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死神様  作者: 柴田盟
第1章北へ
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心地の良い魂

 リリンの後についていく、そして、すぐに国道に出た。


「えっ、もう到着したの?」


「ああ、汝はただ国道の付近をグルグルとさまよっていただけだ」


 損をしたと思ったが、案内して貰わなければ、樹海をさまよい餓死していただろう。


「それで契約って」


 するとリリンは私の方に振り向いて、真摯な眼差しで私を見つめる。


「簡単な事だ。いや簡単なようで難しい事かもしれんな、汝にとっては」


「何だよ。もったいぶらずに教えてくれよ」


「その肉体が滅びるまでまっとうに生きる事だ」


 確かにリリンの言う通り、簡単なようで難題な事だと私は思った。


「生きるって言ったって、僕にはどこにも行くところもないし、宛もないけど」


「その足と手があるではないか。神から貰った立派な物が」


 自分の手のひらと足を見てみる。

 少しだけ、私に生きる気力がみなぎってきた。


「そうだ。お主は生きるのだ。生きてその体を全うするのだ」


「リリンは私を助けてくれたのか?」


「確かに結果的にはそうなった。でも我はその手助けをしただけ、それともし、その命を粗末にするような事があれば、その汝の魂は永遠の苦しみに苛む事になるだろう」


 私は肝に命じた。絶対にこの命を全うすると。


 でも私にはもう行く場所がない。

 それはリリンの言うとおり、その足と手で探しに行くしかないのだろう。

 私は狙われた存在。この日本中に私の居場所は存在しないだろう。

 私がどこかに止まれば、あの女の関係する人間が現れ、死に追いつめてくるだろう。


 覚悟を決めるしかない。

 とにかく生きようと。

 生きて小説を書き続けようと。


「分かったよ。とにかく僕は行くよ」


 リリンから離れると、リリンは僕の後についてきた。


「何?」


「一年は我が汝の側にいる。我からのサービス期間じゃ」


 一つ息をついて、「分かった。好きにすれば良いさ」


 ここは国道だ。

 

 この樹海を横切る一本道の国道は少なからずに、車が走るだろう。


 少しお腹が減ってきたので、鞄の中をのぞき込もうとすると、気がついていなかったが、睡眠薬が入った瓶を握りしめていた。

 これを飲んだらリリンとの契約を違反して、罰を受ける羽目になるので、その場で投げ捨てた。


 改めて鞄を見ると、カロリーメイトが一つ入っていた。


 これを食べて空腹を凌ぐしかないと思って、取り出して中身を取り出すと、リリンはそれをじっと見つめていた。


「お腹空いているの?」


「・・・」


 黙っているが顔に書いてある。

 よっぽど空腹だと。

 私はカロリーメイトを半分取り出してリリンに渡した。


 リリンは袋の開け方を知らないみたいなので、私が「貸してごらん」と言って、中身を取り出してリリンに渡した。


 リリンはかじって租借している。

 よく見るとリリンはかわいく、実を言うと私はロリコン何だよね。

 この一年リリンは私の側に仕えると言っていたが、その間に妙な気に苛まれ、・・・・。

 やめよう。それは最低な人間だ。

 それこそ、人としてしてはいけないことだろう。


「おいしい?」


 コクコクと頷いて食べている。

 そんなにおいしそうに食べてくれるとあげた甲斐があったものだと私は思う。


 さて私も食べるか。


 食べてみるといつもと違っておいしく感じる。

 カロリーメイトってそんなにおいしかったっけ?

 と疑ってしまうが、空腹は最高のスパイスで、おいしく感じてしまうのかもしれない。


 ここで車が来るのを待ってヒッチハイクでもしようと思う。


 まさかあの女はヒッチハイクの車を手配して私を狙うような事はしないし常識的に考えてできないだろう。


 そう私には聞こえる。私の幸せを壊そうと自殺に追い込む彼女の薄ら笑いが。

 幻聴かもしれないが、あの女は本気だ。

 今まで、私の働く場所にあの女の関係者が現れて、何度も追いつめられたからな。

 そう考えると、私はリリンの契約を全うできるか、不安になってくる。


「そういえば、汝の名前を忘れてしまった。改めて聞く」


吉永雅人(よしながまさと)だよ」


「姓は吉永、名は雅人と来たか。ならこれからは汝の事を雅人と呼ぶ」


「別に良いけれども」


 そのまんまじゃん。


「それでは雅人は、これからは我の事をリリンと呼べ、分かったか?」


「はいはい」


「返事は一度でよろしい」


「はい」


 こんな幼女に上から目線か。仕方がない。命を助けてもらったのは確かだし、とにかくリリンの言うとおり、この命を全うしようと思う。


「それと雅人」


「何、リリン」


 するととろける位の甘い笑顔で、「馳走してくれてありがとな」


 かわいい。


 本当にかわいい子だ。


 今年で私は三十で、もし娘がいたら、この子位の年の子の娘を持っていたのかもしれない。


 そんなリリンのとろける笑顔を見て何か生きていけそうな気がした。


 国道に出たのは良いが、スマホの時計を見て確認しようと思ったが、スマホのバッテリーは切れていた。


 予備電源で充電して、待つしかないな。


 空を見ると真夜中で、瞬く星がきらめいていた。


 私の第二の人生の門出を祝ってもらえているような気がした。


「とりあえず、リリン、車がここを通るまで、待っていよう」


「なるほどヒッチハイクと言う奴か」


「その通り、とにかくこの国道をまっすぐに行けば町にたどり着くかもしれないが、かなりの距離があるからな」


「ならばとりあえず、町まで歩いてみてはどうだ?」


「それは体力的にも疲れるからな」


「ふむ」


 スマホの予備のバッテリーで充電したスマホが立ち上がった。


 時計を見てみると、午前二時を回ったところだ。


「何じゃそれは?」


「これはスマホと言って、これで電話したり、メールでやりとりする道具だ。私はこれでいつも、書いた小説をネットに掲載している」


「なるほど」


 と言ってスマホを貸してあげたが、本当に理解したのか?


 それと不思議とリリンといて小説を書く意欲が沸いてきた。

 でも私が書いた小説をネットに掲載すれば、連中に場所を特定されるかもしれない。

 そう思うと、書く意欲が萎えてきた。


「雅人」


「ん?」


「今雅人の魂に火がついたが、また消えてしまった」


 なるほど、この子は人の魂を見る事が出きるのか?

 そうリリンの言う通り、やる気が起きて、やる気が萎えたのだから。


「とにかく雅人、魂が求める物を追求して、その雅人の魂を燃え上がらせるのだ」


 そういわれて、やる気が満ちてきた。

 連中が何だ。

 とにかく私は書いて思いを伝える。

 それで私の小説を読んで少しでも生きる活力に変われば良いと思って、意欲が沸いてきた。


「そうじゃ。その調子じゃ」



 私の魂が見えているというのかリリンは?

 思えば、こうして人から鼓舞して貰うことは何年ぶりだろう。

 たいてい私の夢を聞いたらバカにされて、私の夢を壊されそうになった。

 周りにはそんな連中でごった返していた。

 だから私は夢を人に語ったりはせず、私の胸にいつもしまっていた。

 友達でさえも、私の夢をバカにして壊そうとした。

 そういう連中は甘い顔で近づき、そして心に隙ができたら、私に攻撃を加えて、精神的に追いつめて何度も殺されそうになった。

 でも今は違うような気がする。

 リリンに鼓舞されて、私は書きかけの小説の続きを書こうと意欲が沸いてくる。


 とりあえずここで少しだけ、書きかけの小説を書こうとパソコンを取り出して、起動させた。


「雅人、何だそれは?」


「パソコンと言っていつもこれで小説を書いている」


 するとリリンは僕に寄り添ってきて、背中合わせで私に寄りかかった。


「雅人の魂は、すごく暖かく感じていると我も気持ちが良くなってくる」


「そう」


 パソコンが立ち上がり、書きかけの小説を見てみると、その続きを書く意欲とひらめきがわき起こり、私はひらめきを駆使して書き、キーボードを叩いた。


 背中にリリンの温もりを感じて、不思議と邪魔とは思わず、むしろこうしてくれていると、何か書く意欲が増大してくる。


 思えば、こうして小説を描くのはどれくらい振りだろう。


 一ヶ月前だったっけ。

 追いつめられて、死を望み始めて、色々と葛藤の中、ここに来たんだっけ。

 本当にこの一ヶ月苦しかった。

 小説を書く余裕などなかった。

 いや書く気力すら失っていた。

 一ヶ月もスランプがあったと言うのに、今まで以上にひらめきが沸いてきて、次から次へとアイディアが浮かんでくる。

 こうして私が丹精込めて書いた小説を少なからず読んでくれる人はいる。

 私がこの夢を抱いた時、はっきり言って自信がなく、でも誰にも相談する人もいなくて、独学で小説を描いた。

 最初は大学ノートに不躾に書いていき、それを出版社に送り、酷評を浴びて落ち込んだりもしたが、それでも私はこの小説を書くことはやめはしなかった。

 一度本を出版に至り、一冊本に出来たが、百万以上の金額を出版社にぶんどられ、それが詐欺だと知ったのはその後の事だった。

 でも詐欺にあって傷ついても私は物語をつづり続けた。

 捗るときもあれば、そうでない時もある。

 辛くても書いていたい。

 そしてネット小説の事を知り、ネットに投稿して、いくつか感想をもらい、書く意欲が増大していった。

 私は書いて書いて書きまくる。

 思えば小説家になりたいというのは丁度十年前で、大学受験も失敗して、何もかも失い、気が付けば大学ノートに不躾に物語を描いていた。

 始めた頃は文豪と呼ばれるような小説家になってやると思ったが、世の中はそんなに甘くはなく、今では読んでくれる人が一人でもいれば良いと思って書いている。

 十年たってもこうして小説を描き続けて、読んでくれる人がいる。

 ただそれだけで充分だった。

 そういえばさっきリリンが私がネットに投稿した小説を読んで救われている人はいるとか何とか言っていたが、もしそれが本当でも嘘でも嬉しかった。

 とにかく書いて書いて書きまくる。

 そして一人でも良いから私の小説を読んで貰う喜びにふれていたい。はっきり言って十年たった今も、自信はない。

 でも書き続けたい。たとえ私が書いた小説が世に出なくても、こうしてネットでわずかな読者がいることに私は喜びを感じている。

 文豪になりたい、お金持ちになって家族を幸せにしたい、それで今まで私をバカにしてきた連中を目に物を見せてやろうと思って書いた日々もあったが、今はそんな事どうでも良かった。

 私が書くことをやめたら何もやる事もなくなってしまう。

 だから私はこうして書いている。


 どれぐらいかけただろうと、時計を見ると四十分でかなりの文字数を書くことが出来た。

 これほど捗った事は無かった。


 背中で感じているリリンに意識を向けると、リリンと目が合って、「どうしたの?」


「雅人の魂を感じていた」


「そんな事をして飽きたりはしないの?」


「いや雅人の魂を直に感じていて、我は気持ちが良い」


「それを聞いて嬉しいけれども、魂っていったい何の事を言っている」


「魂はどんな生き物にも宿るものだ。何か目的を達しようとすると、その魂は火が灯るように燃え上がる」


「魂って言っても僕はあまりそんな事は信じられないけれどもな」


「魂はどんな生き物にも大切な物だ。最初雅人と会ったとき、ひどく魂が傷ついたのが見えた」


「魂が傷つく?」


「そうだ。魂が傷つくと、何かを成し遂げようとする意欲も失われ、この世に蔓延る精神病と言った物になりかねない。

 魂はすべての生き物の中でもっとも大切な物。

 それに魂を燃やし尽くすには一人の力では出来ぬ。

 我が雅人に宿した魂に火を灯した。

 それに反応した雅人は魂を燃やし尽くして、そのパソコンという機械で小説を書いている。

 その雅人が魂を燃やして書く小説はきっと読む人に生きる喜びを与えると我は思うぞ」


「そんなの大げさだよ」


「大げさではない。現に我は雅人の魂に火を灯して、こうして我が近くで感じ、我の魂もそれに呼応している。我は嬉しいぞ雅人」


 魂の事は今一信じられないし、分からないが、確かにリリンに魂か何だか知らないけれども、鼓舞して小説を描く意欲がわき起こった。

 今まで誰かに小説を書く事を鼓舞して貰った事は無かった。

 じゃあどうして書いていたかって言うと、バイトしてその動かした後に小説を書くとスムーズに描けるようになっていた。

 同じ所で働く人の優しさや意地悪な事も、それらをすべて小説にぶつけていた。


 私は小説家になるだなんて誰にも言った事が無かったし、誰にも相談した事も無かった。


 だからこうしてリリンに小説を書く事を応援されて書いたのは初めての事だった。本当に意欲的になれる。


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