いの事を知りあって行くつもりだ。


「靖子さん」


「はい」


「私はあなたを幸せにしますからね」


「もう充分幸せよ」


 裸のまま抱き合い眠りにつく前にお互い服を着て、明日に望むために眠りに入った。




 ******   ******




 朝起きて、靖子さんの姿が見当たらなかった。


「靖子さん?リリン靖子さんがいなくなった」


 リリンを揺さぶり起こそうとしたが、昨日力を使い果たしたせいか?起きようとしなかった。


「靖子さん」


「ん?どうしたの?」


 そんな靖子さんを見て安堵の吐息が漏れ「どこに行っていたのですか?」


「ちょっと買い出しにね」


 時計を見るともう九時を回っていた。


「私はこんな時間まで眠っていたのか?」


「昨日は大変な事が合ったんだし、今日一日はお休みした方が良いかもしれませんね」


「でも連中が」


 そこでリリンが「奴らはしばらくは我らに手を出す事はしないだろう」


「だったらリリンは安静にしていた方が良いかもしれないね」


「悪いのう。そうさせて貰うよ」


 眠るリリン。

 私は私が何者なのか聞くことを忘れてしまったが一度起こして聞こうとしたが止めておいた。


 本当に私は何者なのか?

 むしろ私はリリンに助けられたが、何かあるような気がした。

 あの時、何かしらの違和感にとらわれて、アケミが銃口を私ではなく自分に向けて発砲しようとした時にリリンは止めに入った。

 きっとリリンは知っている。

 でも力を使い果たしたリリンに聞くのは良くないと思って、リリンが元気を取り戻してから聞くことにする。


「お待たせ。買い出しに行ってきたよ」


「お帰り靖子さん。もう怪我は大丈夫なの?」


「この通りです」


 ガッツポーズをする靖子さん。続けて、


「盛岡は冷麺が有名だから丁度安い冷麺が入ったから、今作りますね」


「私も手伝いますよ」


「じゃあお願いね」




 ******   ******




 食事が出来上がりリリンも起こして朝ご飯にすることになった。


 靖子さんが作った冷麺はキュウリを刻んだ物や、ネギやトマトなどが添えられて、とてもおいしそうで栄養のバランスがとれた物に仕上がっている。


「リリンちゃんもどうぞ」


「おいしそうじゃのう」


 ここでリリンに私が何者なのかを聞こうと思ったが怖くて聞くことが出来なかった。

 これほど自分が怖いと思った事はなかった。


 食事も終わり、創作活動をしようとしたが、今はその気にはなれず、私は靖子さんに「ちょっと一人で考えたいから、今日の創作は靖子さん一人でしてくれないか?」


「どうしたの雅人さん」


 やっぱり心配されるよね。


「訳は話せないけれど、今は一人になりたいんだ」


 心配そうな視線を向けて、私は申し訳なく目をそらしてしまった。

 しばしの沈黙。

 そしてにっこりと笑う靖子さん。


「お昼には帰ってきてね」


「ありがとう」


 私は一人で公園を散歩した。

 ここ山に囲まれた自然豊かな物を物色しながら考えごとと言うよりもただぼんやりとしたかったんだ。

 毎日小説ばかり書いていて・・・まあそれはそれで楽しいのだけれども、たまにはこうして頭を空っぽにする事も大事だと思っている。

 それよりも私は何者なのか?

 アケミが自分に銃口を向けて、引き金を引こうとさせようと私はしていたのか?

 私にそんな力なんてない。

 私も靖子さんと同じように昔いじめられていた。

 小中高と私はいじめられる体質みたいで、よく言われていた。

 私を見るといじめたくなるって。

 成績も悪く、大学に行けばもっと楽しい事が合ると誰かから聞いて大学受験を決意したんだ。

 そして勉強に熱が入り、私はとあるフリースクールで勉強をしていた。

 そこで出会ったのがアケミだった。

 アケミに勉強を教えられ、凄く頼りになる教え方だった。

 彼女もフリースクールの生徒であり、ある先生に勉強を教えるようにしたのだった。

 彼女の教え方は上手で分かりやすく、その事を彼女が知ったら教えることに夢が出来たと言っていた。

 彼女はアケミは自分がいらない人間だと思っていたらしい。

 だがしかし、私は禁断の愛に目覚めさせられて、アケミに恋をした。

 それに気がついたアケミは私から距離を取るようになり、私はそんな事をされてアケミを憎み、それに気がついたアケミはフリースクールに来なくなってしまった。

 アケミの事で勉強に身が入らなくなり、勉強をしようとすると発狂して周りの物を壊すようになり、そしてアケミに嫌がらせをした。

 アケミのバイト先のコンビニに入り、帰り際に刃物を突きつけて恐怖のどん底に陥れてやった。

 それが楽しくなり、無言電話やつきまといをして嫌がらせを何度もした。

 そう思い出した時、私は幸せになる権利さえないのかもしれないと思った。

 だが私は罰を受けた。

 今アケミを憎しみがないと言ったら嘘になるけれど。

 アケミは暴力団の幹部に見初められ、忘れた時に彼女の復讐が始まった。

 私がバイトをしている時に嫌がらせをしてバイトを転々としてきた。

 その復讐に気がついた時、私は後悔して、ネットも電話も使う事が出来なくなり、私は急転直下で不幸のどん底に陥れられた。

『あなたには居場所なんかない』

『あなたには幸せになる権利すらない』

 と彼女に聞いたのではなく幻聴として聞こえてきた。

 そして私はノートに不躾に思いを書きつづり、その思いが小説家になろうと言う気持ちに至った。

 それからネット小説に投稿して色々な感想を聞いて私に書く意欲をわかせてきた。

 だがそれも長くは続かなくなり、アケミに妨害され、私の居場所はなくなり、樹海の中で死んでしまおうとした時に死神であるリリンと出会い今に至る。

 そして今では私には家族になった靖子さんと娘であるリリンがいる。


 真夏の太陽が暑い。

 それは幸せに生きる証拠でもある。


「雅人さん」


 背後から靖子さんの声が聞こえた。

 振り向いてみると靖子さんは誰をも恋に落としてしまう程の満面な笑みで私を見つめていた。


「そろそろお昼ですよ」


 靖子さんは私を幸せにしてくれるもう一つの太陽のような私の妻だ。


「分かった今行くよ」


 何だろう。創作意欲が今まで以上に沸いてきた。





 ******   ******





 お昼もすんでリリンの力はまだ芳しくないみたいだ。


 じゃあ早速創作意欲が増したところで、リリンの側に寄り添ってポメラを開いて小説を書き綴った。それに靖子さんもスマホのアプリで私の小説を読んでイメージを膨らませていた。


「二人とも我に力を施してくれているのだな」


 リリンがそういって体を起こす。


「ダメだよリリン眠っていなきゃ」


 私が言う。


「そうよ体調が悪いのにそんな事をしちゃ」


「我は大丈夫じゃ。我は死神だから風邪などひかぬ。それよりも我の源である魂を間近で感じられるのだからな。これ以上の至福はない」


 そこで私は自分が何者なのかリリンに聞こうとしたが臆病な私は聞くか否か考えさせられる。


 しばしの葛藤。


 聞くか否か?


 そして私は「リリン私は何者なの?」と最大限の勇気を振り絞って聞いてみた。


「・・・」


 黙り込むリリン。


「リリン!」


 そこで靖子さんが「ちょっと雅人さん。病み上がりのリリンちゃんにきつく問いつめないで下さい」


「雅人」


 リリンが複雑そうな顔をする。


「私はいったい」


 そしてリリンが「いずれ分かる時が来る」


 私達の間に沈黙が走る。


 そこで靖子さんが「心配いらないんじゃない?」


「フー」と溜息をついてしまった。


「雅人さん。溜息をつくと幸せが逃げてしまいますよ。そうならないように吐いた息を吸い込むようにして、スーッとやって見ましょうよ」


「スーッ」と息を吸い込んで「何ですかそれって」私が笑うと、みんなして笑ってしまった。


「さて辛気くさいのは嫌いです。だからこれからは穏やかに行きませんか?」靖子さんが言う。


「そうだね」


「そうじゃ」


 私とリリンは納得した。


「さて今日のお昼も盛岡特産の冷麺です」


「またですか?」


「雅人さん、文句は食べてから言って下さい」


 冷麺を盛った器を私に渡して早速食す。


「昨日と味が違う。これって味噌?」


「はいそうですよ。野菜もちゃんと食べて下さいね」


 そういって私が持っている器にトマトやらセロリなんかを盛りつけてくれた。

 本当に私の良い奥さんだと思う。





 ******   ******





 すっかり完食して、少し眠くなってしまった。


 リリンの言った事が気になる。

 私の正体は時期にわかると。


 その時は私はこのような幸せに包まれているのだろうか?


 悩み事を抱えて小説は書けない。

 そこまで私が何者なのかを気になって仕方がない。


 そんな時、私を抱きしめる靖子さん。


「大丈夫ですよ雅人さん。雅人さんは雅人さんです。私の夫です」


 優しく包み込むように私を抱きしめる靖子さん。


 しばし抱きしめられて悩みが遠のき、創作意欲が増してきた。


「ありがとう靖子さん。私は小説を書くよ」


 私はポメラを開いて、小説を描き、その背中合わせの靖子さんはスマホのアプリで絵を描いている。


 そんな時、靖子さんって私に似ているなと思えてくるのはお互いに幼少の頃のいじめを経験しているからだと思う。それ以外にも何かあるかもしれないが。


 色々と考えている時である。


 私達が使っているテントが何かにぶつけられたような音がした。


 何事だと思って外に出ると、素行の悪そうな男二人がニヤニヤと笑いながら私たちにいちゃもんをつけてきた。

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